UV-WARS
第二部「初音ミク」
第一章「ハジメテのオト」

 その6「ボーカロイドを触ってみた」

 画面の中の八人の視線は、桃に集中していた。
 桃の視線は完全に画面に貼り付いていた。
 桃は目の前のテーブルを乗り越え、テレビ画面に向かった。
〔なんだ? 何をする気だ?〕
 画面の中のミクたちも戸惑いを隠せないでいた。
 画面の前に立って、桃は人差し指をミクの額に突き出した。
 それほど強く画面を押したわけではないのだが、ミクは少しのけ反って半歩後ろに下がった。
 桃ははっと息を呑んだ。
 今度は、ルカに指先を伸ばし、その胸辺りを軽く触れてみた。
「!」
 ルカは思わず一歩下がって、胸を隠した。
 八人の視線が微妙な色に変わり、全体に後ろへ下がった。
 桃はそれを見て、自分が八人から「残念な」あるいは「変な」人の評価を受けていることに気付いた。
「あ、ごめんなさい。もうしないから。おねがい。戻ってきて」
 画面の前で両手を合わせる桃を見て、八人はひそひそと何事か打ち合わせた。
 それを見てテッドはぷっと吹き出した。
〔カワイイ〕
 テトがテッドの脇をつつくのと同時に、桃が少し困ったように振り向いた。
 テッドは咳払いをしてミクを呼んだ。
「ミク、百瀬さんも君たちに会うのは今日が初めてで、反省してるようだから、まあ、許してあげなさい」
 画面の中のミクはこくりと頷いた。
「モモさん、改めて、歓迎します」
 ミクが笑顔を桃に向けた。
「本当は、その、ミクちゃんの頭を、なでなでしたかったの。いいかしら」
 桃は真顔だった。
「いいですよ。最初は優しく、お願いします」
 ミクは、頭を差し出すように、体を折った。
 桃は人差し指と中指でそっと画面に触れた。
「もうちょっと、下です」
 桃は指先を少しだけ滑らせた。
 桃の指とミクの頭が重なるかどうかのところまできたとき、ミクの髪が変形した。ミクの頭の大きさは、指二本の大きさの倍くらいだった。
 桃は指先をゆっくり左右に動かした、慎重に、ヒヨコをなでるように。
 桃が手を画面から離すと、ミクも顔をあげ笑顔を見せた。
 桃もほっとして笑顔になった。
「モモさん」
 ミクは桃を見つめながら話した。
「私たちは画面の中のプログラムに過ぎませんが、この家のすべてを任されています。セキュリティのために自分自身を守ることも許可されています。これからも私たちの善き友人でいてください」
 桃は力強く黙って頷いた。
「あの…」
 おずおずといった感じで、桃が切り出した。
「どうぞ、モモさん」
「その、今度は、レン君をなでなでしたいのだけど、駄目かな…」
「あら」
「おお」
 声をあげたのは、ルカとカイトだった。
 メイコとリンとGUMIは意外そうに桃を見つめた。
 ミクはニヤニヤしながらレンを促した。
 がくぽは無表情に立っていた。
 指名されたレンはほかのヴォーカロイドの顔色を伺うように見回して、照れながら、前へ歩み出た。
 桃は先程と同じように、ゆっくりと、慎重に、指先をレンの頭に重ねた。
 ミクと同じように、レンの髪の毛が少し変形した。
 指先を左右に動かすとそれに釣られてレンの頭も動いた。
 桃の指が離れると、レンは顔をあげた。
 レンの笑顔に桃も釣られて笑顔を作った。
「モモ姉さん、ご指名、ありがとう」
「かわいいね、レン君。これからもよろしくね」
 レンは照れながら頭を掻いて、元の位置に戻った
 見ると、ミクとリンとメイコがひそひそと話していた。
「…やっぱり…」
「…変人…」
「…ショタ…」
 三人の意味深な視線に気付いた桃は、はっと我に返って振り向いた。
 テトは心の広い笑顔を見せていた。
 テッドは複雑そうな笑顔を向けてからミクたちに苦言を呈した。
「何度も言わせるなよ。人の前でボソボソとしゃべるのは、禁止だ」
「はーい」

ライセンス

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UV-WARS・ミク編#006「ボーカロイドを触ってみた」

構想だけは壮大な小説(もどき)の投稿を開始しました。
 シリーズ名を『UV-WARS』と言います。
 これは、「初音ミク」の物語。

 他に、「重音テト」「紫苑ヨワ」「歌幡メイジ」の物語があります。

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投稿日:2017/12/08 18:20:01

文字数:1,615文字

カテゴリ:小説

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