episode1-1
信崇には…増田半兵衛(ますだはんべい)と言う、執事(しつじ)が身の周りの世話をしている。高校入学当時は、半兵衛の送り迎えで車を使っていたが、周りの声が…『大企業の息子だもんねぇ~。』『理事長の息子だろ…いいよなぁ~車で送り迎えが出来て…楽だろうな~。』と噂される様になってからはバス通学を始めた。…片道30分ほどのバス通学は信崇に取っては新鮮な風景に映っていた。『この人達に…それぞれの人生があり、それぞれの家族があり、様々な繋がりの元で生きている。そう考えると…私はどれくらいの人に出逢うのだろう…。』そんな事を思いながら、バスに揺られていると…とあるバス停で女の子が飛び込んで来た。長い弓…?を持ったポニーテールの女子高生が、汗で曇った眼鏡を外した瞬間…時間が止まった様な感覚に陥(おちい)った。『何なんだ…この感じは?…あの子の素顔を見た途端に、自分の胸がドクッンと鳴った…。あの素顔は…何にも例えられないほど、美しい…。いかん、いかん!ここはまず、落ち着く事だ…。落ち着け!落ち着け!…先ずは、冷静に客観的に見る事だ!…あの制服は確か…輝響(ききょう)高校はずだが、おかしいな…。この先は商店街になって、私の屋敷と数件のお隣さんしか、住宅は無いはず…。ひょっとして、この子…バスを乗り間違えたんじゃないか…?』「あの…失礼ですが、行き先を間違えていませんか…?この先は商店街しかありませんけど…。どちらに向かわれますか?」「え~~っ!嘘、…嘘!どうしょう…。また…やっちゃた~っ!もぉ~う…。」驚いたと思うと…すぐ落ち込む女子高生は、及川濃巳(おいかわのうみ)だった。「…あのう~、もし良ければ…家の者に送らせますが、どうでしょうか…?」「そうそう!そうして貰いなさいよ!この男の子の身元は保証するからね。」おばちゃんがいきなり横から出て来て、そう言う。「えぇ~っ…!中山のおばちゃん…!乗ってたの!…もぅ~っ、びっくりした~っ!」「ねっ!この通り、顔見知りでしょ?この家の執事さんは、優しい人だから家まで送ってくれるよ。さぁさぁ!ここで降りるでしょ!信崇さんもしっかりと送って挙げないと…!ねっ!」嵐が来たかの様に、バスを降ろされた2人…。「…なんか、ごめんね。訳判(わけわか)んないよね…。あ…あの、私は沖田信崇と言います。甲斐南高校3年です。家はこちらです。10分ほどで着きます。」「…私は及川濃巳と言います。輝響高校3年です。この度は私のバスの乗り間違いに気付いて下さり、また、送って下さるとのお申し出を、有り難くお受け致しましたが、ご迷惑ではありませんか?」濃巳が丁寧にお辞儀をして、頭を上げて信崇の顔を見た瞬間…固まった。『…信ちゃん?…ウソっ!髪型がまるで違うけど…こんなに似てるなんて…。』「…そんなに畏(かしこ)まらなくても、大丈夫ですよ。…濃巳さん?…どうかしましたか?」信崇の声に、ハッと我に返る濃巳…。「ごめんなさい。つい、ぼ~っとしてました。…変な癖なんです。」「…お待たせしました。ようやく、家に着きました。…ちょっと待っててね。ただいま~!私で~す!」濃巳が辺りを見渡すと…綺麗な紋様に曲げられた鉄の帯が織りなしている、壮大な門扉(もんぴ)。その奥に見える…絢爛豪華(けんらんごうか)な装飾(そうしょく)が施(ほどこ)された造りの建物が居並ぶ…。表札の『沖田』の文字に…ハッと何かに気付いた濃巳。「…もしかして、沖田化学の…息子…さん?」「…バレちゃったか。まぁ…この建物見たら…そりゃ、バレるか。」照れ隠ししながら…顔を叛(そむ)けた。信崇の声に気付いたのか…門扉の隣の小さめ扉が開く。扉をくぐり抜けると…建物の大きさが、また一段と大きく感じる濃巳だった。「お帰りなさいませ…。おや…お客様ですか?信崇様に女性のお友達がいるとは…初めての事ですかな?私は嬉しい限りです。あっ…申し遅れました。私は、沖田家に仕える執事の増田半兵衛と申す者でございます。」スーツ姿の初老の男性が、優しい面持(おもも)ちで、にこやかな笑顔で微笑んでいる。「…あ、あのっ!私は…そう言うつもりでは無く…」と濃巳が言い掛けた時に…「後は私が話します。…ご心配には及びません。少し待ってて下さいね…。」信崇が半兵衛と、事の成り行きを話していると…1匹の大きな犬が、濃巳に近寄って来る。「あぁぁ…!小次郎様~!」半兵衛が心配して近寄ろうとすると…「まぁ~!あなたは、小次郎さんって言うのね。仲良くして下さいね!」濃巳の扱いに、安堵の表情を浮かべる信崇と半兵衛。「…では、私はお車の用意をして参ります。しばらくお待ち下さいませ…。」丁寧にお辞儀をすると、足早にその場を後にする半兵衛。濃巳は…犬と戯(たわむ)れる隙に、信崇の顔をまじまじと、見詰めていた…。『見れば見るほど…信ちゃんにそっくりだわ~っ!…2人が面と向かって逢う事になったら…事件になるわね…。』そんな事を思ってる濃巳周りは…屋敷の玄関先が、少しの華やかと穏やかさに包まれる…ひと時であった。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

歴史を変える、平和への戦い

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投稿日:2024/03/17 16:49:29

文字数:2,093文字

カテゴリ:小説

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