俺にラボからの通達が入ったのは10日前。オオヤさんからその話をきいたのは数日前。
タイムラグが大きいのはオオヤさんが仕事で忙しかったからという最もな建前的な理由もあるが、忘れていたという本音だろう。
めーちゃんですら聞いてないようだから、驚かそうとしていたということもありえそうだ。
通達の内容を簡潔に言えば『この家に鏡音リンと鏡音レンが暫く一緒に住む事になる』というもの。
「新しい家族がふえるの?」
純粋に家族が増えるのが楽しみだと笑うミクの笑顔を見ながら、食後のデザートを冷蔵庫から出す。
手早く食べ終わった食器を片付けて、かわりに飲み物とデザートのミニ杏仁豆腐を並べる。
「正確にはこの家で預かることになった」
ミクのキラキラとした期待の眼差しを受けて、後ずさりするように背をそらせつつオオヤさんが言葉を紡ぐ。
俺はミクの隣に座ると、杏仁豆腐を一口頬張る。
(うん、今日も上出来。次はイチゴジャム作って乗せるのもいいよねぇ…。)
目の前で繰り広げられている話とはまったく違う事を考えながら、話を聞いている振りをする。
「鏡音リンと鏡音レンって、新型じゃないの?」
「まぁ、ちょっとね…」
めーちゃんの突っ込みに、オオヤさんが言葉を濁しながら俺に視線を向けてくる。
ただ俺は首を小さく傾けて笑って、スケッチブックを開いてペンを走らせる。
《二人の部屋を用意しておきますね》
書いた文字を見せると、オオヤさんとめーちゃんが二人して「任せた」と声をそろえて返事が返ってきた。
隣に居たミクが少し覗き込むようにして、スケッチブックの文字を読んでお手伝いすると宣言をする。
「楽しみだね、お兄ちゃん」
ミクの笑顔に釣られて、俺も笑って頷く。
深い事情に関しては問題が大有りだが、ミクが喜んでいる事に関してだけは嬉しい。
「仲良くできると良いなぁ…」
ミクならできるよ。と今度は声なき声で答える。
身体にピリっとした感覚が走る。
イタイイタイイタイイタイイタイイタイ……。
マスター……マスターマスター…マスター………。
ステナイデステナイデステナイデ……オイテイカナイデオイテイカナイデ……
ダイスキダイスキダイスキダイスキ……ダイキライダイキライ………
タタカナイデタタカナイデタタカナイデ……イタイイタイイタイイタイイイタイ…
リビングに入ってきた途端、直伝わってきた声なき声と痛みに身体が硬直する。
エラーを吐き出しているシステムにコレは自身の痛みじゃないと必死に言い聞かせる。
けれど、一向にエラーは収まらない。
それどころか、伝わってきたエラーに誘われるように俺自身のメモリープログラムまで引き出さる。
------お前、もうイラねえよ。------
マスター、どうして…ですか…。
------喋るんじゃねぇよ。人間じゃないくせに。------
オレが嫌いに…?
------そんなに人の真似したければ、いっそシネよ。壊れるんじゃなくてな------
マスター!!!オレヲコロサナイデ!!!
限界だっ!
思い出した記憶に飲み込まれそうになる意識を必死に繋ぎとめる。
殆どの感覚をシャットダウンさせるプログラムを起動させ、実行する直前たまたま顔を上げた。
目が合ったのは偶然だけど、ソレは確かに無意識のSOSだった。
ダレカ…タスケテ!!!!!
めーちゃんも、ミクもそれに気付いていない。それどころか当人達ですら気づいて無い。
俺はどうなっても良い、俺なんかよりあの子達をどうにかしなきゃ…。
思考プログラムを『カイト』から『ボーカロイド』へと切り替える。途端に膨大な量の情報が頭の中を駆け巡る。
引き出すのはLINとRENの素体データ、基本プログラムデータ。
それから、ストレステストをはじめとする耐久実験結果。
そうして結論がでる。
何もしなければ、彼らが彼らとしていられるのはもってあと24時間…。
それ以降はプログラムの変質、ボディ損傷…最悪、ロストする。
知らされていた状況よりも、現状は深刻すぎる…。
OverHeat-ver.KAITO
2012年執筆、KAITO視点バージョン。ネタメモ。
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