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「博士、ドウシマシタカ」
病院の戸が開き、リンが無表情のまま中に入ってレンのベッドの隣にある椅子にちょこんと座った。
「いやぁ、一人だとどうも寂しくてね。リン、僕になにかメッセージは来ていないかい?」
「少シ待ッテ下サイ。…メッセージを受信します」
「えっ?本当にきたの?僕は誰にもアドレスを教えた覚えはないんだけどなぁ」
ならば何故聞いたのかというもっともな疑問は、遠く山々の向こうに投げ捨ててレンは小さく苦笑いをした。
なにやらぶつぶつと呟くような小さな声で読み込んでいるリンを見ていると、本当にあのときのリンが帰ってきたように見えてレンにはとても懐かしく思えた。
「発信者ハ『リン』、受信者ハ『リン』。件名ハ『未来のリンより』。メッセージヲ聞キマスカ?」
(リン…?)
その名前にレンは即座に聞くと答えてごくんとつばを飲み込んだ。
「ソレデハ、メッセージヲ読ミ上ゲマス――…」
それはまるで昔のリンを生き写しにしたように同じ声で、美しくも幼さもある、未来の天使からの歌声が――
「削除シマスカ、保存シマスカ?」
「保存して。リン、僕には今までに三つの奇跡が起こったんだ。何か、わかる?」
「…」
「一つ目の奇跡は君がこの世に生まれてきてくれたこと。二つ目は君と過ごせた時間。そして、今、三つ目の奇跡が起こった。未来の天使からの歌声。今、僕が作っている『心プログラム』はきっと、僕が死んでからでも完成する。そして君は完全な“リン”になる」
「完全ナ…?」
理解ができないというようにリンは首をかしげた。
「ケホ、ゴホ…!」
彼はすでに自分に死が迫っていることを悟り、リンをこの病室に呼び寄せたのだ。
彼にとって時間は無限ではなかった。生身の人間として生まれた彼はもうすぐ冷たい屍になってしまうが、カノジョにはまだ、分からない。どうにかナースコールを押して医師や看護師たちが入ってくると、リンはまるで何事もなかったかのように、その部屋を出て行った。
「リン…」
苦しい中で薄れ行く意識の中で、声にならないほどの声でレンはリンに手を伸ばしたが、リンは気がつかないままに病院を出て、研究室に戻っていった。
研究室には無論誰も居なかった。
彼はその後病室でゆっくりと看護師に見取られて、息を引き取ったというが、彼女にはそれを理解するだけのココロが無かった。
「博士?ドウシテ研究室ニイナイノ?」
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