「ゼェゼェ……ハァハァッ……」

 呼吸がまともにできない程の地獄である状況下のなかで、トスカーナ・マニアーコは歌を謳いあげた。大理石の床上で横たわり、その身を擽りの反動で痙攣させ、鼻水と涎を垂らしながらも絶叫ミュージカルを遣りおおしたのだ。

「ヌゥわぁッハッハッハッ!。どうじゃ! 妾のパニッシュハンドは苦しいじゃろッ?。ヌゥワッハッハッハッハッ」

 お仕置き魔法をしたリアーナ女王は、玉座の上で笑い転げていた。トスカーナの悶え苦しむ姿にお腹を抱え、涙を流しながら声高らかに嗤っている。

 そのような状況のなか、女王の左右を囲む魔術師の内、帽子を目元まで深く被った2人の者が今回のお仕置きについて会話を交えていた。

「うわぁ……また、はじまったよ。女王陛下の子どもじみた報復が……」と言うのは若い男性の魔術師Aである。

「マドハンドもどきの手を召喚して、擽りながら歌を唄わせるだなんてパワハラ以外の何ものでもないからな。労基に行って訴えたら勝てるやつだ」と声を漏らすのはベテラン魔術師の男性Bだ。

「けど、あれでしょう?。料理長は、自分より年下でドSな女の子に虐められたいヒトなんでしょ?」

「そうだ。トスカーナ料理長は、歪アリより歪んだ性癖の持ち主だ。女王陛下のオヤツでミスするのもわざとらしい……。ほらっ見てみろ、身体をピクピクさせても顔は歓びに満ちている」
 
「うぇ〜っ、ただの変態じゃないッスか……」

 男性魔術師の2人が言うには、どうやらトスカーナ・マニアーコは被虐的な体罰が好みのようである。

「では、トスカーナよ。自分の持ち場に戻るのじゃ。料理長がキッチンの規律を護らねばならんからな」

「はっはい、女王陛下……。ごっご褒美……じゃなかった……私はキッチンへ戻ります」

 こうしてリアーナ女王による料理長へのお仕置きが終わった。その後、彼女は玉座に座ったまま、1枚の黄色い羽を手に取った。

『パチッ!』と指を鳴らすと羽は一瞬だけ炎に包まれていき、黄色い豪華な扇子へと変化を遂げる。リアーナ女王は、扇子をパタパタさせて自らを扇いでいく。

「しかしながら、トスカーナの失態には困ったものじゃ。妾の楽しみである、オヤツの時間を台無しにしてくれるからの」

 愚痴をこぼすリアーナ女王は、忙しいお城生活に於いて“オヤツの時間”なる時間を大切にしているそうだ。国の政治に携わる職務を遂行するなかで、午後3時になるとジャッロ城に併設される教会の鐘の音が鳴り響く。その鐘の音はリアーナ女王にとって、至福の一時であるのだ。

 玉座の周りに魔術師たちを率いるリアーナ女王が休憩をするなか、彼女は“ある事”を思い出した。それは、魔導国家ジャッロにとって重要な外交のことである。

 リアーナ女王は、すぐさま自分の信頼する側近たちを呼び出した。

「ミスティークたちよ、妾の前に姿を現すのじゃ」

 ミスティークと呼ぶリアーナ女王……それは魔導国家ジャッロの王室に仕える、三大魔術師たちの総称である。
 女王自らがミスティークの名を喚ぶと、女王の間の扉が開いて2人の男性魔術師が入ってくる。

「女王陛下、このダニエラをお呼びでしょうか?」

 そう言って自らの名をダニエラと発したのは、女王の側近、三大魔術師ミスティーク、2番目の柱である、ダニエラ・ラグーザと云う名前の男性魔術師。
 ダニエラ・ラグーザの身体的特徴はまず、シルバーフレームの角眼鏡を掛けており、髪の毛はブラウンカラーのショートカットでセットしている。年齢は26才、魔術師としての能力は魔導学校を主席で卒業するほどの実力の持ち主。
 余談であるが、ミスティークのなかで攻撃魔法が得意であるダニエラ・ラグーザは、自宅に“エマ”と名付けたアルビノカラーのニシキヘビをペットにして飼っている。ダニエラは、お城勤務から帰ったあと、ペットの“エマ”に話し掛けるのが日課だそうだ。

 そして……もう一人、ミスティークと呼ばる魔術師の男性が女王の間へと入ってくる。

「お待たせ致しましたわ……女王陛下。このワタシ、イザベラが参りましたわよ」

 女王の側近、ミスティーク3番目の柱である男性魔術師の名はイザベラ・ロメと云う。イザベラ・ロメの身体的特徴は、他の男性魔術師に比べて肉体が筋肉質かつ、派手なレオタードに身を包み、他者とは一線を引くような格好をしている。
 イザベラは喋ると女性的な口調であるが、その声は独特の低く渋みを極めた男性そのものの声であり、聞く者を魅了させてしまう。年齢はダニエラと同い年の26才。
 魔術師としての実力は、同性を惑わせてステータス異常を引き起こす魔法が得意だ。余談であるが最近、ペットとして飼っていた、ソプラノインコが寿命で死んでしまい、自宅の鳥カゴが寂しいので新たなペットを探している。

「ダニエラとイザベラが揃って来たのじゃが、我が召使であるレオナルドはどこじゃ?」

 リアーナ女王は側近である2人の男性魔術師の他に、もう一人、三大魔術師ミスティークのメンバーである人物の名を挙げた。
 召使のレオナルド……その名を聞いたダニエラとイザベラは、リアーナ女王にこう答えていく。

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次話
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作者からのお願い。
三大魔術師のメンバーである、ダニエラ・ラグーザの台詞は小野賢章さんの声を脳内で再生してください。

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投稿日:2020/02/17 10:35:28

文字数:2,150文字

カテゴリ:小説

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