エレベーターが上昇を開始する。
 見上げれば暗黒の夜空、星は見えない。
 俺の機体の隣にゲノムパイロットのX/F-50が三機、俺と同時に上昇を開始した。
 その向こう側には、FA-2、ミクオだ。
 エレベーターがカタパルトまで上昇し、機体の前輪をカタパルトが接続した。
 「こちらソード1。カタパルト、全機装着完了。発進指示を請う。」
 「水面コントロールから各機、そのまま離陸待機せよ。」
 待機だと、珍しいな・・・・・・。
 ・・・!

 
 ラースタチュカ・・・・・・・

 
 ラースタチュカ・・・・・・・

 
 「何だ?」
 音楽が聞こえる。声らしきものも。 
 頭の中に直接聞こえるような・・・・・・。
 トランス系の曲が、突然俺の脳内に響き渡りはじめた。
 「これは・・・・・・?」
 「隊長。わたしも聞こえる。何だろう・・・・・・。」
 「・・・・・・。」
 ミク達も聞こえるようだ。管制塔は分からないのか?
 まさか、脳内のナノマシンか。
 しかし、外部から俺達までデータを送信できる人間は・・・・・・。
 曲のテンポが上昇する。
 「こちらコントロール。各機、離陸を許可する。」
 「了解。ソード1、離陸する。」
 俺はスロットルレバーをアフターバーナーゾーンへと押し込んだ。
 蹴飛ばされたように機体が加速し、暗黒の空へ打ち出された。 
 
 
 雲を突き抜けて

 
 音の壁越えて

 
 高く 蒼穹高く

 
 Stratosphere
 
 
 歌だ。俺の頭の中で歌が流れているんだ。
 離陸した俺は後続の機体と共に、六機編隊を作る。
 このまま、高度五万メートルまで上昇する。
 曲のほうは一旦落ち着く。
 上昇するにつれ、例の雲の層が近づいてくる。
 厚いといっても十秒程度で抜けられるはずだ。
 「雲に入るぞ。平行感覚を失わないように気をつけろ。」
 「分かった。」
 「了解。」 
 ミクとミクオ以外はもの一つ言わなかった。
 機体が雲に突入した。
 かなりの視界不良だ。ナイトビジョンも役に立たない。
 頭の中で再生されているこの曲は、段々と盛り上がりを見せ始める。
 レバーを引いて機首を上げる。一刻も早く、この前の見えない世界から抜け出したい。
 そして、
 「雲を抜けるぞ!」
 「うわ・・・ぁ・・・・・・!」
 「すごい・・・・・・!」
 鳥肌が立つのを感じた。
 雲の層を抜けた俺たちが目の当たりにしたのは、満点の星空と、それを覆うような色様々な星雲だった。
 一秒間、俺はそれの幻想的で、神秘的な世界に魅了された。
 俺は、自分はこの大宇宙の中のほんの小さな存在だと思ってしまった。
 それだけ壮大な世界がキャノピーの向こうに広がっている。
 美しい。こんな美しいものを見たのは生まれて初めてだ。
 「・・・き・・・・・・れ・・・い。」
 これには、GP-1も喜びの声を上げた。
 「みく・・・ほし・・・・・・きれい・・・。」
 「ああ、そうだな!こんな空、初めて見た!」
 「この・・・・・・う・・・た・・・も。」
 「うん・・・きれいな声だ。」
 

 夢を切り裂いて

 
 Stratosphere


 君を捉まえる

 
 Stratosphere


 またあの声だ。歌詞が違うだけで同じメロディーを反復している。
 だが、その神秘的なメロディーと歌詞の響きは、この風景に良く似合う。
 俺達編隊はさらに上昇を続けた。
 そろそろ、自力での飛行が困難になる高度だ。
 機体のエンジン横に二基装着された追加ブースターを発動させる時だ。
 何故かミクとミクオのウィングには付いていないが、大丈夫だろうか。
 「各機、パワードライブブースターに点火せよ!」
 誰も応えてくれる者はいなかった。
 一年隊長やっているがこんなことは初めてだ。  
 各機体の腹部から蒼い炎が噴出した。
 俺もコントロールパネルを操作し、ブースターに点火した。
 機体が更に加速する。
 コックピットまで轟音が響く。すさまじい振動とGが、俺の体を襲う。
 それでも失速を回避するため、慎重に機体の角度を調節する。
 機体は更に地上から遠のいている。
 ほとんど下界が見えなかった。というか、地表が丸く見える。
 見上げればそこには壮大な大宇宙だ。
 そして、高度五万メートルに到達した。


 螺旋を描いて


 Stratosphere

 
 君を捉まえる

 
 Stratosphere


 「こちら司令部、各機、五万メートルに到達したか。」
 「こちらソード1。到達した。ブースターを破棄する。」
 俺達は機体から、ブースターを切り離した。
 「その先三百マイルにストラトスフィアが飛行している。時速八百キロで飛行し、FA-2、GP-1、GP-2、GP-3を着艦させろ。」
 「了解。」
 レーダーでは、既に捕捉している。
 何という巨大な機影だ・・・・・・これが空中空母か。
 例の曲は更に、盛り上がっている。
 その電子音が刻む心地よいリズムが、脳から胸、いや体中に広がっていく。
 それにしても、この曲は何なのだ。まだ続いている・・・・・・長い曲だ。
 「隊長・・・・・・見えてきた。」
 ミクの言葉に俺は視線の先にある物体に目を凝らした。
 あれが、ストラトスフィア。
 平面的ボディに、翼が二枚重なったような形状だ。
 エンジンは翼についており、後ろ中央にあるのが、着艦用のハッチか。
 加速して更に距離を縮める。それによって、ストラトスフィアの巨大な機体が目前に迫ってくる。
 「大きい・・・・・・!」
 ミクが呟いた。
 確かに巨大すぎる。
 俺たちがまるで米粒のような巨躯だ。
 何時何所でこんなものを建造できたのだろうか。
 「水面基地所属機、聞こえるか。こちらストラトスフィア。配備する機体を護送してくれたようだな。これよりハッチを開放し、四機同時に着艦させる。」
 ストラトスフィアからの通信だ。
 後部のハッチが開放されると、四本のアームが見えた。
 「FA-2、GP-1、GP-2、GP-3、着艦アプローチを実施せよ。」
 「了解。ここでお別れです。護衛、感謝します。」
 ミクオが俺の方を向いて敬礼し、アームへと移動した。
 他の機体もアームへ移動していった。
 「・・・・・・。」
 そのとき、GP-1から、何か言いたそうな呼吸が聞こえてきた。 
  
 
 風が鳴り止んで


 「・・・・・・み・・・く。」

 
 静寂は蒼く

 
 「あ・・・・・・り・・・が・・・とう。」
 
 
 僕は忘れない

 
 「いっ・・・・・・しょ・・・に・・・と・・・・・・べて、よかっ・・・・・・たよ・・・。」
  
 
 Stratosphere
 

 「じーぴーわん・・・・・・。」
 GP-1は、つたない言葉でミクへ感謝の気持ちを述べた。 
 「ま・・・た・・・と・・・・・・ぼう。」
 「ああ。また一緒に飛ぼう。」
 ミクはGP-1の機体に手を振った。
 彼の機体が、アームに向かった。
 曲はもうすぐ終わりを迎えようとしている。
 「ギア、アームコネクト。ランディングアープローチ完了。機体を内部に収納する。」
 彼らの機体が、アームによって内部に導かれ、ハッチによって完全に姿を消した。
 「水面基地所属機、ご苦労だった。護衛を感謝する。」
 「ソード1、ソード5へ。こちら司令部。任務完了。各機水面基地へ帰投せよ。」
 「了解。ソード1、RTB」
 そのとき、曲が終わった。
 およそ十分程度だった。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

Sky of Black Angel 第二十八話「the stratosphere」

うーん。正直ヤバイです。
あの超神曲です。
だって空中空母の名前っつったらこれしか無いじゃん。
違反報告があれば修正します。

ちなみにこの曲は僕がミク曲の中で最初に泣いたものです。
曲が終わるまで涙が止まりませんでした。
それ以来、僕はあの曲を毎日聴いています。

閲覧数:127

投稿日:2009/12/19 19:00:41

文字数:3,148文字

カテゴリ:小説

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