yanagiPの「PASSIONAIRE」が好きすぎて、ティンときて書いた。
「PASSIONAIRE」をモチーフにしていますが、yanagiP本人とは
まったく関係ございません。
ぼんやりとカイメイです! 該当カップリングが苦手な方は
ご注意ください。

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【カイメイ支援】 PASSIONAIRE 【ver.text】



3.

 ステージから退場して、からも、動悸は止まなかった。ほんとうなら楽屋に行って落ち着くところだが、そのまま舞台裏に留まって、機材や楽器を片づけながら退場してくる演奏スタッフたちを待つ。サックス片手に舞台裏に入ってきた件の彼を見て、いてもたってもいられなくなった。にこやかな笑顔を振りまいてスタッフに挨拶し、私を見つけると満面の笑みで、めーちゃんおつかれー、と声をかけながら近寄ってきた。ああ、やっぱりアレ、夢じゃなかったのね。
 ていうか!
 がっ、と、その彼のアイデンティティともいえる青いマフラーを握りしめ、思わず叫んでいた。
「なんであんたがいたのよ――!」
「おっ、怒んないでめーちゃん! マフラー引っ張んないでちょっとっ……!」
「なんで? なんでいるのよ!」
「だから、めーちゃ……揺らさないで、くるしっ……!」
「めーこさんめーこさん、死ぬ、かいとくんが死ぬ」
 はいはいやめてやめてー、と、マスターのぬるい静止が入った。
「マスター、どーいうことですか!」
「どうだったあ?」
「どうって、そりゃ歌詞忘れそうになるくらいびっくりしましたよ! なんでカイトが!」
「だから、かいとくんにこれをやってほしくて、友達んとこに預けたんだってば」
「はあ!?」
 思わずケンカ腰の口調で返してしまったが、どうやらこういうことらしい。
 マスターがこの曲のオケを作っている時、件の友人が「全部KAITO」というタグのついた動画を見せてくれたらしい。マスターの友人はたしかにオリジナル作品の作曲はできない。が、有名な曲のオケの一部をボーカロイドソフトで作っており(いわゆるカバーというやつだ)、近々アカペラ演奏動画も作る予定だという。そこで、マスターも自分の曲でカイトを「楽器」として使ってみたいとおもったそうだ。しかし、ウチのマスターは「歌唱」用の調声はできても、「楽器」としての調声は難しかった。そこで、カイトが単身修行に出された、というわけである。
「めーこさんも喜ぶかとおもったのに」
「そういうことは事前に言って下さい!」
「え、かいとくんから聞いていないのかい? 私がネット繋ぐごとに通信していたくせに?」
 ばれている。
 内容まではきかれていない(はずだ、たぶん)とはいえ、思わず赤面してしまった。きょとんとした顔でさらっと爆弾を投下するのがウチのマスターだ。赤面したままの私が二の句を継げないでいると、マスターはカイトに向き直った。
「かいとくん、めーこさんに言っていなかったの?」
「マスターが言ってなかったみたいだったので、てっきりサプライズのつもりなのかとおもって……はっきりは言いませんでしたけど」
 そんなつもりはなかったのだけれどなあ、と、マスターは首をひねった。かいとくんがぶっつけ本番だったから、演奏スタッフだけで調整したのだけど、めーこさんも混ぜた方がよかった? でもめーこさん本番前は休まないと声上擦るから……と、ぶつぶつ独り言モードに入ったマスターの声を上の空でききながら、私はカイトに噛みついた。
「はっきりは言ってない、って、あんたねえ、一言もきいてないわよ!」
「おれは言ったよ?」
「き、い、て、な、い!」
「ちゃんと言ったよ! 『おれもがんばるから、めーちゃんもがんばって』って!」
 そういえば、本番前にそんなことを言われた気もする。でもそれは、「おれも(お手伝いを)がんばるから、めーちゃんも(ステージを)がんばって」という意味ではなかったのか――いや、違う。
 おれも演奏をがんばるから、めーちゃんも歌うのをがんばって、だったのだ。
「でっ、でも、ライヴはちゃんと見られないって……!」
「だって、ステージで演奏していたら、そんなに頻繁にめーちゃんのこと見ていられないじゃない。見えたって、いいとこ後ろ姿くらいでしょ」
 そりゃそうだ。たしかに、演奏しながらでは、ライヴを「ちゃんと」は見られない。
「ま、おれは前に出たから顔までばっちり見れたわけだけど。めーちゃん、おれが吹いてるとき、ずっと見つめててくれたの、嬉しかったなあ」
「ばっ……! べ、別に、あんたがあんなに楽器吹けるなんて知らなかったから、っ!」
「上手だったでしょ? 格好良かった?」
 格好良かった、と、おもってしまった。
 ――なんて、こんなへにゃへにゃした笑顔の奴には言ってやらないんだから! でも、これだけは認めてやらねばなるまい。
「……すごく、良い音だったわ。私まで熱くなった。すごくドキドキしたわ」
「ありがと……め」
「おねーちゃああああん!」「ねえさまあああああああ!」
 カイトが何か言いかけたところで、ミクとルカが舞台裏に駆けてきた。
「すっごく! よかったよお!」「とっても! 興奮しましたわ!」
「あ、ありがとう、ミク、ルカ……」
「やー、すごかったよメイコ姉! こりゃ、ロリ声じゃあカバーできないね! 本気でカバーしたくなったよ!」
「しかし、メイコ姉の親衛隊ってすごいな……もうメイコ姉の声よりコールで耳が痛かったぜ……」
 今だ熱気冷めやらぬといった表情の弟妹たちは、口々に感想を述べている。若干蚊帳の外になったカイトが、
「ね、ねえねえ、お兄ちゃんは、どうだった?」
「あら、青いの。いつからそこにいたのです?」
「ずっといたよ! おれ、ステージで演奏してたでしょ!」
「演奏? カイト兄が? してたっけ?」
「してたよ! 間奏でソロまで吹いたのに! リンちゃんひどい!」
「え~、ミクも全然気付かなかったあ。ミク、お姉ちゃんばっかり見てたからね!」
「うっ……ミクまで……! れ、レンくんは」
「ゴメン、 オレ間奏中は親衛隊に踏まれかけてて、それどころじゃなかったや」
「そんなあ……!」
 ……若干どころではなく、蚊帳の外になってしまった。そんなカイトを、マスターが同情と憐みの目で見ている。マスター、せめて慰めてあげてください。そんな風に舞台裏の隅にわらわらと群れる弟妹たちを、スタッフが邪魔そうな目で見ている。ステージ撤去がはじまったのだ。あまり大勢でたむろしていると迷惑になってしまう。
「ほら、そろそろ出ないと。私は打ち上げがあるから、今日はみんなで仲良くご飯食べるのよ」
「わかっていますわ」「はーい」「じゃあ、帰りにみかん買っていこう!」「あっ、リンばっかりずりいぞ!」
「あ、おれも打ち上げ出るから遅く……って、ちょっとみんな! きいてえええぇぇ!」
 カイトの叫びを背に、弟妹たちはさっさと舞台を後にした。え――、とロングトーンしたままのカイトの肩に手を置くと、カイトはあからさまに項垂れた。
「そ、そんなに目立たなかったかなあ、おれ……」
「そんなことはないとおもうけれど……」
 でも、さすがにこうも一様に(本気かネタかわからないが)注目されないというのも、いささか不憫になる。
「大丈夫よ、カイトはちゃんと格好良かったわ。見惚れちゃうくらい」
 いつもより若干低い位置にある(しかし、それでも手を伸ばさないと届かない位置にある)頭を撫でてやると、途端に顔が上がった。目がまん丸で、顔は赤くて、驚きと喜びの混じったような顔で、カイトはじっと見つめてきた。
「な、なによ」
「ほん、と、に?」
「なにが?」
「ほ、んとに、アレ……あの、本番中、見惚れてた、の?」
 頬に熱が集まる。先ほど自分の言ったことを反芻して、穴にでも埋まりたい気持ちになる。ポロッと出たにしては、恥ずかしすぎる本音ではないか。
「あのっ、」
「嬉しい」
 否定しようとした言葉を遮って、がばりと抱きついてくる。こんなところで抱きつくな、と言えば、だって嬉しいんだもん、と返ってくる。ああ、きっと今コイツは、喜色満面というか、情けないほどだらしない笑顔なのだろうな。そして、私はと言えば、きっと顔じゅう真っ赤で、もしかして耳まで赤くなっているかもしれない。
「ね、も一回言って」
「は? 何を――」
「かっこよかった、って、言って?」
「何、調子乗って……!」
「おねがい」
 ぎゅうと抱きしめる力が強くなる。これ以上ここでこの態勢でいるのはさすがに恥ずかしいし(だって、さっきからなんだかスタッフたちの視線が気になる!)、どうせ一度言ってしまった言葉だ。私は、意を決して、それでも恥ずかしさが先行しているのでカイトにだけ聞こえるくらいの音量の声を出す。
「……格好良かった、よ」
「えへへ、ありがと」
「も、もういいでしょ!」
「うん。あ、おれも言わせて? ――メイコは、すごく可愛かったよ」
 そう言い残すとカイトは、私をぱっと解放し、るんるんといつもより軽い足取りで、舞台撤去の手伝いをはじめた。私はと言えば、スタッフの冷やかすような目線に耐えながら、硬直していた。
「……バカイト」
 精一杯の悪態も、これが限界。
 ――あんたのせいで、ライヴ中の「あの」熱が、戻ってきちゃったじゃない……!
 そんな風に責任転嫁しなければ、熱に浮かされたまま溶けてしまいそうな気がしたのだ。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

【カイメイ支援】 PASSIONAIRE 【ver.text 03】

yanagiPの「PASSIONAIRE」が好きすぎて、ティンときて書いた。
今度こそ本当に 怒 ら れ た ら ど う し よ う … … !
yanagiPにはもう頭があがりません。だいすきです。

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なんという乙女メイコ。略してオトメイコ! ツンが足りないめーちゃんでもいいじゃない!
そしてカイト俺と代わ(ry

前のバージョンで、ロミシンのときと同じように、楽屋に行けます。
おまけという名の、ここでは恥ずかしくて多く語れない作者の胸の内がそっとおいてあります。
それでも読んでやるぜって方は前のバージョンにどうぞ!

閲覧数:1,294

投稿日:2009/06/13 02:24:16

文字数:3,895文字

カテゴリ:小説

  • コメント6

  • 関連動画1

  • つんばる

    つんばる

    ご意見・ご感想

    コメントありがとうございますー!

    西の風さん>
    わわわ、拙作を読んでいただいたようで恐縮ですっ……! コメントまでありがとうございます!
    長くて読みにくいのが基本仕様なので、さくさく読んでいただけたようでほっとしてます……。
    可愛いヘタレ男子ととツンデレ乙女良いですよね! 同志よ!(調子に乗るな
    楽器にくわしくなくても、とりあえず兄さんの卑怯かっこよさが伝わればと思って書いたのですが
    演奏(ステージ中)の描写に異様な熱が入ったことは認めます……。
    マスターの人物設定自体はぼんやりしてますが、気に入っていただけたようで嬉しいです!
    私も、マスターの口調は書いてて楽しかったです……じつはお気にいりだったりします(笑

    自分はもっと短くまとまったものを書けるように精進します!(笑

    2009/06/12 23:14:04

  • 西の風

    西の風

    ご意見・ご感想

    こんばんは~。早速ながらお邪魔してすみません。日付を見てちょっと躊躇いを覚えつつもやっぱり書き残します。

    長文ながらさくさくと読み進められて、非常に楽しめましたっ。
    ヘタレ可愛いのとツンデレ乙女、良いですよねえ。
    楽器とかに詳しくない自分がちょっと寂しくなりました…。勉強して来ます。
    でも、不意をついて意外な一面見せるとか…っ、兄さん卑怯に素敵過ぎます。そりゃめーちゃんも見惚れますね。
    そして何だかこのマスター良いなあとかちょっとずれたところが気に入る自分自重します…。

    いつかはこんな長文も書いてみたいなあと思えました。
    素敵なお話を有難う御座いますっ。…乱文にて失礼致しました。

    2009/06/12 21:01:57

  • つんばる

    つんばる

    ご意見・ご感想

    コメントありがとうございますー!

    桜宮さん>
    めーちゃんはツンデレの皮をかぶった乙女だと信じてやみません。それで兄さんはヘタレで可愛いのが
    デフォルトだと思っています。ヘタレ×ツンデレ大好物!(お前も落ち着け
    サックス卑怯理論(?)に賛同者キタ――!! 全国のサキソフォニストの皆さんすみません! サックスの
    マウスピースを噛む感じは、クラにはないえろさがあるとおもっています。兄さんは割とスタンダードな
    メロディ担当楽器のイメージがあってのサックスでもあったんですが、たまらないと言っていただけて
    嬉しいです(*ノノ) 自重なんてとんでもない、楽器経験者から反応貰えてニヤニヤしてます(笑
    設定に関しては、私はだいたいアバウトにしか書いてない(書き分けられない)ので、よく考えたら前回の
    ロミシンも、なに設定だったのかいまいちしっかりしてません。たぶん人間設定パラレル……なのか?
    そしてこの話は……機械設定、なの……か? 文章からじゃ判別できませんね……まだまだです。いつか
    パソコンの中でしか身動きとれない(つまりソフトウェア設定の)ボカロたちのお話とか、PC用語がばんばん
    でてくるようなお話も書いてみたいものです。
    励みになったなら嬉しいです! 長い感想、ありがとうございました!

    ……むしろ私のレスの方が長(ry

    2009/05/17 02:59:58

  • つんばる

    つんばる

    その他

    コメントありがとうございますー!

    +KKさん>
    可愛らしい……! そう言っていただけて救われます……! いつ誰から「こんなめーちゃんは
    めーちゃんじゃねえ」と言われるかとびくびくしてましたので……! そ、そして+KKさんは
    サキソフォニストでしたか!(*ノノ) 卑怯だなんて言ってすいませ(今更遅いッ
    ……たしかに私もキャラクター・外見があってこその「ボーカロイド」だ、という気はしています。
    でも、キャラクターやパッケージイラストなど外見に当たる部分は、販促に利用されていたり、
    大きいお友達が大騒ぎしていたり(自分もその一人ですが)、大人の都合が色濃く絡んでくる部分でも
    あるとおもっています。アプリケーションの一種である、ボーカルソフトである、というほうが、
    彼らの純粋な「機械・ソフトとしての凄さ」を、なんの偏見も衒いもなく評価してあげられる気がして
    ……そういう意味で、むしろキャラクター性はいい意味でも悪い意味でも正当な評価をされない要因、
    なのではないかなと考えて「キャラよりソフトが好き」、という結論に至るのです。
    キャラクターや外見が大きな意味を持っている、すくなくとも私に大きな影響を与えているというのも
    事実ですし(私も単なる「歌声」だけで、こんな二次創作までしていたかはわかりません)、彼らに付された
    キャラクター性も否定しません、むしろ好もしいものだとおもっているのですが、+KKさんの言うように、
    彼らが「歌う」ことを大事にしたい、という気持ちからの発言だと思ってくれれば幸いです。
    ……って、お返事になっているのかなぁ……?(汗) 支離滅裂ですみません(あたふた
    楽しんでいただけたようでなによりです! PASSIONAIREが明るい曲なので、今回は作風がBGMに
    寄ったんだとおもいます(笑)。長い感想、ありがとうございました!

    2009/05/17 02:58:03

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