奏医師はテキパキと傷の処置をすると闇月詩羽と何かを話していた。

「リヌちゃん、気を失ってるだけみたいですよ。」
「すみません…。」
「スズミ、ちょっと…。」
「あ、うん…。」
「リヌさん?!」
「別室で休ませるだけだ。そう心配するな。」

リヌは軽々と抱き上げられ、外へ連れて行かれてしまった。ドアが閉まった部屋には…私と奏医師の2人が残った。ここは話をするチャンスだと思った。

「あの…!」
「悪かったな、いきなり取り押さえたりして。」
「いえ、急に来たのはこちらですから…それより…貴方に聞きたい事があって…!」
「何?」
「…先日のコンサート爆破事件の時、貴方に手当てされたと言うBSが居ました。
 彼は霊薬を二重投与され、恐慌状態だった所を貴方に助けられたと…!」
「…ああ…その話…。」
「単刀直入に聞きます…貴方はBSを治す方法を知ってますね?」

穏やかな雰囲気のまま、一呼吸間を取って彼は言った。

「ああ…。」
「一体どうやって…!?今迄BSを押さえる事は出来ても治す事が出来た人間は居ない!」
「まだ研究中だ。あの時は非常事態で試験薬を使った様な物だ。死者が出ていた
 可能性だってある。」
「何故公表しないんですか?治療が出来ると判れば【MEM】だって…!」
「完成する迄公表はしない。ただでさえ今は研究も停滞しているんだからな。」
「方法があるなら我々も協力出来るかも知れない…処方でなくとも何か…!」
「なら協力してよ、今直ぐに。」
「え…?」

声に振り向いた瞬間、額にゴツリと重い感触があった。

「動かないでね、菖蒲さん。貴方の脳漿ぶちまけたくないんだ。」
「ノア…?!何故貴方が此処に…!!」
「恩人に恩を返すのは当然だよ…ね?先生。」

どう言う事だ…?何故ノアが【Yggdrasil】に?いや…ノアが此処に居ると言う事は…つまり…。

「騎士、検査結果出たぞ。」
「幾つだった?」
「菖蒲翡翠、侵蝕率79%、Bタイプ『raven』【TABOO】の参謀にして…トップ
 である弐拍啓輔の片腕だ。」
「そうか…。」
「何を…?!まさか啓輔さんを…!!」
「心配するな、サンプル提供して貰うだけだ。危害を加えるつもりは無い。」
「バット様は良いの?菖蒲さん人質にしたら来ると思うけど?」
「いい…信じてるから…。」

そう言った奏医師は少し寂しそうに見えた。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

BeastSyndrome -63.包囲網-

つ か ま え た

閲覧数:127

投稿日:2010/06/20 22:24:55

文字数:997文字

カテゴリ:小説

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