日が傾いてオレンジに染まった空、部活の時間も終わり生徒がそれぞれ帰宅する声が聞こえていた。
「珈琲で良い?」
「あ、えっと…お茶で。」
「茶?珍しいな。」
前は何処かで心の拠り所にしていたであろうこの場所も、最近はすっかり足が遠のいていた。それは多分緋織にとって良い意味での変化なんだろうと今は思う。
「それで話って?」
珈琲を啜りながら聞いたが俯いたまま返事が無かった。
「真壁と喧嘩でもしたか?」
ふるふると首を横に振ると緋織は湯飲みの茶を一気にあおった。
「熱っ!」
「あーあー何やってんだ…コントじゃあるまいし。」
湯飲みを取り上げると緋織は涙目で、と言うか半分泣きながら蚊の鳴く様な声で言った。
「お父さんの説得手伝ってくれませんか…?」
「…あ…?」
「ふっ…うぅ…うぇ…。」
「泣くな泣くな、どうした?本部長が何?」
ソファに座り直すと緋織は何故か泣きじゃくりながら御茶請けの菓子を食っていた。
「食うか泣くかどっちかにしろよ…それで?本部長の説得に何で俺が?」
「…だって…お父さ…!は…なし…全然…聞かな…!れも…鈴夢…喧嘩…うぇえぇ~…!」
子供の様に泣いているのを見ると、また熱でもあるんじゃないだろうか心配になった。緋織の父親である倉式本部長、実際会って話した事は数える程だが冷静で常に公平さを重んじる真面目な人間だ、但し緋織の事以外での話だ。そして説得となると…。
「もしかして本部長に真壁との事バレて反対されたのか?」
「…はい…。」
「うーん、まぁアイツまだ学生だし親としては心許ないんじゃないか?ゆっくり説得するしか…。」
「そしたら先に赤ちゃん産まれちゃうじゃないですか!」
「ブバフッ?!」
予想の遥か上な言葉に盛大に珈琲を吹き出してむせる事数分、泣き止んだ緋織に改めて聞いてみた。
「…誰の?」
「お母さんです、今2ヶ月目に入った所だって今朝…。」
「紛らわしい言い方するなよ!お前が妊娠してんのかと思ったじゃねぇかよ?!」
「なっ?!何でそうなるんですか?!」
「身に覚えはあるだろうが。」
「…あ、ありますけど…。」
緋織は真っ赤な顔で俯くと再び菓子をボソボソと口に運んだ。どんだけ食うんだよ、もう菓子無いし…。
「つまりお前の弟か妹が産まれる前に本部長を説得したいって事か。」
「はい…子供の前で喧嘩したくないし、何よりお母さんも心配して身体に良くないと思って…。」
「成程ね、大体解った。」
「それでお父さんに言ったら合法的にぶちのめすから鈴夢連れて来いとか、侑俐さん離島の交番に島流しにするとか、先生にお見合いさせるとか言い出してホント困っちゃって…。」
「最後!最後俺入ってる!」
コメント0
関連動画0
ご意見・ご感想