青い空の元に白くて大きなお城が建っている。

木陰の下に死体が転がって居て、白い花の咲く草花の上に、美丈夫で素敵な王子様が静かに横たわっている。

まるでその姿は眠っている様で。白い正装に身を包んだ私の王子様。私だけの。
私はお姫様で、死体の頬をゆっくりと撫でた後、ピンクとレースに包まれたドレスの裾を持って隣に座る。これから王子様にキスを。私の王子様を生き返らせる為に。




俺は、コンビニに来た。聞き慣れた自動ドアの音楽を背に、上着を着こんた身体を温かい店内に滑らせる。今夜は木枯らしが寒く、酒とつまみの他に肉まんも買って帰ろうと思う。家に何故か居る、年上の友人なのか世話焼きな兄ポジションなのか形容し難い男の分も買っていってやるつもりだ。ピザまんは好きだろうか。

ふと見ると、レジの手前に女が居た。チェックのコートにひざ丈のスカート。店内にはその女以外誰も居ない。手にはナイフ。そこから血が滴り落ちている。カウンターの向こうには誰も居ない様に見える。



腹が燃える様に熱い。刺された。正方形の盤面の様になっているコンビニに黒い血が広がる。

いつも来る若い客の女にいつもの様にレジを打ちながら、雑談をした。と言ってもいつも1言2言交わす程度の仲で、知り合いとすら言えない様関係の女だ。何故刺されたのか分からない。心当たりが無い。ただ、卒論で忙しくなるので、来週このコンビニを辞めると告げただけ。何だこいつは。頭がおかしい。死にたく無い。助けて。助けて。

自動ドアの開く音楽が鳴った。客が来た様だ。助かった。息が荒い。痛みと恐怖でおかしくなりそうだ。誰かこの頭のおかしい女を取り押さえて、俺に救急車を。助けて。



俺はレジに近寄って、カウンターの向こうを見た。シマシマの制服を着た男が倒れている。格子の床に血が広がっている。困った。肉まんが欲しかったのに、店員がこんなんでは買えない。俺の隣に居る女が刺した様だ。俺は女の顔を覗きこんだ。髪は艶やかな真黒で、顔が驚く程白い。血の様に真っ赤な唇。だけど顔に表情が乗っておらず穏やかな表情をしていた。それから、はくはくと人形の様に、口だけ動いた。

「だって、会いたい時に会えないなら、いらない。」





そこに行けば手に入る。会いたい時だけ会える。あたしに会ってない時は死んでて。あたしが会いたい時は生き返って。あたしだけ見て。誰も見ないで。あたしだけの王子様。コンビニの恋。

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【小説】コンビニの棺

ショートショートです。

閲覧数:60

投稿日:2021/04/11 23:49:33

文字数:1,026文字

カテゴリ:小説

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