※これはウタP様の「花吹雪」と「風花舞」を独自解釈で書いたものです。ウタP様ご本人、及び楽曲「花吹雪」「風花舞」とは何の関係もありません。捏造満載で、歌詞に沿って書いていない部分も多数ございます。ご本家のイメージを崩されたくない方はお戻りくださいませ。
大丈夫という方のみ、スクロールで本編へお進みください。









桜散る木の元で。



『桜吹雪よ、舞い上がれ』



レンは、桜を見上げる。樹齢百を超えると、いつの日か聞いた。風が強く、花弁がはらはらと、はらはらと止めどもなく降り、黒いアスファルトの地面は淡い桃色に染まる。これを桜吹雪というのだろうか。綺麗だと、思った。難しい言葉も具体的な感想もでてこないかわり、ただ、単純に。
レンは視線を桜から別のものへと移す。そこにいる、自分の大切な。
「リン」
声をかけてもリンは振り向かない。この声は、届かない。
――僕は此処にいるよ。君の隣に。
同じ桜を見上げているのだ。
――ねぇ、泣かないで。
リンの眼からは大粒の涙の雫が、花弁に負けないくらいに止めどもなく零れ落ちる。悲しい顔は見たくなかった。けれど僕のせいだ。君が泣くのは。
――約束果たせぬ僕を許して――…



***



レンの家に1通の手紙が届いた。あの時の衝撃は今でも忘れられない。母は泣き崩れた。レンは何も言えずに立ち尽くした。絶望の淵に立たされている気さえした。いつかこうなることは分かっていた。けれどもどこか傍観者のように関係ないと思っていたところがあった。幸せな日々はずっと続くと。――しかし。
その手紙は。その色は。――紅かった。



桜のしたに恋人を呼んだ。言いたくはないけれど、何も告げずに発つことはできない。リンはいつもと変わらない笑顔で、何の話かと訊いてきた。
リンは、よく笑う人だった。唄うことが好きで、僕はその歌を聴くのが好きだった。いつもニコニコとした笑顔で優しい歌を唄うのだ。
そのリンの顔が、悲痛に歪んだ。
「…嘘」

嘘よ。こんなのは。悪い夢。早く覚めてよ。嫌。行かないで。
「…ぃや」
声が震えて、音にならない。泣いてしまいそうだ。
「嫌よ…。どう、して…!」
レンと過ごす時間が何より好きだった。出会ってから今までいつも幸せだった。ずっと一緒にいれるのだと思っていた。
どうして、どうして、どうして。
「国の為に、行かなきゃならないから」
自分の頬が濡れるのがわかった。
大嫌いよ。国なんて。そんなもの、いらないわ。レンを、私の大切な人を、連れていかないで。
「泣かないで、リン。大丈夫。絶対に帰ってくるから」
そう言って、レンは柔らかく微笑む。
嘘でしょう?そんなこと、できるわけないもの。
すると、レンは手を出してきた。小指を立てて。
「指切り。ね?」
ただのおまじない、そう言ってしまえばそこまでだけれど。
リンも手を出し、小指を絡める。お約束の呪文を唱え、手を離す。
離したくなかった。離せばレンは行ってしまう。時間が止まればいいのに。けれど時間が止まるわけもなく。レンはこの地を去った。



***



リンは桜を見上げる。レンと初めて出会ったのも、最後の約束をしたのも、この桜の下だった。花弁は、風に煽られるだけで儚く舞い散る。その儚さはまるで人の命のようだと思った。
幾千の夜を越えれば、レンは帰ってくるのだろうか。名を呼べば、言葉を紡げば、レンは戻ってくるのだろうか。…分かっている。本当は。
レンは帰ってこない。レンは戻ってこない。
代わりに私の元へ来たのは手紙。信じたくなくて、破り捨てた。手紙に記された事実をかき消すように。
会いたい、会いたい。それはもう叶わぬ願い。けれども。
「会いたいよ…」
それでも願ってしまう。涙は止まることをしらない。家族も、友人も、心配してくれた。早く元気な顔を見せないと、そう思ってはいるのだが、大切な人を喪った悲しさのほうが勝ってしまう。家に居ても心配をかけるだけで、それが嫌で飛び出して来た。行き先は考えていなかったが自然と足が動きここまで来たのだ。
大好きな桜を見上げ、瞳を閉じ、愛しい面影を瞼の裏に浮かべる。全てが「今」ではなく、もうただの「思い出」。
レン。レン。レン――…

「リン」
リンはハッと顔をあげ、辺りを見回す。自分の名前を呼ぶ声がした。けれどもこの木の下にいるのはリンだけだった。誰もいないこの場所に響く声。この声の持ち主を、知っている。
「…ン。…レン、なの?」
言って、即座に否定する。
そんなはずはない。あるはずがない。私は何を言っているのだろう。いくら会いたくとも、あの優しい人はもういないのに。
しかし。
「うん。…やっと声、届いた」
リンの呼びかけに、安堵したような、嬉しそうな応えがあった。ずっと、ずっと聞きたかったあの声。桜が作り出した幻聴だろうか。いや、それでもかまわない。
リンの頬を銀の雫が伝う。ぽろぽろと、ぽろぽろと次々に溢れてくる。リンにレンの姿は見えないが、それも、どうでもいい。会えたことが、声を聴けたことが、ただただ嬉しい。
「ごめん。約束、守れなくて」
レンの申し訳なさそうな声が聴こえる。顔が見えなくても彼はきっと…。眉を八の字に曲げて、目を伏せて、今にも泣きそうな顔で笑っているんだろう。嗚呼、なんて、なんて愛おしいんだろう。
レンが謝ることはないのに。悪いのはレンではない。それに。
「ううん、守ってくれたわ」
だってレンは。
「今ここに…私の傍に帰ってきてくれたもの」
そのことがとても嬉しい。なのに、何故だろう。リンの眼から流れるものは止まらない。嬉しい、はずなのに。今、話をできることが、それがたとえ幻だとしても。それは本当のキモチ。けれど、どこか寂しい。
温もりを感じられない。そこにレンの身体はない。話せるのに、触れられない。その身体を抱きしめることもできない。
そのことが、とても。寂しい。悲しい。
「リン…泣かないで」
「うん。でも、止まらないの」
止まれ。止まって。折角また話せたのに。
いくら願っても意に反して涙は零れ落ちる。拭っても拭っても、泉のように涙は溢れ出てくる。会えた嬉しさ、会えない寂しさ。入り混ざった感情は水となり流れる。
「リン、僕は君を見守っているよ。今までも…これからも、ずっと」
宥めるようにレンは言う。
「ぅん…っ」
「だから、笑って?」
レンからの最後の願い。リンは両手で目を拭う。
「うん…っ!」
笑うよ。笑顔で、送りたい。寂しさが、消えたわけではない。悲しさが、消えたわけではない。
けれどレンは見守っていると、言ってくれた。きっとその約束を違えず、守ってくれるだろう。
ならば私もあなたの為に今、唄おう。想いを乗せた鎮魂歌(レクイエム)を。
さようなら、愛しい人。ありがとう、大切な人。
最後に話せて良かった。
「見守って、いてね…!」
桜の花に包まれ、光にとけゆく命。どうか、安らかに。



***



リンは唄う。桜散る木の元で。
想いを歌に変え、空まで届くよう。想いを花に変え、天まで届くよう。
花よ。桜よ。私の想いを乗せ、…――舞い上がれ。



ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

桜吹雪よ、舞い上がれ【花吹雪・風花舞捏造】

とりあえず、何より先に、ウタP様にスライディング土下座をば。素敵な曲をこんなのにしてしまって申し訳ありませんー!(平謝り

こんにちは、ミプレルです。
コラボの企画で「複数視点に挑戦」ということで書きました。レン視点とリン視点になってるといいな…!入会して時点で残り5日しかない!な状況だったので短めです・汗
妄想と捏造で書き上げてしまいました。約束内容も時期も違うってどういうことだ…!?

それでは、読んで下さってありがとうございました。感想、アドバイス、誤字脱字の指摘等、お待ちしております。
ウタP様、読んで下さった貴方様に多大なる感謝を!それから色々と協力してくれた親友Yへありがとう!

閲覧数:850

投稿日:2009/11/28 21:08:57

文字数:2,953文字

カテゴリ:小説

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    ミプレル

    ご意見・ご感想

    銀翼紫苑様
    読んで頂いてありがとうございます。
    涙流して頂けましたか!
    ウタP様の曲にはいつも涙腺崩壊で泣いているのですが、どうも自分の小説では泣けなくて…
    そう言って頂けて安心しました^^
    私はこんな解釈で書きましたが、あくまで個人解釈であることはご理解下さいね。
    約束内容も約束をした時期も違うという捏造っぷりですので…^^;
    これが「正解」ではないのです(´・ω・`)

    それでは、コメントありがとうございました!
    またお暇でしたら、駄文ですけれども読んで頂けると幸いです^^

    2009/10/10 16:57:48

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