緊急収集なんて物々しい連絡の後、私達テストの参加者は久し振りに会社の会議室に集まっていた。

「こうして皆さん顔を揃えるのは久し振りですね、輝詞さんは何かと顔を出してくれますけど。」
「せっ…瀬乃原さん、それは今言わなくて良いです…。」
「そうですか?私は感謝してますけど。」
「えっ?」
「感謝だけです。」
「ですよね…。」

だけど最初の頃とは全然違っている。私達の関係も、このテストの事情も、それから情報も。開いたドアに目を遣ると意外な人が入って来るのが見えた。私よりも早く数人が反応するのも空気で解った。

「弭?!」
「僕の説明なら無能な響君がしてくれますよ、ね?」
「無能って…。」
「…日高鴇彦、2年前ストーカー容疑で逮捕されてこの間出所した人間だ。」
「ストーカー?!ちょ…大丈夫なの?!」

一斉にざわつく中、浮かない顔で俯く人が居た。勿論皆の関心は件のストーカーさんに集まっていて誰もその事を指摘などしなかった。何とも重い空気を破ったのは緋織ちゃんだった。

「違うんです…!2年前のストーカーも、強盗も…この人じゃないんです…。」
「違うって、じゃあ他人の空似って事?」
「…そうじゃないんです…。」

そう言った緋織ちゃんは少し声が震えていた。言葉に詰まった彼女をフォローする様に響さんが再び口を開いた。

「緋織は性格なのか昔から人間を見間違えなかった、変装していようが10分程度話した事がある人間なら区別が付いた。それこそ警察の間でも密かに有名だった位にね。」
「まぁ判別機みたいな事が出来るんなら警察には持って来いだよね。」
「…犯人はそれも知った上で…いや、知ったからこそ緋織を精神的に追い詰めて行ったんだと思う…緋織の気持ちまで見越して誘拐しようとして…結果持っていた刃物で返り討ちにされて逮捕された、そう聞いていた。」

しんと静まり返る中、おずおずと声がした。

「あの…でもそれってひおの正当防衛じゃないんですか?」
「ああ、勿論。だけどそれで済むと思う?」
「え…?」
「信じられる?ストーカーに追い詰められて、拉致られそうになって、正当防衛とは言え人を傷付けた中学生の女の子に警察は何回も事情聴取したの『どんな奴だった?』『何をされた?』『意識が曖昧だったりしてない?』『君レイプされてない?』『可哀相だね』ってね。」

緋織ちゃんは耳を覆って更に震え出した。流石に見兼ねたのだろうか、真壁さんが抱き寄せる様に宥めている。

「ごめんなさい…ごめんなさい…!」
「緋織ちゃん?」
「私…私解らなかったんです…何回も何回も同じ事聞かれて…もう犯人の顔が思い出せなくて…写真を出されて『この人だよね?』『指差せば家に帰れるよ』って言われて…私…!」
「え…それって…誘導尋問じゃ…。」
「…冤罪…?」

暫くの間泣き声だけが聞こえていた。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

いちごいちえとひめしあい-121.誘導-

閲覧数:64

投稿日:2012/05/28 11:19:56

文字数:1,189文字

カテゴリ:小説

クリップボードにコピーしました