FLASHBACK5 L-mix side:B

「はぁ……」
 ため息をついて、ルカは留守番電話サービスにつながったケータイを切った。
 その見る者を魅了せずにはおられないほどに美しく整った彼女の表情は、ウェーブのかかった長い髪に隠れているせいで窺うことは難しい。だが、艶やかな髪の隙間から見えるその表情は不安を堪えるように曇っていた。
 カイトは『今から行くから、もう少し待ってて』と言っていたはずなのに、その電話からもう三時間も経ってしまっている。ずっと待っていたのだが、やはりカイトには忘れられてしまっているのだろう。その考えがとうとう確信に変わり、ルカは身体を震わせた。
 電気を消していた自分の部屋は、少しだけ肌寒い。だが、それだけならここまでつらくはならなかっただろう。ルカはケータイをテーブルに置くと、むき出しの二の腕を温めるようにさすった。
 少し、嫌な予感がした。
 電話をした頃、ルカはまだ家に帰ってきておらず、繁華街を歩いていた。電話する直前に、少し離れたところでカイトの長身痩躯を見たような気がしたのだ。それだけではない。自分のよく知った、ツインテールの少女の姿も一緒に、だ。
 その二人が抱き合っている姿を見た気がして、ルカは不安になってカイトに電話したのだ。
 カイトが、ミクではなくルカの方を選んでくれたということ。それを信じてはいる。信じているが、そんな光景を見てしまうと不安になる。それがたとえ他人のそら似に過ぎなかったのだとしても。今日は特別な日だったのだ。カイトは覚えてくれているとルカは思っていた。だが、それもどうやら覚えてはいなかったらしい。それがルカの不安を煽ったのは言うまでもない。
『カイト。私、カイトが好きよ』
 そんな、カイトの気持ちを確かめる言葉にもどこか慣れつつある。そのあとに続くカイトの『俺もルカが好きだ』という言葉を聞くことにも。
 定型句を告げるだけの単調な作業をくるくると繰り返し、確かめたつもりになっている自分が、ルカはどうしようもなく嫌だった。カイトの本心を確認出来ているような気などしないのに、その言葉を聞いてどこか安心してしまっている自分の気持ちが、ルカは許せなかった。
 それ以上に、どうしてもカイトの言葉に誤魔化されたような気持ちになってしまう自分も許せなかった。ルカの定型句に返してくるカイトの定型句が、聞けば聞くほど疑わしく感じてきてしまうのだ。
 カイトは本当に、ルカのことを愛しているのか。
 ミクよりもルカのことを愛してくれているのか。
 いや、ミクではなく、ルカのことだけを見てくれているのか、だ。
 カイトは優しい。ルカに対しても、ミクに対しても。
 だが、その態度がルカを不安にさせているのだということを、カイトは分かっていない。分かってくれない。ミクの事をカイトが口にする度、ルカがどれほど言い知れぬ不安に駆られているのかをカイトは知らないのだ。
「カイト……」
 うつむいて、ルカはぽつりと彼の名を呼ぶ。無論、返事が返ってくる筈も無かった。自らの身体を抱きしめるように、ルカは腕に力を込める。
 ふと目にとまったのは、テーブルにある写真立てに写っている一枚の写真だった。カイトと、その前ですました表情をしているルカ。そして無邪気な微笑みを浮かべてピースサインをとるミク。
 ルカのことを好きだと言っても、カイトの気持ちはこの写真を撮った頃とさほど変わってはいないのではないだろうか。そんな事をルカは考えた。
 あの時よりも幸せな筈なのに、あの時よりも不安でたまらない日々。
 あの時は、こんな風になることをルカはずっと夢見ていたはずなのに。いざカイトと付き合ってみれば、どうしても付きまとう不安。
(こんな筈じゃ、なかったんだけどな……)
 これ以上電話したところで、カイトは電話に出てくれはしないだろう。今日はもう諦めた方が良いのかもしれない。
(記念日、だったんだけどな……)
 別にルカは何かを期待していたわけではない。カイトが仕事で忙しいことを知っていたから、そこまで期待してはいけないと思っていたのだ。ただ、メールでも電話越しでも良いから一言だけでも話題にして欲しかっただけだった。だが、カイトは。
 突然、ケータイが軽快な電子音を奏でる。暗い部屋でケータイの明かりが瞬いた。
「――っ!」
 ルカは慌ててテーブルに置いていたケータイを取り、画面を開く。そして、着信の相手を見てどこか呆然と相手の名前をつぶやいた。
「ミク……?」

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

ACUTE  6  ※2次創作

第六話


2番サビ前、ようやくルカ様登場の回です。
これ書くまでずっとルカ様の頭文字はRだと思ってました。ホントにごめんなさい。
にしても、原曲の三人は誰一人として自分の持ち駒にいるキャラクターのタイプではないので苦労します。その分、得る物も大きいのですけれどね。
というか、改めてPV見てみるとルカのいる場所は自宅じゃなさそうですね。テーブルにネオンの看板が映り込むなんて、きっとどこかのお店でカイトと待ち合わせしてたんじゃないでしょうか。
……気付くのが遅すぎるんですけど。早く気付け俺。

「AROUND THUNDER」
http://www.justmystage.com/home/shuraibungo/

閲覧数:530

投稿日:2013/12/07 14:04:45

文字数:1,870文字

カテゴリ:小説

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