「貴方ってカワイイですよね。"甘いイタズラ"をすると、すぐに怯えちゃう」
≪trick・treat・kiss≫
「トリック・オア・トリート!!」
「はいはい、どうぞ」
俺が目の前の「緑」にお菓子を渡すと、「緑」は目をキラキラさせて喜びの悲鳴を上げた。
「緑」……否、俺の妹弟のグミとリュウトが、口々に思いの丈を言った。
「兄貴ー、ありがとー! マジ大好きー! でもやっぱレン君っぽいお菓子ってない?」
「あにきあにき!! ぼくあとねー、これのソーダ味がほしい!!」
「お前ら、いっぺんに言うな! グミ、レンみたいなお菓子なんてあるわけがないだろう?! リュウト、ソーダ味がほしいなら自分で買いに行け!! 俺はお前らの執事じゃねェェェ!!!」
俺がそう叫び終わると、隅で俺たちの会話を見てたリリィがフッ、と鼻で笑ってきやがった。
決めた。あいつには絶対お菓子あげねぇ。
そう心の中で誓い、視線を真正面に戻すと、案の定二人は口を尖らしていた。
「えー!! 兄貴僕たちの言ってること何気にわかってんだからいいじゃん!」
「あにきひどい……。おかしくれないやつには……」
──いたずらだー!!
リュウトとグミはそう叫ぶやいなや、「──えいッ」リュウトの懇親のタックルで俺は倒れこみ、続いてグミが「──ふっ」俺の耳に向かって息を吹きかけてきた。
「みゃあああああああああ!!!」
思わず攻撃に、俺はネコみたいな叫び声をあげてしまった。
「やーい! 兄貴ネコみたいー」
「ネコみたいー」
「ホントそーゆーの苦手だよねー兄貴ってー」
「ホントホントー」
「お、前、ら……」
「ゲ、兄貴立ち直り早ッ∑」
ゲラゲラと品のない笑い方で見下す二人に、ついに俺の怒りに火がついた。
俺は底知れぬ憤怒を胸にゆっくりと起き上がると、二人の顔はだんだん青ざめていくのがわかる。
──しかし、俺はもうひとり忘れていたのだ。
「──ふぅぅ」
「!! ぴみゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
二度目のリリィからの攻撃に、俺はさきほどよりも長く、煩いぐらいの悲鳴を上げたのだった。
*****
数時間後、俺たちインタネ家とクリプトン家で、クリプトン家内でハロウィンパーティーが行われた。
「トリック・オア・トリート!!」
「はいはいは~い! リンちゃんマジでカワイイからあげちゃうよ! カワイイは正義だも~ん!」
「えへへ~♪ グミ姉だ~い好き~!」
「僕も大好きだよリンちゃん!」
「…………」
「あ、レン君どうかした? さっきから不貞腐れてるけど……アメちゃんいる?」
「…………」
「えぇ~? レンはアメちゃん食べないよ~? アタシがもらうよ~!」
「そっかぁ、わかった。でもリンちゃん? そう簡単にはあげないよ~?」
「トリック・オア・トリート!!」
「きゃーもうカワイすぎ!! あげる! たくさんあげちゃう~!」
グミとリンが、見てるこっちが何故か恥ずかしい気持ちになる会話をしていた。
レンも一応そのグループに入ってる感じだが、会話に馴染めないのか顔に似合わず頬を膨らましていた。
……ははぁん、なるほどぉ?
「──レン、ちょっとこっちこい」
「……? なんだよがくぽ」
レンは訝しげな目で俺を見ながらも、ちゃんとついてきてくれた。
レンの部屋に連れて、誰もいないのを確認するとドアを閉める。
そして、いきなり確信に突いた。
「お前、グミのことが好きだろう?」
「なっ……!」
どうやら図星らしい。
顔が一気に赤くなり、ポーカーフェイスのレンには珍しい表情だった。
レンは顔を俯き、モジモジと女の子みたいに指と指でつんつんさせる仕草をしたまま黙り込んでしまった。
俺はだんだん調子に乗ってきたのか、自分でもニヤニヤしているのがわかる。
「バレバレなんだよ、あんなの『自分の姉に嫉妬している弟』にしか見えないぞ?」
「し、嫉妬なんか……! それに、──オレとグミ姉、付き合ってるし。リンも知ってる」
「なああああああああああ!!? マジで!?」
「マジで」
真顔で新事実を発表されたもんだから、もし何か飲んでたら確実に吹き出していただろう。
「お、俺知らないぞ……!」
「うん。今知ってんのそれぐらいだからね」
「真顔で言うなよ……」
「オレ、ポーカーフェイスだし」
「そりゃあそうだけど……」
そうか、こいつら付き合ってたのか。
それにしてもグミめ、何故それを俺に言ってくれなかったんだ……俺は何か嫌われるようなことをいつの間にかしたのだろうか?
「それじゃあオレ、もういくから」
「あ、あぁ。引き止めて悪いな」
「別に……」
そう言ってレンは部屋から立ち去ったのだった。
*Len*
「別に……」
オレはそう言って部屋から立ち去った。
それにしてもがくぽめ、オレをガキみたいな扱いしやがって……いや、実際ガキだけどさ。
でも、なんか仕返ししたいなぁ……そうだ。
──オレはこのとき、キモチワルイぐらいに口角を吊り上げていただろう。
「なぁルカ姉」
「なあに、レン君」
「ルカ姉にとってもいいこと教えてやるよ──」
*****
こうして楽しかったハロウィンパーティもいったんお開きとなり、俺はルカの部屋にお邪魔させてもらっていたのだった。
「ごめんなルカ、部屋にお邪魔させてもらって……女の子の部屋なのに……」
「構いませんよ。だって私たち付き合っているでしょう?」
「あぁ、それもそうだな」
俺はそう苦笑いをすると、ルカも「うふふ」と微笑んでみせた。
……もちろん、「うふふ」は決してヤンデレみたくではない。
「そういえばがくぽさん、私まだがくぽさんに言ってないことが……」
「ん?」
「……trick or treat! ……お菓子あげないと、悪戯しちゃいますよ?」
「…………」
──ヤダ何この子かわいい。
頬を赤く染めて、上目遣いで言うその姿は正に天使そのもの……ハッ! 危ない危ない。俺はあとちょっとで危ない世界に入るとこだった……。
「……あ、ま、待ってろ。今お菓子出す……あれ」
「?」
お菓子(っていうかアメ)を出そうとポケットを探るも、一つもなかったのだった。
おかしいな……確かにたくさん用意してたはずなのに……仕方ない。
「ごめん、ルカ。俺お菓子もうなかったわ」
「えぇ~! ないんですか~!」
「あぁ、悪い。また今度何か買ってきてやるよ。確か俺ん家の近くに新しいケーキ屋が……っておいルカどうした──」
子供のようにふてくされるルカは、俺が宥めている途中で突如ソファから立ち上がり、俺の元へと歩み寄ってきた。
そして、
──ペロッ。
「!? なっ、ルカ……!///」
「言ったでしょう? "お菓子がないなら悪戯するぞ"って」
「だ、だからって、お前……!」
突然ルカに耳元を舐められ、俺は怒った子猫のように飛び退けた。
そしてルカに睨みを利かすも、ルカは全く持ってびくともせず、寧ろニヤッと口角を吊り上げたのだった。
「ふふっ♪ そうですよね、だってがくぽさん……「そういうのに」弱いですもんねー?」
「なっ……! な、なんでそれを!?」
まさかグミがチクった……!?
いや、あいつはそんなことはしない……はずだ。多分。──いや、してるはずがない。と、信じたい。
では何故……?!
結局、頭の中で考えても答えを見出すことはできなかった。
「うふふ、ちなみにインタネ家の人ではありませんよー?」
「え……」
じゃあ誰が……?
インタネ家以外で、俺の弱みを知っている者はいないはずじゃ……
俺がそんなこと考えている隙に、ルカが黒い笑みでじりじりと迫ってきた。
「とってもいいもの見せてもらいましたよ? いやぁ、がくぽさんってあんな表情もされるんですねー」
「…………」
──ヤバイ、マズイ。
そう思ってはいるものの、ルカからこんなことをされるとは思ってもよらなかったのか、あまりのことに腰が抜けて動けなかった。
しかし少しでも距離をとるため、後ろ後ろへと後ずさりをする。──が、それも叶わず、右にデスク、左にベッドの間、後ろにはついに壁という、正に絶・体・絶・命。
それをさもチャンスかのように、俺との距離を縮めていくルカ。
「うふふ……」
さきほどとは大違いの不気味な笑みのルカは、ポケットからあるものを出した。
──桃色の3つの手錠。
「何で手錠なんか持ってんだよ!」
「あ、それはお気になさらず♪」
「気になるよ!」
「うふふ♪」
俺の目の前でしゃがみこむと、ふいにフッ、と耳に息を吹きかけてきた。
俺が「みゃッ!」と小さく叫んだ間に、右腕、右足とデスクの脚を手錠にかけた。
左腕、左足も今度はベッドの脚に同じように手錠をかける。
いよいよ自由がきかなくなった俺に、ルカが満足そうな笑みを見せた。
「ル、ルカ……」
「安心してくださいがくぽさん」
「ひゃっ……!」
ぺロリと耳たぶを舐められた。
「ハロウィンナイトは、まだまだこれからですから……ね?」
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