17.
『都市の亡骸から炎は消え、燻り続けている。
 静寂は全ての生命を包み込み、未来に帳を下ろす。
 願いの果ての世界でも、夕焼けは鮮やかな紅い色だった。
 これは愛の為に嘘を吐き続けた、ありふれた少女の物語』



 彼女は丘まで歩きました。
 礼拝堂でどれだけ泣いたかわかりません。
 泣き疲れてしばらくして、礼拝堂から出てその奥の丘に広がる広大な墓地を彼女は歩きます。ただ静かに、黙々と、血の跡を残しながら。
 やがて彼女は、一つの墓標の前に辿り着きました。
 それは彼女の最愛の人の名前が刻まれた墓標でした。
 丘の頂にあるそこからは、“針が降る”と揶揄され……彼女によって文字通り“針が降った”都市が見渡せます。いくつかの高層ビルが崩れ落ち、都市の至る所から火の手が上がり、煙が立ち昇っています。
 それは彼女の望んだ光景。
 そして、彼女の望まなかった光景でした。
 遠くで不意に爆発音が響き渡ります。
 それは礼拝堂の手前に停まっていた車で……彼女をここまで運んできた車でした。
 その車には彼女を支えた人物が乗っていたはずですが、最早興味を失っているのか、それともこうなることがわかっていたのか……彼女は墓標に刻まれた名前を指でなぞっているばかりで、そちらを見向きもしません。
 それから幾人もの人々が燃え上がる車を囲んで歓声を上げます。彼らを伴っているのは、一人の少年でした。
 かつての彼女のように、憎悪と復讐の炎をその目に宿した少年です。
 彼はやがて血の跡を辿り、彼女の元へとやってきました。
「リン・ニードルスピア男爵。我、ヨハンの名に置いて汝の罪を裁かん。己が罪を数えよ」
 背を向けたままの彼女に向けて断罪の声を響かせ、少年は拳銃を構えます。
 それは少年の手には余る大きさの、回転弾倉式の拳銃でした。
「一つ。自らの身勝手な理由で針降る都市を壊滅せしめた罪」
 彼女の言葉をなぞるような少年の言葉にも、彼女は反応を見せません。そんな姿に少年は苛立ちを隠そうともせず、矢継ぎ早に言葉を紡ぎます。
「一つ。スコット・ギレンホールの他、無実の善良な人々を死に追いやった罪!」
 少年は舌打ちをして声を張り上げます。……それでも彼女は、少年を振り返りもしませんでした。
「一つ! 僕を騙し、利用し、自らの都合のいい道具として罪を重ねさせた罪だ!」
 それでも彼女は反応を示しませんでした。ただ、墓標に向かって、誰にも聞こえない声で、これまで誰も聞いたことのない優しい声音で、小さく囁きました。
「……暇を少し、いだきますね」
 囁き終えると、彼女は満足そうに微笑んで瞼を閉じました。
 それは彼女が最期の最期に見せた、最愛の人を失って以来の本心からの笑顔でもありました。
 やがて丘に銃声が木霊し、彼女の望みは……果たされたのでした。



Fin.

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

針降る都市のモノクロ少女 17 ※二次創作

第十七話こと、最終話。

冒頭の二重鍵括弧は元動画より引用しております。

ここまでお付き合いくださり、ありがとうございます。
そして原曲作曲のTaku.K様、本当にありがとうございます。

執筆期間は約三か月、この曲の世界観にどっぷりと浸かっていました。
今回、冒頭は原曲と全然違う感じになってしまいましたが、後半になるにつれどんどん原曲に忠実になっていったんじゃないかと思います。
あと、いろんな文体が混ざっている構成は、うまくいったような気がするんですがどうなんでしょうね……?


ともかく、例によっておまけがあります。
こんなエンディングですが、ハッピーエンドが必要な方は前のバージョンをご覧ください。

いつも通り次回更新予定はありませんが、また気になる楽曲と出会った際にはお邪魔します。

その時まで、それではまた。

閲覧数:162

投稿日:2019/12/05 20:30:45

文字数:1,188文字

カテゴリ:小説

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