1・2でリン・メイコが病院に行っていたときの家の中の様子です。
~~~~
つまり、今までも。
そしてきっと、これからも。
<わんこ×にゃんこ.5-注意一秒>
「ルーカちゃーん」
春の風のような呼び声に扉を振り返ると、視界に綺麗な翡翠の色彩が映り込む。といってもここは肉食二人からの避難部屋のような場所だから、見失うような広さもないのですけれど。
「あ、ミクちゃん、…と、レンくん?」
私とカイトさんが逃げ込んでいた部屋の扉を開けたのは、ミクちゃんだった。ミクちゃんはよくこの部屋に来るから、さして不思議とも思わない。
ただ、その後ろで切なげに肩を落としている彼については流石に意外で、私は振り返ったその姿勢のまま無意識に目を見開いてしまう。滅多にこの部屋に来ない存在である以上に…
…だって、あれ?…レンくん、そんな殊勝な態度を取るような性格でしたっけ?
いかにも落ち込んでいます、と言わんばかりに垂れた焦げ茶の尻尾。力無くぶらつく両腕。いつもの元気一杯に想い人にとびついている姿とは随分な差がある。
「どうしたの二人共、というか主にレンくん」
私の思いを代表したようなカイトさんの質問に対し、レンくんは半泣きの声を出す。
「…ま、またリンにけがさせちゃった…」
―――ええっ、また!?
このところ、レンくんによるリンちゃん傷害事件が立て続けに起きている。
本人にそのつもりは全く無いのだろうけど、何分成長期を迎えてしまったせいで二人のポテンシャルは急速に開きを見せつつある。けれどレンくんはそれを考慮に入れずにリンちゃんに飛び付いていくので、結果としてリンちゃんが怪我をしてしまうことが増えた―――つまりはそういうことだ。
流石にそれを黙って見ているわけにもいかない…何しろ、実際相手に怪我をさせてしまったのでは、「元気で可愛い」で済まなくなってしまいますし。
ふう、と、隣でカイトさんも溜息をつく。
「レンくん、だから気をつけなきゃって言ったでしょ?僕らなんかよりレンくんは運動能力も純粋な力も遥かに高いんだから、今のうちに手加減を知らなきゃ無駄にリンちゃんを傷つけちゃうよ。特にこれからは洒落にならないんだからね」
こんな時レンくんに注意をするのはカイトさんかメイコさん。
流石、お兄さんとお姉さんです。ちょっと感慨深い。
レンくん自身も自省の思いが強いのか、大人しく忠告を聞き入れている。
「そうかもしんないけど…うー、リン~…」
ぴすぴす、と悲しげに鼻を鳴らす様子が余りに哀れで、私は思わずその頭に手を伸ばした。
ふかふか、まるでぬいぐるみみたいな触り心地。
…か、かわいい。けどもしかしてこれ、思春期の弟というより、赤ちゃんでもあやしているような気分が近いのでは?
なんとなく釈然としないものを覚えつつも、あまりそこは考えずに和みながら頭を撫でる。
と、不意に手に触れていた感触が固く強張った。
そして発せられる、少し低い呟き。
「…めだ」
「え?」
上手く聞き取れず、ユニゾンで問い返す私達三人。
今レンくんは、駄目だ、と言ったのですか?でもそれにしては文脈が…
頭の中にぽかりぽかりと浮かび上がる疑問符。
けれど彼は私達にそれを整理する時間は与えてくれず、突然弾かれたようにその場で飛び上がった。あまりに唐突な反応だったせいで、びゃっ、と私の羽毛も逆立つ。
―――な、何事!?
うろたえる私達を意にも介さず、レンくんは両手を固く握り締めて、思いっきり叫んだ。それはもう、 お隣りさんから苦情が来そうな勢いで。
「あ―――っ、ダメだあぁ――――!!リンに触りたいよ、もふもふしたいよ、お腹のやわらかいとこに顎乗せたいよー!リン、リンどこ!?うあああリン!リーン!短めの金髪をもぐもぐしたいよ、あのすべすべほっぺが触りたいよー!リンなんでいないのさ!よしちょっとリンの部屋に行って、リンの布団でごろごろしてくる!枕噛んでくる!深刻なリン欠乏症だよ、ううう、リン早く帰って来て!あっ、リンの部屋の鍵どこだっけ!?」
「「「待った!」」」
勢いよく部屋を飛び出そうとするレン君を、三人掛かりでなんとか引き止める。
ちょっ、い、いくらレンくんが純粋にリンちゃん不足なだけだとしても、流石にそれはしちゃいけないような事だと思います!
しかもリンちゃんは、自分のいない隙にテリトリーに入られるのが大嫌いなので、彼女が帰って来たときレンくんの好感度もしっかり下がってしまいますよ!レンくん、早まらないで!
けれどレンくんは大人しく捕まってはくれず、じたばたもがきながらきゃんきゃんと吠え続ける。
「離してー!俺はリンの布団で転がるの!リンの匂い嗅ぎたい!くああああっ、リンの味が足りないよー!」
「レンくん待って!それは流石にどうかなあ!?」
「そうだよ、今は私達とお話してよう?ねっ!?」
「すぐに帰ってきますから、それまでの我慢ですよ!」
「うきゅー、リ―――ン―――!」
いかにも駄々をこねるようにばたばたと振り回される手足、そして尻尾。
一応彼の年齢は14歳の筈だけれど…とてもそうとは思えない。この反応はどう見ても、欲しい玩具を我慢できない子供そのもの。
ただし身体能力に関しては歳相応なのがほほえましいというか、困ってしまうというか…いえ、正義感や責任感はきちんとある方なので、頼りにはなるのですが。
ひとしきり暴れて私達がぐったりしかけたところで、彼はようやく落ち着きを取り戻した。そして再びがくりと肩を落とす。
「…ああぁ、こんなんだからいつまで経ってもリンに振り向いて貰えないんだよね…俺だってリンの方から抱き着いたりお腹見せたりして欲しいのになぁ」
きゅーん、きゅーん、レンくんが鳴くたびにその尻尾は地面を叩く。
「力押しだからダメなの?それともやっぱり犬と猫だから、リン、嫌がってるのかなあ?何で俺猫に生まれなかったんだろ?…むーん」
むーん、で唇を尖らせるレンくんを見ながら、私は口を開く。
別に言おうという気も無かった事ですけれど、レンくんを励ます観点から考えてみれば、今言ってしまっても問題ないかも…そう思ったから。
「ええと、レンくんに関してはなかなか災難続きのリンちゃんですけど、私、ちょっとリンちゃんが羨ましくなるときもありますよ」
「羨ましく?」
くて、とレンくんが首を傾げる。
私はそれに軽く頷き、思うところを口にした。
「ええ、羨ましく。だって、種族を越えて愛されるなんて、まるで少女漫画の中みたいです」
私の言葉に繋げるようにミクちゃんも微笑む。
「だねー。それにレンくんの場合力押しが効を奏しているとこあるし、怪我させることさえ気をつけていればそこは問題ないんじゃない?最初あんなにレンくんを嫌がってたリンちゃんだって、レンくんの(空気を読まない)アタックのせい…でなくておかげで随分慣れてきたじゃない」
「そ、そっかな」
えへ、と照れるレン君。同時に内心を表したように、ぱたぱた、と尻尾も軽く揺れる。
昔の事―――
私は、この家では一番遅く貰われて来た。だから、リンちゃんとレンくんの出会いも知らない。
確か、二人とも生まれてすぐにこの家に来たと聞いたけれど…それくらいしか分からない。
―――ああ、でも確か、その当時はリンちゃんがレンくんを凄い勢いで嫌っていたという話もありましたっけ。あまり詳しくは知らないのですけれど、なんでもまだ実力は拮抗していた時期だったのでリンちゃんが圧勝したとか。確かレンくんは数日間ベッドから起き上がれなかったらしいですが…
記憶を紐解く。ミクちゃんが「まあ、どんな猫ちゃんでも尻尾噛まれたら怒るよね」と苦笑していたのも一緒に思い出せた。
確か、猫の尻尾は脊髄と繋がっているから痛覚は非常に鋭敏だったはずだ。知らなかったとはいえ、レンくんはなかなか凄いことをしたのだろう。
ああ、凄いというなら、そこまで手酷い反撃を受けていながら懲りずに突進するのも大概凄いような…
頭に浮かべるだけで苦笑してしまう。
「そうだレンくん、リンちゃんが帰ってくるの、玄関でお迎えしたら?」
少し気分が上向いたらしいレンくんに、ミクちゃんがそう提案する。
レンくんは気付いていないようだけれど、私とカイトさんはその裏にある考えをしっかりと読み取った。
確かにリンちゃんとレンくんの恋路はかわいらしい。
だけれど、その悩みやら反動やらをこちらに持ち込まれすぎても困る。つまり、端的に言うなら、フォローばかりするのは段々面倒になってしまう。
破綻の危険もない以上、あとは浮くも沈むも当人同士でやってほしいかも。そういうことだったりする。…なんだか、こういうとあまりな響きですけれども。
とにかく、私もカイトさんもその言葉に乗る。
「そうだね、それなら1番早くリンちゃんに会えるもんね」
「帰って来たリンちゃんにちゃんと謝れば怒りもとけると思いますよ」
フォローを重ねる度にレンくんの目が生き生きと輝き始める。
失礼な言い方ですが、純粋というか…単純というか。そこが良いところでもあると思いますが、将来誰かに騙されそうな気もします。ああ、でもリンちゃんがいれば平気ですよね。
「よーし、じゃあリン迎えに行ってくる!」
意気込んで駆けていくレンくんを見ながら、私達はそっと目くばせをしあった。
なんだかんだ言ってあの二人が相思相愛なのは明白なのですから、大抵の事は問題にはなりません。帰宅直後のリンちゃんにレンくんをけしかける形になりますが、ええと、その、多分大丈夫だと思います。愛さえあれば!……はい。
あの二人は二人でいるだけでお互いを補い合っているのだと思います。
勿論それはあの二人のペアに限った事はないのですが、特に顕著のような気がします。
例えば、言葉で諭してもレンくんは手加減を学び取ってくれませんが、リンちゃんを傷つけまいという心があればいつかはきっと…。そして願わくば、レン君の影響でリンちゃんが私達を獲物として見なくなってくれれば良いのですが。うう、
天敵ではありますが、同時に彼女は可愛い妹のようなものです。そして彼は弟のようなもの。
妹や弟の幸せを願う。
それはとてもこそばゆく、嬉しい事でありました。
…いえ、まあ、弟と妹が恋仲になるというのもなかなか珍しい事なのかもしれませんけれども。
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ご意見・ご感想
ゼロ鳶
ご意見・ご感想
レンの半泣き声生で聞きたい!
これまんがにしてーーーーーーーーーー!!!!!!
2011/04/28 21:59:21
翔破
なぜばれた…!?
この話ではないのですが、一応このシリーズの漫画や絵(つまりらくがき)を上げるつもりでした。近日中に。
大体出来ているので、この連休中には上げられるかと思います。
そうですね、リン欠乏症で半泣きのレンも描いてみようかと思います!
気に入って頂けるかは分かりませんが…
2011/04/28 22:14:26
紅華116@たまに活動。
ご意見・ご感想
レンのリンへの愛は深いですねww
怪我をさせてしまうほどにww
リンがデレればいいのに…と思いましたwwwww
鏡音は2人で1つです!!
さっさと結婚してしまえwwwww
2011/04/27 21:48:21
翔破
コメントありがとうございます!
リンもレンの気持ちは十分分かっているのですが、素直になれないだけなのです。
そしてこのリンちゃん、次でちょっとだけデレます。デレって言っても良いレベルかは分かりませんが…。
そうだそうだ、結婚してしまえ!きっとこの二人なら末永く幸せになると思います。
末永く爆発しろ!
2011/04/28 22:11:21
シベリア
ご意見・ご感想
リンとレンは犬とぬこでもくっついてほしいですね!
このシリーズ凄く癒される…(*´∀`*)
レンの気持ち分かります!
リンに触りたくったて、触れないのとか!
確かにシッポ噛まれたら怒りますよね…
兄さんになってこの二匹をずっと観察してたいですww
「何時結婚するのかな?」っていいながらwww
2011/04/27 16:51:10
翔破
コメントありがとうございます!
リンちゃんのおなかはふかふかしていて非常に気持ちいいそうです(レン談)。
是非ニヤニヤしながらご覧ください!
私の中ではこの二人は結婚します(キリッ
きっと愛が全てを解決してくれますよ!
2011/04/28 22:07:49
秋来
ご意見・ご感想
レン・・・
リン依存症すげぇよwww
何日も会えないわけじゃないのにw
レンリンのシッポ噛んでたんだ・・・
そりゃキライになるね・・・
でもレンがもっとアタックすればリンだっていつか心を開いてくれるさ!!!
頑張るんだ!
そして犬と猫の壁を越えて結婚するんだ!!!
2011/04/27 15:35:18
翔破
コメントありがとうございます!
レンとしては四六時中リンに隣にいて欲しいのですが、なにぶんリンも気分屋なものでその願いが叶いません。
ちなみにレンがリンの尻尾を噛んだのは「ふわふわしてて可愛い」と思ったからです。
悪気は無いのですが、何も分かっていないので意外と噛む力も容赦なかったりします。そりゃリンも怒りますよ。
今までの努力で意外と壁は薄くなっています。
どのくらいかと言うと、次の話でちょっとリンちゃんがデレるレベルです。
2011/04/28 22:03:12