『まんぼう』

我々は一頭のまんぼうだ
ぷか ぷか 浮かびながら
どこにも 行けない

我々は一頭のまんぼうだ
いつしか 泳ぐことも
忘れた 我々

石塔の上を 陽が差し掛かり
遠く素馨の ささやかな香り

どれほどの痛みに
身を投げ出され
身を捥がれようと
どれだけ内部を
ぐちゃぐちゃになるまで
食い荒らされようと
視線を動かすことさえ
忘れた 我々

どこへゆくのか
我々の誰も
知る由はない
水面に 並行に浮いては
片の目で 海を
片の目で 空を見て
同じものだと 安心している
初めから 身動きなど取れないのだから

水底は 渦を巻き
光はほどけて 冷たい青銅として沈む
見え隠れする 魚影は
その隙間を 縫うように
どこかへと 行ってしまう

感傷的なまでに 冷たく照らせよ
まんぼうに 悲しいことは
何にもないから
言葉があったとて
ただっぴろい海の上で
無間の青に寝転んで
何を叫んでやろうか

(ぼくの庭では、今朝、
燕の子が巣立ってゆきました。)

今に身体の
端が ぼろぼろと
崩れ落ち 剥がれ落ち
明日には 皆
ばらばらになる
波に呑まれ 陽に焼かれ
たちまち 腐乱してゆく
きっとそれも 悲しくないのだろう
そのときには
悲しくないと言えるだろうか

我々は一頭のまんぼうだ
それ以外に何も知らない

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
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『まんぼう』

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投稿日:2020/07/03 10:32:59

文字数:562文字

カテゴリ:歌詞

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