<Run! Run! Run! ボカロット猛レース! 第3話 呪われたレース>

 開幕戦のレースの“残り周回”も、もう無くなってきていた。

 フィーーーーーーン!!!

 トップはミクからボカロットでの攻撃を受けたもののホバー走行に大きな問題はなかった“サクーシャカンパニー”のサクーシャだった。勿論、トップスピードは落ちてしまったので、他のボカロットとの歴然とした差はないものの、その類い希な機動性から、スルリと他からの攻撃をかわしていたので、あれからトップを守り抜いていた。安定した走行なのだが、パイロットのサクーシャの心にはあまり“余裕”がなかった。

サクーシャ:開幕戦の1位は貰ったと思うが、あのネギ色のツインテールの機体…ミクとかいうパイロットめ、一体俺が何をしたというんだ! 別に攻撃自体はルール内の事だから文句はないが、スタート直後の攻撃とか考えられん! それにあれからの執拗なマークと牽制… こっちのマシン性能が高いから追いつかれての接近戦がないから良いようなものの、あれから、ずっと2位をキープして、様子を伺っているスタンス…。こりゃ、本社に問い合わせて、“ミク”、そのものを調べないといかんな…

 ガシン!ガシン!ガシン!

 2位のミクも懸命にボカロットを操縦してサクーシャを追いかけていたが、差は縮まらなかった。

ミク:くっ、最大限のチューニングをしてもマシンの基本性能が足りない! それにミサイルの射程外をキープするとは…。この1戦はここまでか…

 “攻撃OK”、“邪魔OK”のルールとはいえ、走行競技なのだから、そうそう常に、ドッカンドッカン、戦いがあるわけではない。まして“開幕戦”、他のチームのデータもそう十分にあるわけではない。さらに初参戦2チームがトップ、2位をキープしてしまっている現状では、調査データがさらにないため、攻撃等に充填を置くボカロットには、非常に不利なレースだった。

結局、スタート直後のミクの攻撃で被害を受けた2チームが少し順位を落とすだけで、おおむね、予選順位の順番が、本戦の結果に反映されたのだった。

TOP:ゼッケン09(サクーシャカンパニー) 合計ポイント25
2位:ゼッケン01(ナガネギーコーポレーション) 合計ポイント18
3位:ゼッケン06(AHSホールディングス) 合計ポイント15
4位:ゼッケン03(タコルカー鮮魚組合) 合計ポイント12
5位:ゼッケン07(アシュグループ) 合計ポイント10
6位:ゼッケン00(メイコ酒蔵株式会社) 合計ポイント8
7位:ゼッケン04(レーシングチーム・VY) 合計ポイント6
8位:ゼッケン05(印種不動産) 合計ポイント4
9位:ゼッケン02(ジナラシ組) 合計ポイント2
10位:ゼッケン08(フォーリナー) 合計ポイント1

 とりあえず“フォーリナー”チームは、予選のようにリタイアすることはなかったが、本調子が出せず、ビリとなってしまった。また、こんなレース状況になってしまったため、攻撃がメインの印種不動産、ジナラシ組、は、下位に終わってしまった。逆にアシュグループ、メイコ酒蔵株式会社が、ミクの攻撃をもろに受けてしまって順位を落としたため、後続で走っていた、AHSホールディングス、タコルカー鮮魚組合、はそのまま、2個上に順位を上げることが出来たので、ある意味“棚ぼた”だったわけだ。

 ミクは開幕戦の表彰台に登った後、レース主催側の関係者に呼ばれ、今後、スタート直後の攻撃、牽制、派手なコース取りをしない誓約書を書かされ、警告を受けてしまった。減点はないのだが、今後のレースで破れば、もっと厳しい“レース参加取り消し”もあり得ることを告げられた。

その割にミクは平然としていた。ミクの頭の中にあるのは、あの“サクーシャチーム”の事や、警告で禁止された方法以外で追いつめる手段を考えることであった。

 とりあえず開幕戦が終わり、各チームは次のレースが始まるまで各会社に戻るわけだが、帰社するまでにピットで1日ほど、じっくりとマシンの状態を調べたり、ネット接続されているPCを使って情報を入手したりできる。

***

(レース後 夜 サクーシャカンパニー ピット)

 カタカタカタ…

 サクーシャは本社に戻る前に、社員パスワードを使って、自社のサイトに入り、“ミク”、の事を調べていた。

サクーシャ:…失踪事件…異様なボカロット目撃…一応の解決…犯人未だ見つからず…こ、これは…だから“俺”だと勘違いしたのか…

 サクーシャは、なにやら“ミク”に関する情報を入手したようだった。

 チッ…チッ…チッ…

サクーシャ:冗談じゃない! まだあいつ、ピットにいるはずだな。すぐにこの情報をプリントアウトして、誤解をt

 チッ、ドゴオオオオオオオオオン!!!!!!

 サクーシャチームのピット内部が“ひしゃげてしまう”程の大爆発が起こり、すぐに消防車、救急車、関係者達が集まり、消火活動が行われた。しかし、爆発の中心にいたサクーシャチームのボカロット“マネキネーコ”は大破し、サクーシャはひどい重傷を負ってしまった。

 担架に乗せられたサクーシャの元にミクが駆けつけ、サクーシャの顔をのぞき込んだ。

ミク:わ、私じゃないぞ
サクーシャ:わ・・・わかって・・・る。だ・・・が・・・俺も・・・“あの犯人”じゃ・・・ないぞ・・・この参加・・・チームの・・・誰かの・・・はず・・・だ・・・気を・・・つけろ・・・
ミク:・・・わかった。すまなかった…
サクーシャ:ああ・・・俺は・・・戦線・・・離脱だ・・・頑張れ・・・よ・・・

 この後、サクーシャは気絶してしまい、担架のまま救急車に乗せられ、コース直属の病院に救急搬送されていった。

ミク:犯人はアイツじゃなかった…。誰なんだ、“真犯人”は…

 その後、サクーシャチームのピットに治安警察の調査が入ったが、爆心地がボカロット燃料タンク部分だったことや、不審者や目撃者がいないこと、犯人に繋がるような痕跡が無かったことから、結局、『ボカロットの整備不良による、燃料への引火爆発』、と結論づけられてしまった。他のピットには奇跡的に損傷がなかった事から、年間のレーススケジュールに変更はなく、一ヶ月後にちゃんと予定通りの(別の)レース場で、第2戦が行われることになった。

 しかし、パイロット兼クルーのサクーシャが重傷を負ってしまった事から、開幕戦なのに、“サクーシャカンパニー”チームは、今年のレースから外されることになってしまった。次は、9チームによる戦いとなったわけだ。

ミク:あまり派手に立ち回ると、サクーシャのような被害者が出てしまう…。2戦以降は普通にレースをしながら探すことにせざるを得ないな…

***

 そして、一ヶ月後…

(第2戦 新潟県 ネオ佐渡島キンザンシティレース場)

2戦目は、古来、金山で有名だった島をレース場に改造した場所が舞台だった。全10戦中の2戦目、まだまだ年間レースは序盤だったが、各チームのボルテージは高かった・・・と書きたいのだが、ミク以外のチームは、何か“緊迫した”ムードだった。理由は言わずもがな、“開幕戦のサクーシャの事故”だった。“事故”と警察からは見解があったものの、心からは信じ切れていなかった。サクーシャは“開幕1位”だったのだ。それが狙ったように事故でリタイアでは、“きな臭い”臭いがしても仕方がない。各チーム共に、

『1位は危険だ。巧く1位を“毎回違うチーム”に譲り、自分は2位以下で年間レースを動いていって、トータルポイントで最後に優勝して、警備を最大限にしながら、さっさと自社に逃げる』

 作戦に出ているようだった。しかしミクは違っていた。警告を受けている事もあるのだが、各ボカロットとパイロットの挙動を調べるため、各順位を常に移動できるようなマシンチューニングを施して、様子を見る事にした。

 そして予選。今回はサクーシャが抜けた“9チーム”で行われた。各チーム、ガチのタイムアタックが出来ず、コースの記録的には宜しくない結果に終わってしまったが、とりあえず以下のような順位に決まった。

PP(ポールポジション):ゼッケン01(ナガネギーコーポレーション)
二番手:ゼッケン00(メイコ酒蔵株式会社)
三番手:ゼッケン03(タコルカー鮮魚組合)
四番手:ゼッケン04(レーシングチーム・VY)
五番手:ゼッケン07(アシュグループ)
六番手:ゼッケン06(AHSホールディングス)
七番手:ゼッケン02(ジナラシ組)
八番手:ゼッケン05(印種不動産)
最後尾:ゼッケン08(フォーリナー)

 今回も7位以下のチームが同じになってしまったのは、まさにあの事故への対応だった。ジナラシ組については、攻撃型故にボカロットの火器類にセーフティ装置を多めに積んでしまっていたこと。印種不動産は、パイロットのリュウトがかなり怖がってしまって、ビビットな走りが出来なかったこと。フォーリナーは、ボカロットの挑戦的なパーツを排除したため、バランスが崩れたことだった。

 対してミクのチームは、“相手をおびき出す”事も含めて、タイムは出来るだけ良いモノにしていた。“様子は見るが、食いつけばいいのだが”、それがミクの狙いだった。

 いずれにしても、主催者側もチーム側も、慎重な進行を心がけ、本戦がスタートした。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
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Run! Run! Run! ボカロット猛レース! 第3話 呪われたレース

☆オリジナル作品第14弾である、「Run! Run! Run! ボカロット猛レース!」の第3話です。

☆開幕戦前のほんわかムードとは一変して、シリアス推理モノの様相が・・・

☆サクーシャ=作者チームは、早々にリタイアでございます。

☆一体、真犯人は誰なのでしょう?

閲覧数:227

投稿日:2011/05/01 15:56:31

文字数:3,895文字

カテゴリ:小説

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  • ayuu

    ayuu

    ご意見・ご感想

    こんばんは~^^ayuuです
    メッセージが死ぬほど遅れて申し訳ありません><

    サクーシャ……すごくドンマイですよね。これがいわゆる死亡フラグって奴ですかね…

    ミクとサクーシャは一体何を知っているのか……?すごく謎です。
    推理するのが楽しいです!

    2011/05/26 19:36:52

    • enarin

      enarin

      ayuu様、今晩は!

      > メッセージが死ぬほど遅れて申し訳ありません><

      いえいえ、コメント頂けるだけで、とっても嬉しいです! それに貴方はテストとかで大変でしたから、無問題です?

      > サクーシャ……すごくドンマイですよね。これがいわゆる死亡フラグって奴ですかね…

      そうです、”死亡フラグ”ですね。そして重傷を追ってしまったのは・・・作者(サク(-)シャ)です。あ、勿論、リアルの私ではないです。いつもの”作者が話に出てくる”ってヤツです。さらば、作者っす!

      > ミクとサクーシャは一体何を知っているのか……?すごく謎です

      このお話、レース物で続けるはずだったのですが、何故かミステリー・・・そんな大げさな謎解きではないから、サスペンスかな? さぁ、様子がおかしいミク、調べたら怪我を負ったサクーシャ、一体”何”を知っているのでしょうか?

      > 推理するのが楽しいです!

      そういえば、謎解きからコメントが始まりましたね♪ 私も謎解きは好きです。どたばたレースだけではシナリオを構成できないと思ったので、初期設定の通り、謎を骨組みにしてみました。

      このたびのご閲読、コメント、有り難うございます!

      P.S.風邪の件、是非ともご自愛下さいませ。

      2011/05/26 21:00:33

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