それはとても難しそうで近寄れなかった
間違った鍵では開かない扉に思えた
時間が迫っても迷ってる暇はなくて
考えていたら誰かに叱られる装置

88の中でどれがアタリか調べるゲーム
あなたが正解？君は不正解？どれだったっけ
端から端まで全部押したよあれ休符って？
88を100回200回1000回ミスなく当てよう

先生にも怒られるお母さんにも怒られる
どうすれば良いのかは誰も教えてくれない
練習の方法も上達の意味も分からない
それでも飛びだしてくる音は好きなんだ

同じ音を何度でも心地よいから受け止める
そしたら良く分からない紙を渡されて
何も出来ない私はまた何度も怒られるんだ


今だって簡単に見えない88個の鍵の束
何も覚えられない紙の名前も音の名前も
違う音が出てくるのは知ってる白と黒
片手で同時に押して両手で一斉に押して

お手本ですよって見せられても首傾げ
でも鳴ってる音は大好きで楽しくて
笑顔になっていたのにやっぱり怒られる
音は楽しそうだったのになんでだろう

友達にも笑われる兄弟にも笑われる
なにが間違ってたのかは誰も教えてくれない
教本の読み方も攻略の裏技も聞けない
それでも響いてくる音は好きなんだ

違う音を幾つでも心弾ませ解き放つ
そしたら良く分からない部屋に立たされて
何も知らない私はまた何度も呆れられる


歌は恥ずかしいから声が出ない
踊りも恥ずかしいから動けない
口笛は全然コツが分からない
家にあるのは大きな黒い箱

お母さんもお婆ちゃんもできる
お姉ちゃんもお兄ちゃんもできる
できないのは私だけなんだって
みんなの楽しい音を聴いてちゃダメ？

夢の中で私は小さくなって
白と黒の上で跳ねると音がした
誰にも聴かれない怒られない
ずっと笑いながら音の上で踊ってた

音も一緒に笑ってた


ねぇねぇ？あなたは間違えたら響かない？
「そんなことはないよいつだって遊べるよ」
ねぇねぇ？あなたは怒られないと届かない？
「僕たちはいつだって笑顔のそばにいるよ」


楽器屋さんの外にある同じような白と黒
色んな人が鳴らしては過ぎ去っていく
誰も来ないようにってサッと座って押してみる
違う音がするけどやっぱり楽しそうだった

急に隣で大人の人が片手で音を鳴らしてた
ビックリして固まったら「そのまま押して」
恐る恐る押してくと片手が沿うように響かせた
紙も無いのに怒られないのに楽しそうで

びっくりして色々押してたら笑顔になってた
片手で鳴らした大人の人も一緒に笑ってた
紙通りで怒られなくても楽しかったって言うと
大人の人は寂しそうな困った顔をしてた

「ここに来たらいつでも楽しく鳴らそう」
本当に良いの？紙もないし怒られない？
私この音大好きって言ったら笑ってくれた
そうして何度も何度も楽しい音を鳴らした


鍵を当てるクイズじゃないって初めて知った
間違えたら怒られる曲芸じゃないって知った
勝手に鳴らした音に別の音が友達になって
その音と仲の良い友達を連れてくるんだって

音の友達をたくさん連れてくるのが「エンソー」で
中が良さそうな友達が書いてあるのが「ガクフ」で
でも書いてない友達を連れてきても良いって知った
自分が好きな音を聴きたい音を持って来て良いんだって

いつからか88の鍵に境目が見えなくなった
全部繋がってるのにどれも違って聞こえて
その時に聴きたい音を連れてくれば良いの
仲が悪い友達もきっと意味が有るからって


それからもうずっと私は友達集めに夢中で
いつの間にかお母さんも先生も怒らなくなった
私は今も音が出る箱の名前を知らないけれど
目の前の音が大好きなのはずっと変わらない

今もこれからもずっと大好きを響かせていく！