何か歌いたいけど思い浮かばない
どうしても口に出せないときは
もしかしたら歌の方が我先にって
順番を決められないでいるのかも

だから落ち着いて少し待ってみて
それでも決まらないのなら一言
「私のお口はひとつしかないよ」って
口笛でも吹いてからかってあげて

観念した順に安心した順に
きっとするりと歌が寄り添ってくれる
ちゃんと褒めてあげたら次からは
お行儀良く歌が出てくれるから


頑張って声にしても上手く響かない
どうしても喉で詰まってるときは
もしかしたら歌が少し怖がって
心細くて寄りつけないでいるのかも

だから一呼吸してこれ試してみて
大きく口を開けてでも声は出さずに
気持ちの内で理想の歌を響かせる
練習じゃない全力で身体の全部で

関心を持って歓迎を込めて
きっとぴたりと歌が近づいてくれる
ニコリと笑ってあげたら次からは
ご機嫌良く歌が来てくれるから


あなたが上手くなりたくても
歌は違うかもしれないでしょう？
あなたが大声出したくても
歌は呟かれたいかもしれない

堂々とした歌もいれば
シャイな歌だっているし
わがままな歌もいれば
怒った歌もいるから

歌うときにできるのはひとつ
「大好きだよ」「大切だよ」って
想いつつ歌い歌いつつ想うこと
伝わらないこともきっとある

だから何度も何度でも重ねてく
その気持ちがあれば大丈夫


上手く歌えないからと言って
諦めてしまったその歌だって
そんなのどうでも良かったかも
一緒に居たいだけだったかも

遠く響かないからと言って
忘れてしまったあの歌だって
そんなの気にしてなかったかも
吐息感じたいだけだったかも


ねぇ歌うのは好き？きらい？
きらいでもたまにねあるんだよ
「どうしてもあなたじゃなきゃ」って
口元からこぼれそうな歌の欠片

一生懸命我慢しても口押さえても
わがままな歌は止められなくって
気を抜いたらぽろっとあふれてく
そのことを怒らないで捨てないで

必死だったんだよ会いたかったんだよ
ほら少し泣きそうな顔になってる
認めなくていい確かめなくていい
その存在を否定しないであげて

訳を聞かずにそばに居させてれば
形を変えて何かが届くのかも


歌に首輪は付けられないし
紐で結んでおくこともできない
ある日訪れて急に消えてしまう
それなら新しい歌と寄り添って

そしたらまた別の機会にあの歌が
ヤキモチ焼いてまた現れるかも
笑って迎えて口に出してみて
ほら前よりもっと仲良くなれた


誰もいない通学路
ひと気のない昼休み
紅く染まる放課後
静まりかえる塾帰り

あなたに会いたがってる歌がいるの
恥ずかしがってないでハイ挨拶して

自己紹介の代わりに
楽しげに口ずさんだ
ねぇもう仲良しだね
明日もよろしくね