君とバトンを繋ぐのは
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「痛っ!」

通学路で小さな石につまずいた拍子に足を捻ってしまったようだ。歩く度に足首が痛む。
ー今日確か体育あったよな…
ふと、今日の時間割を思い出す。今日の体育も男女混合リレーだった筈だ。

「あんまり走れないな…」

私はそう呟くと学校に遅刻しない速さでなるべくゆっくりと歩いた。

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「えーっ!?夏生、足捻っちゃったのに体育出るの?」

友達の美羽が心配そうな声で聞いてくる。それはそうだ。誰だって友達が足を痛めたのに体育に出るなんて言えばそう言うだろう。しかし、出たいものは出たいのだ。私が体育好きなわけじゃない。本当は見学したいが、今学期は成績が危ない。それに、ウチの学校は体育を見学するとその日は運動系の部活は出席禁止だ。大会が近いのだからチームの雰囲気のためにも顔だけは出したい。

「うーん…。やっぱり、部活出たいからなぁ。大会近いしなぁ。」

私の顔を見ると美羽はしょうがないなぁと言わんばかりに眉尻を下げると小さくため息をついてから、なら止めないけど無理だけはしないでね。と言い残してトイレに行ってしまった。意思は尊重しつつ無理をさせないように心配をしてくれるあたり本当にいい人なんだなぁとトイレに行ってしまった友人に思いを馳せながら私はグラウンドへと向かった。

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「夏生ーっ!今日も一緒にチーム組もう!」

同じ陸上部の颯太に声を掛けられる。体育で男女混合リレーの学習が始まってからずっと私と颯太はチームを組んでいる。クラスに2人しかいない陸上部の私と颯太がチームを組めば最強だ。
ーでも今の私じゃ反対に足引っ張っちゃうよなぁ…。
迷惑をかけるのだけはごめんだ。

「ごめん颯太!私、今日の朝に足捻っちゃって。あんまり走れないと思うから、別の人誘って!」

私は素早く会話を切り上げると、その場を後にした。颯太の、好きな人の足手まといにはなりたくない。絶対に。リレーのチーム決めはリーダーを出してジャンケンで勝ったリーダーが好きなメンバーを取っていくやりかただ。颯太はいつも一番に勝って私を取ってくれる。けど、今日はあんまり走れないから余ることになりそうだ。颯太に迷惑はかけたくないけれど颯太がほかの人と走るのは、、、。
ーちょっと嫌。
バカみたいなことを考えていたら始業のベルが鳴った。

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「よっし!チーム決めジャンケンやるぞー!」

学級委員の声がグラウンドに響く。四継リレーのリーダー8人がそれぞれ利き手を高く上げる。

「さーいっしょっは、ぐーっ!じゃーんけーん…」

「「「「ぽんっ!!」」」」

チョキが7人、グーが1人。誰かの一人勝ちだ。

「勝った!!」

両手を高く上げて勝利者宣言をしたのは颯太だった。颯太は誰を選ぶんだろう。男子で颯太の次に速い、大田君だろうか。それとも最初から女子を取るかもしれない。そうしたら、絵里ちゃん?そういえば、美羽も足が速かった気がする。
ー颯太、誰を選ぶの?
でもきっと、私は颯太が誰を選んでも私以外の人だったら嫉妬するんだろうか。嫉妬とかバカみたいだ。

「ちぇっ、また颯太のひとり勝ちかよー。しょーがねぇから、ほら。さっさと選べよ。」

学級委員が颯太を急かす。自分から断ったはずなのに自分以外を選んで欲しくないなんてとんだ矛盾野郎だ私。あ、野郎ではないか。

「うーんと。じゃあ、夏生!今回も頼む!」

ーなんで私…?
今日はあんまり走れないって颯太にちゃんと言ったはず。忘れたのかもしれない。颯太は抜けているところがある。

「えっと…、私、今日あんまり走れないよ??」

颯太は何言ってんだという目で私を見る。美羽が私と颯太の顔を交互に見ている。私は颯太の返答を待つ。

「うん。知ってる。さっき聞いたじゃん。」

さも当然のことのように颯太は言った。
ー本当に私でいいの…?
でも、選んでくれたことは率直に嬉しい。

「私でよければ…、ヨロシクお願いします…。」

いつも話している颯太のはずなのに何故か緊張してカタコトの、来日したての外国人のようになってしまった。

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「颯太。選んでくれたのは嬉しいんだけど、本当に私今日はきっと足引っ張っちゃうと思うから、その。ごめん!先に謝っとく!」

颯太と一緒に走る以上、なるだけ足を引っ張らないように全力は尽くすつもりだが、普段のようにはきっと走れないだろう。

「別に、謝んなくていーよ。俺が夏生と走りたいから選んだだけだし。てか、夏生がビリでも俺が夏生の分まで走って追い抜くから。」

まっすぐ私の方を向いて颯太は言った。たかが体育の授業なのにこんなに真剣になれる颯太が好きだ。

「さんきゅっ!でもね、颯太。ビリにはならないから大丈夫だよ(笑)」

大丈夫。颯太が見ていてくれる。私のバトンを颯太が待っていてくれる。それだけで私は速く走れちゃうから単純だ。

「なっ、例えだろ!たーとーえ。」

いちいちムキになって反論してくるところさえも愛しいと思う。颯太といると自然体の私でいられて、時間があっという間に過ぎる。
ーあぁ、そっか。だから私颯太が好きなんだ。

「ふふっ。」

「なっ、何だよ!」

「ふふっ、颯太には内緒っ!」

まだ打ち明けない。私の密かな恋心。いつか君に渡したら君は受け取ってくれますか?

Fin.

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人物紹介(フルネーム載せるだけ)

澤口 夏生 (さわぐち なつみ)
ヒロイン。颯太が好き。

早瀬 颯太 (はやせ そうた)
ヒーロー。夏生が気になる?

大田 美羽 (おおた みう)
夏生の友達。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

君とバトンを繋ぐのは。

恋愛短編みたいな感じでちょこちょこ投稿していけたらなーと思ってます。文才ないですが少しでもキュンとして頂けたら幸いです。今回は陸上部の男の子と女の子の話でした。

閲覧数:69

投稿日:2016/08/30 21:46:46

文字数:2,657文字

カテゴリ:小説

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