あたしは、雑音とユニットを組むことになったんだ。
そう。これならファーストの連中に勝てるかもしれない。
と、言うわけで敏弘のプロデュースで活動を再開することになった。
だけど、雑音が・・・・・・。
雑音の様子がおかしい。
あの、新人の初音ミクオを見たとたんに。
最初は、昔のなんかの仲かなと思った。
でもそんな様子じゃない。雑音は、脅えてる様だった。
それに、あいつは新型。雑音が会えるはずないんだ。
それじゃ、どうして?
「シンクロベンチマーク終了。システム、待機モードに以降します。」
電子の音声が、ヘッドセットから聞こえ、それまで見えていた不思議な空間が消えて目の前が暗くなった。
あたしはすぐにヘッドセットを頭から取り外した。
「終了だ。なかなかのスコアが出てたぞ。これならすぐにデュエットができるな。」
と、敏弘が小部屋から出てきた。
今のはヘッドセットのバイザーを使って、仮想なんとか空間でのダンス練習をする練習。
ボーカロイドはやたらとパフォーマンスやユニット組むことが多いから、こういうことで適性かどうか、ということを測ってるらしい。よく分からんけど。
「そういえば雑音さん。どこか気分が優れないようですが。」
敏弘も、雑音の様子がおかしいことに気付いてた。
いつもはあんなに明るくて、あんなに喋る雑音なのに。
だけど、今日はいつもの雑音はいない。
暗い顔をして、全然喋らないんだ・・・・・・。
「雑音さん?」
「大丈夫・・・・・・平気だ。」
雑音はおでこに手を当てた。全然大丈夫じゃない。
「そうは見えません。少し休憩なさっては。」
「・・・・・・分かった。」
「保健室に案内します。」
「・・・・・・ああ。」
「ネル。お前はここにいろ。」
敏弘が雑音の背中を押して、防音室の自動ドアから出て行った。
・・・・・・どうなってんの。
ベッドに腰を下ろすと、少しだけ気分が楽になった気がした。
少しだけ・・・・・・。
まだ、頭が痛い。
「横になったほうがよろしいのでは。」
敏弘は優しくしてくれた。
「いや・・・・・・これでいい。このままがいい。」
だけど、そっけない返事をしてしまった。
気分が、落ちつかない・・・・・・。
わたしの中に、何かが、いる。
何かが、目を、覚ます。
「・・・・・・こんなところで言うべきことじゃありませんが、雑音さん。よく聞いてください。」
「?」
「私は、いえ、明介君も、あなたと初音ミクオの間に何があったか知っています。」
・・・・・・!
そんな・・・・・・どうして・・・・・・あんなことを。
いやだ。思い出してしまう。あの出来事が。目を覚ましてしまう。
やっと忘れることができたのに・・・・・・!
でもどうして?
「私達のことは、あなたに詳しく説明することは許されていません。しかし、今こうして私があなたに話している意味が分かりますか?」
「・・・・・・いや。」
「あなたと対等に話し合うためです。」
敏弘さんは、わたしの隣に座った。
「せめて、あなたの気分を少しでも楽にさせられたら、と思いまして。」
「・・・・・・。」
「彼を突然見て、驚いたでしょうね。」
「・・・・・・ああ。」
なんで・・・・・・生きているんだ・・・・・・。
わたしが・・・・・・この手で・・・・・・!
「彼があなたをどう思っているか、気になりますか。」
「ああ・・・・・・。」
「安心してください。彼はあなたのことを恨んではいません。」
「え・・・・・・。」
わたしのことを恨んでいない?
あんな、ひどいことを、したのに。
わたしが・・・・・・・・・・・・。
「本当に?」
「ええ。だからお気になさらずに。まだ気分が優れないかもしれませんが、いつか彼とゆっくり話し合えば、和解することができるはず。ですから、そんなに深く考えないほうがいいですよ。」
敏弘さんはにっこりと笑っていた。
そんな敏弘さんを見ていると、なんだか本当に気分が楽になった気がした。
「まぁ、ゆっくり考えて、自分を落ち着かせてください。時間はあります。」
「・・・・・・一つだけ、教えてくれ。」
「はい。」
「ミクオは・・・・・・どうして生きているんだ。・・・・・・信じられない。わたしが・・・・・・この手で・・・・・・。」
「それは私も存じません。ただ一つ言えることは・・・・・・。」
敏弘さんは立ち上がった。
「彼は生きているという、事実です。どうか、受け入れてください。」
敏弘さんはそのまま保健室を出て行ってしまった。
わたしはベッドに横になって、布団をかぶった。
すると、すぐに眠くなってきた。
そうだ・・・・・・ゆっくり休めば・・・・・・。
ミクオ・・・・・・。
どうして、わたしにまた会いにきてしまったんだ。
わたしは君を忘れたかった。
君も、わたしなんか忘れたほうがいいに決まってる。
本当は、わたしのことを恨んでいるんだ。
だから、もう会わないほうが良かった。
もう会えないと思っていたのに。
あの出来事を忘れられると思ったのに!
でも君はわたしに会いに来た。
何を、しに?
もう思い出させないでくれ・・・・・・!
あんなこと、もう二度といやだ。
いやだ!
いやだ!
いやだ!
いや・・・・・・だ!
わたしは・・・・・・どれくらい眠っていたんだろう。
・・・・・・誰?そこにいるのは・・・・・・。
わたしの顔に、触れている。
誰だろう・・・・・・。
「やぁ。」
・・・・・・!
「また在ったね。」
「あ・・・・・・あぁ・・・・・・あ・・・・・・。」
言葉が・・・・・・出ない。
体が・・・・・・震える。
そこには、ミクオが、いた。
あの時と同じ顔をして。
あの時と同じように・・・・・・。
「そう驚かなくてもいいんじゃないかなぁ。」
「無理もない。」
明介・・・・・・?
「ミクオぉ・・・・・・!」
やっと、声が出た。苦しい。
「はは。久しぶりだね雑音さん。」
「どうして君が・・・・・・。」
「まぁまぁ。」
ミクオが、わたしの言葉を邪魔した。
「もう時間も遅いよ。それにこんな所にいちゃ体に障る。そうだ。外を散歩でもしようよ。」
ミクオの言っていることの意味が、わたしには分からない。
「さぁ・・・・・・立てる?」
わたしは何も言わずにベッドから立ち上がった。
気分の悪さは、なくなった。頭も痛くない。
「ミクオ・・・・・・。」
「ん?」
「話したいことがある。」
ミクオに聞きたいことがある。
どうして君が生きているのか。
どうしてわたしのところに来たのか。
そして、何より、
どうしてあんなことをしたのか。
「ねぇー。敏弘。」
玄関前のロビーのソファーで寝転んでいたネルが、退屈そうに声を漏らした。
「何だ?」
「雑音は?」
「まだ寝てるよ。今日は保健室に泊まるかも知れん。」
結局彼女は午後も目を覚ますことはなかった。
その時は、ネルも活動のことで色々と多忙であったから、彼女の顔を見に行く余裕は見当たらなかった。
俺はゆっくり休んでいた方が、彼女のためであると思った。
ミクオが彼女の前に姿を現したことは、彼女にとって計り知れないほどの精神的ダメージを負わせるだろう。
受け入れろ、とはいったものの、そんなことは簡単にできるものでは無いとわかっている。
とはいえ、俺にはあの程度しか助言することができなかった。
苦しんでいる者をろくに助けてやることもできない己の不甲斐なさに、俺は歯がゆく思った。
「そうだ。じゃあ顔でも見にいこうっと・・・・・・あ、雑音!雑音ぇ!」
「何?」
顔をネルの言葉が向けられた方に向けると、そこには、雑音さんと初音ミクオの姿があったのだ。
どういう訳か、二人の距離が近い。
そして、明介の姿が見えない。
「もう体はいいの?ていうか、なんであんたも一緒なわけ?」
「ん、僕かい?いやちょっと話でも・・・・・・。」
話・・・・・・。
「あんたのせいで雑音が・・・!」
「ネル。」
「え?」
「ごめん・・・・・・先に・・・・・・帰っていてくれ。」
その彼女の発言に不信感を抱いたのは、俺だけではないはずだ。
二人が自動ドアを抜け、夜の街中に紛れていく姿を、ネルはただ立ち尽くし、見つめていた。
雑音がおかしい・・・・・・・・・・・・。
絶対、あの初音ミクオのせいだ。
あいつに何か秘密があるんだ。
だから雑音がおかしくなったんだ。
二人の後を、付けよう。
事務所から出て行く二人の背中を見つめながら、思った。
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