【Error -a riddle- ③謎人・謎】




家のチャイムが鳴った。
マスターかと思い急いで扉に向かったが、そこにいたのは違う人物だった。
「キョウさんが迎えに来てくれるなんて珍しいですね」
優しい笑顔に、綺麗な髪と綺麗な瞳。
可不歌だった。
「それに、謎人さんまで…? 謎人さん?」
謎人の様子がおかしいのに気づいたようだ。
「何か、あったんですか?」

部屋に入り軽く今までのことを説明すると、可不歌はすんなりと理解してくれた。
他の人たちとはまた違う、大人らしさというか、人間らしさがある。
「謎人さん、迷うことだってあります。
 でも、謎人さんとして戻ってきてくれたら、それ以上に嬉しいことはありません」
可不歌は、どこまでも優しい。
得意分野であるはずの慰めることでさえ、彼には勝てない。
「そうだ、コーヒーを淹れてきますよ。とっておきのやつです。待っていて下さい。」
何か思いついたように立ち上がる。
「キッチンはうるさいから気をつけるんだぞ」
「セトさんやリアさんたちですか。ふふっ、気をつけますね」
セトと可不歌は、年長同士よく似ていると思う。
違った意味ではあるが、拍子抜けさせられてばかりだ。
カフカの部屋は、喫茶店の内装と似ている。
少し古びた木装の壁と、コーヒーの香り。
蓄音機から響くジャズに、橙色の電灯。
謎人も、不思議と落ち着けるようだった。

「お待たせしました」
そう言って、コーヒーを持ってくる。
「セトさんがお菓子を下さいましたよ」
きれいに並べられた焼き菓子を、手馴れた手つきでテーブルへと置く。
失礼します、と言ってから、自分も席に着いた。
それから、謎人の方へ向く。
「どうぞ。ミルクと砂糖はこちらです。」
「…どうも」
可不歌は、ずっとニコニコしてる。何の不安も感じさせない。
謎人が砂糖を入れるべきか迷っていると、砂糖の入った器の蓋を開ける。
「謎人さん。謎人さんは、角砂糖2つに、ミルクをたっぷり入れるんですよ」
謎人の持っているティースプーンに、そっと角砂糖を乗せる。
「苦いものは好きじゃないそうです。」
そう言って、焼き菓子の器を謎人に少し近づける。
角砂糖は、コーヒーに浸かって少しずつ溶け出す。
「謎人さんは、ずっと自分が何なのか迷っていたようですが、
  私にとっては、好き嫌いのある、一人の人間だったんですよ。」
一つ目の角砂糖が溶けきると、もう一つの角砂糖をまたスプーンに乗せる。
「謎人さんがいなくなると、寂しくなりますね…」
可不歌の目元には、涙が溜まっていた。
いつも綺麗事ばかり言うが、彼の怖いところは、その全てが本気だという事だ。
人間らしく、それでいて人間には程遠い。
こんな人間いるわけない。
「俺は…謎人?」
謎人が、ゆっくりと口を開く。
かすかに声が震えている。
「私と貴方が初めて会ったときも、それ以降も、
  私がそう呼んだら返事をしてくれましたよ。」
コーヒーの苦味が口いっぱいに広がる。
自分の不甲斐なさが身に染みわたる。
「俺は、謎人で、いいんですか?」
「貴方が謎人さんでないなら、なんとお呼びしたらいいのか私は知らないんです」
可不歌は、普段ブラックで飲んでいるコーヒーに角砂糖を二つ入れる。
「私の知っている中に、謎人さんは貴方しかいません。
  それに、貴方は謎人さんでしかないです。
  だから、そうでないというなら、私は貴方に初めましてと言わなくてはいけないんです」
コーヒーにミルクを入れる。
こだわっていれたはずの香りの良いコーヒーが、だんだんと別物になっていく。
そんなコーヒーを、美味しそうに一口飲む。
「コーヒーに、花が咲くのはご存知ですか?」
コーヒーの木には、白い小さな花が咲く。
「その花にも、花言葉があると教えてくださったのは、キョウさんでしたよね」
そういえば、そんな話もしたかも知れないが、確かな記憶はない。
そのくらいどうでもいい会話であったはずだ。
「一緒に休憩しましょう、という花言葉だそうです」
あまり知られていない、コーヒーにぴったりの花言葉。
「悩むのは、少しお休みにして、一緒に休憩しませんか。
  ジャズを聴いていると、時間がゆっくり流れているような気がするんです。
  何も考えない時間は、無駄な時間ではありませんよ。
  準備しなければ何も始まらないように、心にも準備の期間が必要でしょう」
一旦目を閉じて、息を吐き出す。
「困ったときは、ため息をついたっていいんです。私はよくつきますよ。
  心の重たい部分を、少しだけ外に出してみると、案外軽くなるものです」
可不歌の周りは、不思議な空気が流れる。
それこそ、素敵な音楽を聴いた時のようだ。
謎人は、少し納得したように、息を吐いてみせる。
そして、小さく笑った。





それから数時間後、マスターは帰ってきた。
予想より随分早い帰宅に驚いていると、体調を崩して早めに帰ってきたとのことだ。
あきらかに悪い顔色のままでも、心配するのは自分のことより謎人のことだった。
謎人を抱きしめるその姿は、ヤタのものと重なる。
自室のパソコンに、コードで謎人をつなぐと、何やらカタカタとキーボードを叩き始める。
「過去のデータと新しいデータがぐちゃぐちゃだ。設定も変えられてるな…。」
ときどき手が止まっては、手を強く握る。
「大丈夫だ、謎人」
そんなことをつぶやきながら、謎人の様子を見つめる。
そして再び、キーボードと画面に向き合う。

数時間程度たっただろうか。皆が部屋に集まっている。
状況はよくわからないが、作業が終わったようだった。
「ヤタ、頼んだぞ」
マスターが、や他に合図をすると、ヤタは頷く。
そして、謎人のコードを引き抜いた。

…女の子。コードには、女の子がつながっていた。
黒い髪に、着物のような服。謎人と同じように、顔に包帯を巻いている。
この子が、原因なのだろうか。
「君、どこかで見たことあるような…」
マスターがそう言うと、思い当たる人物がいたようだ。
「「ゴミ箱の子だ…」」
答えたのは、ネムとイヴ。コンピューター内のゴミ箱を知り尽くした二人だ。
「ゴミ箱のデータの寄せ集めか…。高性能なウイルスだな」
マスターは、髪や服に触れる。
見覚えのある服、見覚えのある髪型。
それぞれ別々のデータで、何も気にせずに捨てたものにウイルスが乗り移ってボディを作り出したらしい。
「気を配らないで捨てるのが悪いんだもん」
それに、ご丁寧にAIの人格データまでかき集めてきたらしい。
女の子は、眠っている謎人の腕にしがみつく。
「メイは、謎人が好きになったから、がんばったの。
  体がなかったから、もらったの。
  メイは、ウイルスなんて、いやなの。謎人と一緒がいいもん」
泣き出しそうになりながら、謎人にくっつく。
きつく、きつく、しがみつく。
「…っ」
その痛みで、謎人が目を覚ました。
「っなんですか、これ」
いつもの、謎人だった。みんな、胸をなでおろす。
謎人が、戻ってきてくれた。
「さてと、謎人が目を覚ましたことだし…」
マスターがメイと名乗る女の子のもとへ近寄る。
「メイ、悪いことしてないもん! 一緒にいたいの!」
マスターは、何も気にしない様子で、ひょいと抱え上げる。
ジタバタと暴れるその子を、パソコンへつなぐ。
「一緒にいるの!!」
「はいはい、それはわかったから大丈夫。
  …捨てて、ごめんね。」
そう言って、インストールしたのは、ボーカルデータ。
声だけでなく、歌えるようにするためのシステムだ。
「メイは、ここにいてもいいの…?」
「もともとそのAIはここの子のものだ。ウイルスさえ使わなければ問題はないよ」
マスターは、小さなデータであっても、
人格を持つデータを捨ててしまったことに罪悪感を覚えているようだ。
そして、メイの体を抱きしめる。
「ようこそ、謎。遅くなったけど、今日からここの家族だよ」







【あとがき(?)】

ラク「エラー音が聞こえた時は本当に焦ったよ…。ウサにもしものことがあったら俺は…」
ウサ「うー。すぐ来てくれてありがとー。 ラク兄ぃすきー!」
リア「私の安全は確認しに来てくれなかったくせにー。」
セト「ボク気付いたらリアさんのとこ向かってたよぉ。」
コト「まさかセトに先を越されてるとは思いませんでした。」
ヒト「それにしても、ウサ大活躍だったよな!」
リイ「ヤタさんも素敵でしたネ!」
ユト「さすがマスターのコピーだな」
クウ「謎人がいなくなるなんて、耐えられませんからね」
セン「イヴも頑張っていたな」
イヴ「えっと、少しは役に立てて良かったです。」
ヴェン「やれば出来るくせに。」
レイ「ヴェン、ここまできて憎まれ口たたかなくてもいいだろ。」
フル「それより、サク!左腕返せよ!!」
サク「左腕あると楽なんだよ。ちょっとくらい良いだろ。」
ハイ「はぁ… 結局僕、向かった意味なかったんですよね…」
ヤタ「いや、先に帰ってくる情報を伝えてくれたから、パソコンの用意ができたんだよ」
アイ「ハイもお手柄だったな。俺も用意手伝ったんだぞ!」
ショウ「そういえば、カイさんあの時何か叫んでませんでした?」
カイ「あ、あぁ。ちぃとな。静かになってよかったのぉ。」
スイ「ネムは、謎のこと少し知ってたみたいだね」
ネム「俺もゴミ箱で眠ってたからな。謎には少し同情するところがあるなー」
ハナ「んー… こわかったねー」
ジュン「ですね。でも、キョウさんがなんとかしてくれたみたいで良かったです。」
キョウ&フォン「「謎人」さん」
謎人「はい? 結局、何があったんですか?」
キョウ「それは後々話す。それより、今度三人でコーヒーでもどうだ?」
謎人「三人で、ですか。二人が仲が良かったなんて知りませんでしたよ」
フォン「ふふっ。とっておきのコーヒーと砂糖とミルクを用意しますよ」
謎人「はぁ…」
謎 「謎人ー!!」
謎人「だから、なぜこの子は俺のことを追いかけて来るんですか!」

マスター「また、賑やかになったな。それと、君たちも宜しくね」
PIPO「PI PI PIー♪」
なにか「ぴぴぴー!」


-End-

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい

Error -a riddle-③ 【謎人・謎】(謎ちゃんが来たときの話)

やっと書き終わりました・・・

角砂糖の話は、
http://piapro.jp/collabo/?view=bbs_thread&bbs_thread_id=23083&id=11382
の>>13 にあります。
謎人と可不歌さんの初対面の時の話ですね。

コード→謎の首のあれ。

※ゴミ箱の子が可哀想ということで、拾ってきて作ったのがPIPOさんと、なにかさん。

【感想、わからないところ、その他(誤字など)などあればコメント下さい!!】

閲覧数:159

投稿日:2013/12/05 02:34:00

文字数:4,206文字

カテゴリ:小説

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