「どうしたの?なんかしょんぼりしちゃって」
美里課長は、ツナちゃんに声をかけた。
ナチュラル・ハウス・アディエマスの、開店前の売り場に、彼女はぼんやり立っている。

移動店舗「ドナドナ号」で売るための、クッキーを探しながら、
ツナちゃんは、なぜか元気がない。

美里課長は、彼女のポケットに入っていた、白いネコの帽子をとりあげて、
彼女の頭にかぶせ、ポンと軽くなでた。

●“商品が気に入らないよ”

課長のやさしい言葉に、ツナちゃんは顔をあげて、軽くほほえむ。
「...じつは」
顔を赤くして、話しはじめる。

「ドナドナ号のお客さんが、商品が気に入らないって言うんです」
「あら、クレーム?」
「男の方が、この間買ったハンカチが、水の吸い取りが悪いって言って...」
「あらー、そう。返品?」
課長は、腕を組んで、あごに手をやった。

「その方、前にも一度、気に入らないって言ってきたことが...」
ツナちゃんは、ちいさな声で言った。


●文句は、期待の裏返し

「クレーマー、か。このナチュラル・ハウスでもたまにいるわよ」
そばで聞いていた、お店のアン店長が口をはさむ。
「わがままいうなー!って、言いかえしたくなっちゃうわよね」
アンさんは、豪快に笑う。

「だめだめ、そんなことしちゃ。クレーマーはね」
美里課長は、ツナちゃんの帽子のネコ耳をぽんぽん、とさわって言った。
「商品に期待してるからこそ、いろいろ言うのよ」
アンさんと、ツナちゃんは、課長を見つめた。

「きちんと話を聞いて、誠意をもってお相手してあげなさい。そしたら...」
課長は人差し指を立てた。
「その男の人は、ツナちゃん、あなたのカスタマーになるかもよ」
「カスタマー?...お得意さん、ですか?」
彼女は、じっと考えた。

「わたし、がんばってみます」
ツナちゃんは、やっと笑顔になった。
「うんうん、頑張れ!もじもじツナちゃん。あなたなら、たくさんのカスタマーができるよ。ガッハッハ」
アン店長は、ツナちゃんの肩を強くたたいて言った。

美里課長は言った。
「アンさんは、もっとモジモジしてお相手なさい」(;-_-)ノ

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

玩具屋カイくんの販売日誌 (58) クレーマーと、カスタマー

★賛辞でもクレームでも、声が聞けるのはうれしいですよね。意見はお店の宝、なんていいますし。

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投稿日:2010/05/15 06:56:32

文字数:904文字

カテゴリ:小説

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