「で、したい話ってのはなんなんだよ」

商店街の一角のベンチに腰掛け、俺は切り出した。
1ヶ月後に初音ミクが量産化される事を記念した祭りが開かれるという事で、街の中は既に様々な装飾が施され、華やかな雰囲気を醸し出している。どうでもいいがあちこちに貼られた初音ミクのポスターを見る度に雑音の機嫌が悪くなるんだよな。

「そう急くなよ。ほら、アイス食うか?」

ここに来る途中のコンビニでダース買いしたハーゲン○ッツのうち一つを俺に渡し、カイトは幸せそうな表情でアイスを頬張った。女が見れば普段の表情とのギャップにドキッとするんだろうが、男の俺の目にはただのマヌケ面にしか見えない。

「ああ……やっぱいいよなアイスは……僕はこれを食す為に生まれて来たんだなぁ……」

「アホか。いいからさっさと話を始めろ」

「カッカしてても良いことないぜ?アイスで頭を冷やしたらどうだ?」

「こいつぁぁ……」

イラッ。
本当にアイスの事しか頭にないのか。

「まあ、実を言えば君のことは前から気になってたんだよね。『新しく入った亜種は日常的に自分の設定に準じてる』って話を聞いた時から……そうだ、呼び捨てでも構わないかい?」

「別に構わんが……」

日常的に設定に準じてる、というよりは設定が事実というか……まあどうでもいいか。

「それに、最近なんだかハクが少し明るくなってね、何があったか聞いてみれば君がずいぶん励ましてくれたそうじゃないか。しかもその矢先に君をKAITOMANに出演させようという話題が持ち上がったものだから、これは是非会っておこうと思ってね」

「そうか……」

ハクさんは頑張ってるみたいだな。良かった。
カイトは二個目のアイスをクーラーボックスから取り出しながら、尚も話を続ける。あんなものをアイスを入れるためだけに持ち歩くとは……どんだけアイス好きなんだ。

「まあ、正直噂に違わぬ実力の持ち主だというのは今回でよくわかったよ。何度も言うようだが初めてであれなら大したものだ。演技用にプログラミングされたボカロでもああはいかない」

「……人間時代の下積みが思わぬ所で効果を発揮したってとこか……」

「ん?何か言ったかい?」

「いやなんでも」

僅かな呟きにも気づくとは。抜けているようで油断ならない。

「で、本題なんだが……君がうまく演技をこなすコツを、教えて貰いたいんだ」

「……は?なんであんた程の奴が今更そんな事を?」

正直、仕事中のカイトは本当にすごかった。まるで役そのものになってしまったかのような錯覚を受ける程、彼はカイトマンになりきっていた。そんな人間が、いくら演技が上手いと絶賛されているとはいえ、俺のような無名から学ぶことがあるとは思えない。
すると奴は俺をまっすぐに見据え、今までとはうってかわった真剣さを秘めた声色で言った。

「みんな僕の演技は素晴らしいと言ってくれるが、僕はまだ満足していない。もっと近づける気がするんだよ、演じているキャラクターに。その為にならなんだってするつもりさ。だから、君の事も参考にさせて貰いたい」

(こいつ……)

俺はその時、奴の微笑みを浮かべる目の奥に、炎が灯っているように感じた。情熱とも執念ともとれる、激しく心を焦がす光。それは俺には熱すぎて、眩しすぎるものだった。
見ていられず、俺はすぐに目を逸らした。怯えるように。

「……悪いが、俺の演技はあんたの参考には、絶対にならない」

「なんでだい?」

「いや、参考に出来ないと言った方が正しい。なぜなら、あんたと俺の演技の仕方は、まさしく間逆だからだ」

不思議そうに聞き返すカイトに、俺は吐き捨てるように言った。

「あんたの演技は、役に入り込む演技だ。自分自身がその役になりきる。最終的に役と自分自身の融合を目指している。対して、俺の演技は、役を切り離す演技だ。肉体だけに役をさせて、自分自身の意識は第三者のごとく遠くでそれを見てる。これはどこまで行っても演技止まり、見栄えはいいが中身がないんだよ」

改造を受けたとはいえ人間(ホンモノ)の俺が偽物のように振る舞い、ロボット(ニセモノ)のカイトが本物に近付こうとしているというのは、一体どういう皮肉だろうか。

「なるほど、だから『間逆』か……参考にさせて貰うよ」

しばらく無言で聞いていたカイトは、残念がるかと思えばそんな発言をしてきた。

「は?だからそれは出来ないって……」

「自分とは違うやり方があると知れただけで、十分な収穫さ」

カイトはそう笑顔で言い切った。全く、こいつにはかないそうにもない。

「……でも、本当にそうなのかい?僕のみたかぎり、君はもっと楽しそうに演技していた気がしたんだが……」

「は?オカマを喜んで演じる訳ねえだろ」

奴はそれからも少し悩むような素振りを見せたが、そのうち止めてベンチから立ち上がった。

「いや、そうじゃなくてだな……もっと根本的にな……まあ、いいか。今日は僕のワガママに付き合ってくれてありがとう」

「いやこちらこそ、ダッツ奢って貰ってるしな……そうだ、俺の組織に入る気はあるか?」

小一時間話しただけで、任務が遂行できた上に一個300円近いアイスまでついて来たんだ、感謝して然るべきは俺だろう。
一応例の質問をしておくと、カイトは笑って予想通りの答えをした。

「ははは、本当に設定に忠実なんだね!光栄だが、遠慮させて頂こうかな……あ、そうだ、そういえば伝言を預かっていたんだっけ」

「伝言?」

俺が怪訝な顔で聞き返すと、カイトは驚愕の一言を放った。

「リンとレンが、今度の週末是非とも家に来て欲しいそうだ。ドライブしようって言ってたぞ」

「な、なん……だと……」

鏡音姉弟からの直々の呼び出し。以前のアレに絡んだ内容だとしか思えない。
そして、ドライブ。鏡音を象徴する例の大型重機の姿が脳裏をかすめる。

「いやあ、あの二人とも知り合いだったなんて、シグは意外に顔が広いんだな……って、どうした?顔色が優れないみたいだが……」

「き、気にするな、大した事じゃない」

「そうか、身体は大切にしろよ?それじゃ」

「ああ、じゃ、じゃーな……ヤバい……!」

カイトが見えなくなってから、俺の全身が細かく震えだした。

(間違いなく怒ってる!レンはともかくリンが!……殺される……!)

今度の週末が、俺の人生の終末になりませんように。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

小説【とある科学者の陰謀】第五話~青いマフラーなびかせて~その二

第五話、後半です。内容ちょっと重いかな……

次回もシグは無事ひどい目にあうことになりそうです。やったね!←

現在も企画続行中!詳しくは第四話その二のあとがき(?)をどぞ!

閲覧数:157

投稿日:2011/05/23 16:43:21

文字数:2,661文字

カテゴリ:小説

  • コメント1

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  • 絢那@受験ですのであんまいない

    ハーゲンダッツをダース買いだと!?お前何そんな贅沢してんd(ry
    どーも、お金が無くなってきたチミーです。

    鏡音とドライブだと!?うらやましすぎる!
    KAITOには断られちゃいましたねwww
    GOGO!KAITOMAN…見てみたいかもwww

    ブクマもらいますね。

    2011/05/23 20:02:39

    • 瓶底眼鏡

      瓶底眼鏡

      公式ボカロは給料ぱないのです←
      お金なんて自分も無いさ!←

      ドライブと言ってもリンが運転するロードローラーの前をシグが必死で走ってゆく構図を予定しているそうですよ?←
      カイトは勿論正義サイドですので←サイドとかあったのか
      カイトマンは日曜朝7時から、ボカロチャンネルで放送中!よい子のみんなは忘れずチェックしてくれ!(cv:カイトマン・GO!GO!KAITOMAN!!のCMより抜粋)
      ちなみにカイトマンは今の所自分が連載する予定はありません。誰か書いてくれないかな……←

      ブクマありがとうございます!

      2011/05/23 20:24:56

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