「Trick or Treat! お菓子くれなきゃいたずらしちゃうぞ!」

グミは、呆然と目の前の人を見つめた。
ミク、リン、メイコ、ルカ。
そしてミクは手に何かを持っている。

「……は?」
「っていうのを、一緒にやって欲しいの!」

メイコとルカはあきれたため息をついた。

「ごめんね……私たちまで引っ張り込まれたのよ」
「そうなの……というわけで、グミもよろしくね」
「……どういうわけよ」

グミの反論は意味をなさず、ほぼ強制的にミクに玄関を突破された。
そして衣装を押し付けられる。

「はい! これ着てね!」
「……もうあたし、17歳なのに……」
「私も16歳だから大丈夫! メイコさんなんか24歳よ! 気にしない気にしない!」

そしてグミが着たのは、妖精の衣装。
ミクはお姫様、リンは天使、メイコは黒猫、ルカは魔女だ。

「あー……キャラと一致させたわけね。しかし黒猫の服がやたらにセクシーなんですけど……しかも妖精露出多いんだけど……」
「そうそう! わーい着てくれた! グミちゃん可愛い!」

グミはため息まじりに、ミクを見た。



カイトとがくぽとレンは、三人で集まって机に突っ伏していた。

「……金、ねぇ」
「やばいな……」
「二人は稼げるからいいじゃん……俺なんて、お小遣いから……」

ホワイトデーの次に恐ろしい日。
それがハロウィーンである。

「……去年はミクが一人で暴走したんだよな……」

カイトがため息をつくと、がくぽは頷いた。

「グミは安心だけどな。無茶ぶり少ないし」
「僕も、グミと家近い方が楽だったな……ミクなんていたずらがハンパ無いからな……トリックオアぐらいのところでいたずらし始めるからな……」
「リンなんか俺と同じ家に住んでるからね。去年、俺にねだって大変だったんだからね。一日中」
「そうか……それも大変だな」

それから、三人で顔を見合わせる。

「今年は……どうなることやら」



「え、ちょ、ちょ、マジで!? これ着て歩くの!?」
「近所なんだし、いいじゃない」

グミが必死の抵抗を試みる。
が、ミクにはちっとも聞かなかった。

「……諦めな、グミ」
「これが宿命だよ」

ルカとメイコはもう悟りを開いたかのような顔でグミを見た。

「……何でこんなのと友達やってるかな、あたし」
「私が魅力的だか」
「ないわー」

でも渋々着いて行くあたりが、ミクが引き下がらないのを知っているグミらしい。

「誰の家行くの? まず」
「カイト兄ちゃん!」

グミはいつも被害に遭うカイトを思って、ため息をついた。
リンとミクがはしゃいでダッシュする横で、メイコとルカとグミは、盛大に苦笑して歩き出した。

「「「……しかも、寒いし」」」



「来たよ……」

カイトはチャイム音がしたとき、パソコンの画面に向かって呟いた。
さっき、女子がそろそろ来る頃だろうと解散し、三人で通話をしていたのだ。

『乙』
『頑張れ』

レンとがくぽも疲れきったような顔をしている。

「お菓子買ってある?」
『『ある』』

それで、お金がかなり無くなったのは暗黙の了解だ。

「あの我がまま姫だからな……」

カイトがぼそりと呟くと、がくぽが苦笑し、レンがぎょっとした。

『カイ兄そんなブラックだったっけ!?』
「いや……うん、疲れた……もう……今日だけは……」

その瞬間、連続チャイムが鳴り響く。

「ごめん、切るね。じゃあ」

カイトがドアを開けた瞬間、真っ先に目に飛び込んできたのはミクのお姫様の衣装だった。

「Trick or Treat!お菓子くれなきゃ……」
「あーはいはい、お菓子ね」
「ねーちょっと、最後まで言わせてよ!」

ミク以外の声が聞こえ、お菓子を取りに行こうとしたカイトがぎょっとして振り向くと、リンが目に入った。
それから、メイコとルカとグミも。

「……こんなにいっぱいいるの!? 買ってないよ!?」
「アイスでいいよ~」

メイコがさらりと言う。

「え、それは嫌だ! ちょ、待って、探してくる」

カイトはミク用に買ってあったお菓子詰め合わせの袋(二千円)以外にも、ハロウィン系のお菓子を全て引っ張り出すと、玄関に並べた。

「待て、袋とか一つしかないけど!?」
「バッグ持ってきたよ!」
「そんなの埋められるかっ!」

そのとき、メイコがちょこちょことカイトに向かって歩き出した。

「私たちは少しずつでいいから。ミクとリンに多めに配分してちょうだい」

カイトは小さく頷くと、特大バッグを持ってきていたミクとリンにお菓子詰め合わせの袋を、他の人に普通のお菓子を少しずつ渡した。
それからメイコを引き寄せる。

「……めーちゃん、黒猫可愛いよ。あと、ありがと」

メイコの顔が一瞬にして真っ赤になった。



「レン、がっくん。気をつけろ、ミク以外も来てるぞ」

女性陣が帰った後、カイトはレンとがくぽと通話を再開した。

『マジか……確かリンはやるって言ってたな……』
『カイト……まさか、グミもとか言わないよな?』

カイトは小さくため息をついた。

「何かもう全てを諦めたような顔して後ろにくっついて歩いてた。ルカもめーちゃんも」
『あー……想像つく』

その様子を思い出し、カイトはくすっと笑った。
あの三人も自分と同じ苦労役だ。
心の中で頑張れ、とだけ呟くと、がくぽに合わせてカイトは通話を切った。
すぐに浮かんだのは、メイコの黒猫姿だった。



「Trick or Treat!お菓子くれなきゃいたずらしちゃうぞ!」

ミクはがくぽの家の前に立ち、両腕を広げた。
お姫様の衣装をくるくると回って見せつける。

「……何かあれだな、去年より豪華度がアップしたような」
「そう! リフォームしたのだ!」
「ミクずるいー! ミクだけ褒めてもらうなんて!」

いや、褒めてないから。
がくぽは内心でリンの一言に反応した。
それから、ミクの前に現れたリンを見る。

「……? 天使……か?」
「そう! 天使!」
「あー、キャラだな」

リンはそれだけでご機嫌だ。

「で? お菓子くれるの?」

ミクはそれしか興味が無いらしく、がくぽにそう聞く。
がくぽはミク以外のみんなを見回した。

「そんなにねえよ……」

呟きながら、買ってあったお菓子をありったけ持ってくる。
カイトは量重視。
がくぽは質重視で攻めることになっている。
経済事情を考慮してのことだ。

「ほい、これ」

とりあえず、ミクに渡す。

「これ全部私のー?」
「いや、そんなわけないから。配分してくれ」
「えー」
「ミク! 独り占めはなしー!」

リンとミクで奪い合いになる。

「もらわなかった人はいたずらすればいいじゃん!」

ミクが突然そう言い出し、がくぽは後ずさりした。

「だから、それで全員分なんだって」
「私とリンでわけるぐらいしかないよ!」
「……まぁそれならいいか」

がくぽはゆっくりと息をついた。
そのとき、昔カイトがルカにされたことを思い出す。

「ちょ、待て! それ、ルカにもあげといて! あー……メイコとグミ……どうするかな……」

ミクとリンは顔を見合わせ、同じようにカイトのことを思い出したらしく、慌ててルカにお菓子を手渡した。
メイコは心無しかまだ紅い顔で、私は別に、と言う。
ミクとリンの視線が、グミに向いた。

「いたずら! トリックだよ!」
「グミ、いたずら!」

グミが一瞬にして狼狽える。

「え、ちょっと! 何考えてんのっ!」
「「いたずら! いたずら! いたずら!」」

いたずらコールをされ、グミは真っ赤になった。
涙目でがくぽを睨む。

「がく兄っ! お菓子ちょうだい! 恥ずかしいんだからさっさとしてよっ!」

がくぽは盛大に苦笑すると、ハロウィンは全く関係ないけれど最も高級なお菓子をグミに渡した。
苦労代という意味と、あとは……珍しく動転していたのが可愛かったという意味を込めて。

「これでいいか?」
「ありがとうがく兄っ!」

ダッシュで消えようとするグミを押しとどめる。

「別にいたずらでも、俺は構わないが」

それだけ言って解放すると、グミはさらに真っ赤になって、手に持っていた、カイトからもらったお菓子のうちの一つを力一杯がくぽに投げつけた。
がくぽは珍しく、おかしそうに笑った。



『うわーやだな……最後俺か……』
『最後って一番ねだられるもんねぇ』

もう完了したカイトはお気楽なものである。
レンは深刻そうな声を響かせた。

『で、がっくん、どうだった?』

カイトに聞かれ、がくぽは笑った。

「まぁ、楽に終わった方じゃないか。メイコに何もやれなかったが」
『あー……うん、まぁ、妥当な判断だね』

でも、グミで手こずるとは思っていなかった。
がくぽは再び笑った。
あんな手こずり方なら、歓迎だな。
それは口に出さずにとどめておいた。



「レン! Trick or Treat! お菓子くれなきゃいたずらしちゃうよ!」

リンが真っ先にレンに飛びつく。

「リン! ちょ、お菓子取りに行けないよ!」
「いいよ! むしろいたずらさせて!」
「えーーーーー! 嫌だよ、それはやめ……」
「レンも猫の格好してよ! ほらほら早く早く! あー私の、去年の猫のやつがあった!」

レンは問答無用で奥に引っ張って行かれ、半強制的に猫の衣装を押し付けられた。

「早くしないと私が服脱がすよ!」
「えーーーーーダメダメダメダメ!」

大急ぎで猫の衣装に着替え、レンが飛び出してくる。

「「レン可愛いーーーーーーーー!」」

ミクとリンが叫ぶと、レンに抱きついた。

「ちょ、ちょ、ちょ、」

レンは口をぱくぱくさせている。

「……お疲れ様」
「レンも大変ね……」
「わかるわ、同じパターンだったもの」

ルカとメイコとグミに口々に同情の言葉を投げかけられ、レンはがっくりとうなだれた。
そんながっかりしているレンを見て、リンはくすっと笑った。

「レン大好き~」

レンはまた口をぱくぱくさせ、言葉を探し続けていた。



後日談。

「レン……お疲れ様」

カイトのところには、ミクからレンの黒猫姿の写真が送られてきていた。
がくぽもそうだ。
その瞬間、レンが真っ赤になった。

「……レン? どうした?」

がくぽが聞くと、レンは首を横に振った。

「なんでもない……」

カイトがくすくす笑う。

「リンに何か言われたんでしょ、どうせ」
「…………っ!?」

カイトがよしよしと頭を撫でる。

「わかりやすくていいよね、レンは」
「あぁ、言えてる」

レンはカイトとがくぽを一発ずつ殴ると、その場にしゃがみこんだ。

「そういえば、誰が一番可愛かった!?」

レンが咄嗟にそう言うと、カイトとがくぽは顔を見合わせて肩をすくめた。

「「そりゃあ……」」
「めーちゃんでしょ」
「グミだろ」

再び顔を見合わせる。

「いや、めーちゃんの黒猫見たでしょ!? セクシー兼可愛かったでしょ!?」
「メイコも可愛かったが。いつも大人っぽいグミが顔真っ赤で動転していたのが……」
「めーちゃんだってギャップあったって!」
「メイコの仮装は大体予想がついたし。グミだってセクシー兼可愛かったって」
「いやグミちゃんはあれだから! まだ18歳だから!」
「だから可愛かったんだろ」

わーわー二人が言い争いをしている横で、レンはきょとんとしていた。

「「レンは!?」」
「……リンだと思うんだけど……」

三人はため息をついた。

「うん、タイプの問題だ」
「そうだな。セクシー系が好きか、可愛い系が好きか、その真ん中か」
「多分そうだね」

そしてカイトは肩をすくめた。

「あんなに我がまま言わなければミクも可愛いんだけどな……」
「というか、全員可愛かったよな。特に誰がかっていうと言い争いになるだけで」
「確かに」

そして三人は笑い合った。

「まぁあれだよね、恐ろしいイベントだけど、楽しいと言えば楽しいよね」
「うん。ホワイトデーよりかはマシ」
「仮装が見られる分だけね」

今度は普通の服を来た女性陣がチャイムをならしたところで、ハロウィンの回想は終わった。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい

Trick or Treat!

ハロウィンの話、、、
のわりに一日遅れたので、後日談込みで!

男性陣変態だな…

閲覧数:215

投稿日:2012/11/01 12:02:22

文字数:5,052文字

カテゴリ:小説

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