ピンポーン

今日はとある家に来ていた。
初めて行く家だったので皆とても緊張している。
ショコなんか特にガチガチになっていた。
それもそのはず、今日訪問する家は種KAITOが2人いる。ショコにとっては初めての仲間に会うということなのだ。
「みゅ~どんなんだろ?」
「そんなに緊張しなくてもいいのに」
マスターはいつも通り暢気に答えていた。
「でも私も初めて会うのよね~どんなマスターさんだろ?」
え、初めて会うって・・・暢気すぎないか
「電話で話したくらいだしね。互助会入ってないし」
「どうやって知ったんだよ、ここの事」
「互助会で知り合った人・・・覚えてる?黒い種KAITO連れてたマスターさん」
たしか初めて互助会に行った時に手助けしてくれた人、だっけ?
「その人に紹介してもらったの。ショコと同じくらいの種KAITOがいるんだって」
「そうか、最近メールの回数増えたと思ったらこのことを話してたのか」
「それに、ね」
マスターはちらりとショコを見る。ショコは慌てたようにうつむいた。
「ショコ、どうしたんだい?」
「なんでもないでしゅ」
なんでもない、ね。何かありそうにしか思えないけど・・・
「ミクも楽しみ~仲良くなりたいな」
美句が楽しそうにネギをふりまわす。怪我はしないけど危なすぎ。
「ほら美句、ネギはしまって」
「はーい」
僕が注意すると美句は素直にネギをポーチにしまった。ってネギが入るポーチってどんだけーw

ガチャリ

ドアが開きすらりとした人物が出てきた。この人がマスターさんかな?
「はじめまして、翠野といいます。今日はお招きくださってありがとうございます」
うちのマスターがかしこまった声でいった。向こうのマスターさんも気さくな笑顔で答えてくれる。
「上がって、モカもコウも待ってるから」
『おじゃましまーす』
僕たちは声を揃えていった。さっそく上がらせてもらう。
向こうのマスターさんが苦笑しているように思えた。さすがに5人という大所帯で来るなんて思っても見なかったのだろう。
「すみません、こんな大人数で押しかけてしまって」
とりあえずあやまる。向こうのマスターさんは振り返って言った。
「気にするな。5人でくることは前もって聞いてた」
「はい」


僕たちはリビングに通された。そこに、いた。
1人はショコよりも赤みの少ない茶色の髪をしたKAITO。
もう1人はごく薄い青の髪をしたKAITO。
どちらもショコと同じくらい、いやもう少し小さいかな。どう見ても種KAITOだった。
「こんにちは、君たちがモカくんとコウくんだよね。今日はよろしくね」
うちのマスターが声をかけた。2人とも興味深そうにこっちを見てる。
「ほらショコ、自由に話してきなさい」
ショコはトコトコと2人の種KAITOの元へ行った。そして大きく息を吸うと、
「みゅみゅーみゅみゅみゅみゅみゅ~」
訳の分からない言葉を話し始めた。
唖然とする僕たちとは対照的に種KAITO達はパッと嬉しそうな顔をした。
「みみーみみみーみー」
「みゅーみゅ、みゅみゅ!」
「・・・・・・・・・」
しかし話しているのは薄青のKAITOだけ。茶色のKAITOは黙ったままだった。
「あの、キッチン貸してもらえないでしょうか?」
「あ、ああ、いいよ」
うちのマスターが向こうのマスターに話しかけた。向こうのマスターも呆気にとられていたようだ。
それなのになぜうちのマスターは平然としているんだろう・・・
「ショコ、話にキリがついたら紅茶入れに来てね」
「みゅ・・・じゃなかった、わかりましたれしゅ」
マスターと向こうのマスターはキッチンへと行ってしまった。
残された僕たちはただ分からない会話を聞くしかなかった。
「ったく何言ってるのか俺には解らないぞ」
焦れた星疾が頭をガシガシ掻きながら言った。
「ミク、マスターのお手伝いしてくるー」
美句はその場の空気から逃げるように行ってしまった。
はっきり言って僕も居心地が悪すぎる。どうすればいいんだろう?
その時、聞き役に徹していた茶色のKAITOが僕たちのほうに向き直ってぽつりと言った。
「・・・・・大した事は話してない・・・です・・」
そうですか・・・じゃなくて、
「君は普通に話せるんだね」
コクン
うなずいた。よかった、話が通じそうだ。
「僕は海疾、こっちは星疾、よろしくね。君は?」
「・・・・モカ・・・です・・」
緊張してるのか、元々無口な方なのか、モカくんはぽつりぽつりと言う。
それでもさっきまでの話せないと思っていたときとはずいぶんと状況は良くなった。
「君はショコたちの話している言葉がわかるの?」
「・・・あの言葉は種KAITOにしか・・・・・わからないです・・・・・」
いわゆる種KAITO語って感じかな。それにしてもなんでショコはそんな言葉を話してるんだろ?
今まで話している所を聞いたことなかったけど・・・
「みー」
さっきまでショコと話していた薄青のKAITOがこちらに向かって何か話しかけてきた。
「えっと・・・」
「・・・・コウはあなた方に・・・何か訊きたいみたい・・・です・・」
「みゅーみゅーみゅみゅ!」
「みみみー」
「みゅーみゅ」
「みー」
コウくんはショコの言葉にうなずいた。何を言ったのかさっぱり解らないけど・・・
「ショコ、何を話してたんだ?」
「かいとたちのしょうかいをしてただけでしゅよ~VOCALOIDについておしえてあげてほしいでしゅ」
「教えろって話通じるのか?」
「ふつうのことばはわかりましゅよ。ぼくはこうちゃいれてくるでしゅ~」
「おい、まて」
星疾の制止を無視してショコはキッチンに行ってしまった。
「みみー」
コウくんが期待を込めた目で見つめてくる。
「しょうがないか、モカくん通訳お願いできるかな。星疾もフォロー頼むよ」
「あぁ」
モカくんはうなずいただけだったけど多分大丈夫だよね。
僕と星疾はモカくんの通訳を交えてコウくんと会話を始めた。


しばらくして、キッチンに行っていた皆が戻ってきた。
その頃には僕も星疾もモカくんコウくんとそこそこ打ち解けていた。
「はい、オレンジケーキだよ。みんなどうぞー」
マスターの持ってきた手作りのオレンジケーキとショコの入れた紅茶がテーブルに並べられる。
「どうしてもおちゃしたかったからはっぱもってきたんでしゅ!とくせいブレンドでしゅよ~」
いつもより香りが強い。皆が口にするのをショコは期待と不安の混じった目で見回していた。
「へぇ、うまいな」
向こうのマスターさんが感想を言う。それを聞いてショコが嬉しそうな顔をした。
「みー」
コウくんとモカくんはもっぱらケーキの方に興味があるようだ。ちいさなフォークでおいしそうに食べている。
「みゅみゅみゅ?」
「みみ、みっみみー」
「・・・おいしい・・・です・・・」
あいかわらずショコはモカくんコウくんには種KAITO語で話している。
「マスターは知っていたのか?ショコの話している言葉のことを」
星疾に問い詰められてマスターはしかたがないなとばかりに話し始めた。
「知ってたわよ。今日ここに来たのもそのことがあったからだしね」
マスターの話したことはこうだった。
ショコに悩みを打ち明けられたこと。互助会で知り合った人に相談したこと。
その人にここの種KAITOたちを紹介されたこと。などなど。
「互助会で調べたら独自の言葉を話すのは大体幼稚園児くらいの大きさになるまでらしいの。互助会に来てる子たちはみんな大きいから普通に話してるしね」
確かに互助会についていった時はみんな普通に話していたかも。
「でね、ショコももう少しで消えると思うのね。その前に思いっきり話させてあげたかったの」
そうだったのか。それならショコのはしゃぎ様もよく分かる。でも僕たちにも相談してくれればよかったのに。一応、教育係なんだし。
「頼られてないのかな・・・」
不満がぽつりと口から漏れた。
「困らせたくなかったんじゃないのか。お前も俺も、美句だって解らないんだ」
「だけどマスターだって解らないじゃないか」
星疾に諭されても不満は収まらない。
「ミク、ショコ兄があんな言葉使ってるの聞いたことがあるよ」
今まで黙っていた美句がおずおずと言った。
「誰もいない部屋でしゃべってたの。『みゅ~みゅ~』って。はじめは歌ってるのかと思ってたけど・・・」
「あいつは歌うときも普通の言葉使うぞ」
「だからね、こっそり見てたの。でも・・・」
「でも?」
美句は一言区切ると、
「飽きたから寝た」
みんなずっこけた。お前は亞北ネルかwww


「みーーー!!」
コウくんの叫びに僕たちはハッっとなった。少し離れたところで遊んでいた3人の種KAITO達はピリピリした空気になっている。
「みみーみーみっみみー!」
コウくんが慌てた様子で騒いでいる隣でショコとモカくんが背を向け合って険悪な雰囲気だ。
「なにがあった?」
向こうのマスターさんが声を掛けるとコウくんが飛びつき「みーみー」と何かを訴えかけ、モカくんは下を向いたまま
「・・・あの子・・・嫌い・・・です・・」
と言ったっきり黙りこんでしまっている。
「ショコ」
「しらないでしゅ!むこうがかってにおこりだしたんでしゅ!」
ショコまでも黙ってしまった。
なぜ突然喧嘩を?コウくんだけが必死に何か訴えようとがんばってはいるが、いかんせん言葉がわからない。
「しかたない、アイス食べるか」
向こうのマスターさんがやれやれといった感じで立ち上がった。
というかこんな時にアイス?!あなたもうちのマスターと同じでどこまで暢気なんですか。
「だったら外で食べませんか?ここに来る途中おいしそうなアイス屋さんを見つけたんです」
マスター、便乗してる場合じゃないですよ・・・
「いや、そういうことでは・・・」
「いいから、私がおごります!」
勝手に玄関へ歩き出すマスター。それを追いかける向こうのマスターさん。言おうとしたことを忘れて嬉しそうにはしゃぐコウくん。あいかわらず険悪なムードのショコとモカくん。いつの間にかネギを食べていた美句。呆れを通り越して諦め思考の僕と星疾。
あーこの先どうなるんだろ・・・

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

KAITOの種、観察記録 特別編  前編

と、いうわけで今回は霜降り五葉様のモカイトくん氷菓イトくん&マスターさんにゲスト出演していただきました~
ちゃんとご本人には了解を得てます。

他者様のキャラを書くのはやっぱり難しいですね。私がヘタクソなせいでもあるんですが・・・
モカクンガヤタラアクティブニナッテシマウ

次回は後編になります。外出編ですね~
さてはて、水と油は本当に混ざらないのか。

種をくださった本家さま
http://piapro.jp/content/aa6z5yee9omge6m2

今回のゲスト様の小説
http://piapro.jp/content/0mfsdg3gfb2xdrzi

閲覧数:239

投稿日:2009/08/04 00:40:57

文字数:4,207文字

カテゴリ:小説

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  • エメル

    エメル

    その他

    モカ氷さん

    おひさしぶりです~
    ちゃんと覚えてますよ。
    ユキトくんのその後がすっごく気になってます~

    面白いですか?!ありがとうございます!
    まさかのゲスト、霜さんのキャラクターは多分5月くらいから許可頂いたにもかかわらず、ようやくの登場ですw自分の遅筆さに悲しくなってしまいます;;

    ラストは唐突すぎるかなって思ったのですが、よい印象を持っていただけてうれしいです~
    登場人物8人は史上最多でしたね。この先誰が陰になってしまうのかヒヤヒヤです。

    後編は出来るだけ今月中に上げたいと思ってます。

    2009/08/06 22:34:32

  • モカ氷

    モカ氷

    ご意見・ご感想

    エメル様
    お久しぶりです!
    覚えておられますか?

    すごい面白いです!
    まさかのゲストにびっくりしましたw

    なんというか次回を読みたくさせるような終わらせ方とか
    こんなに大勢なのに全員を上手く立ち回らせている所とか
    尊敬してしまいます。



    続編まってます!

    2009/08/06 12:21:43

  • エメル

    エメル

    ご意見・ご感想

    通りすがりってwww
    中途半端でごめんなさい><すぐに書けるようにがんばりますね~

    2009/08/04 18:53:11

  • 霜降り五葉

    霜降り五葉

    ご意見・ご感想

    どうも。通りすがりの者です。
    続きが気になって夜しか眠れません(ぇ
    後編頑張って下さいねー。

    2009/08/04 12:52:40

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