「――あ、これ似合うっ!」
 そういって、衣裳部屋のハンガーにかかっていた黒と赤のドレスをメイコにあてがい、アリスはお人形遊びでもするように嬉しそうに笑った。すると、メイコの方が今度はアリスに似合いそうなドレスを選び、白と緑の清楚なドレスをだした。胸元の大きなリボンが可愛らしい。
「似合う?」
 ドレスを肩にあて、ひらりとまわって見せた。にこっとわらって、メイコが何度か頷いた。
「めーちゃんはね、これとか、これとか似合うと思うよ!」
 無邪気にアリスは笑う。
 それにあわせてメイコも微笑んだ。

「…ど、めーくん」
 ひょっこりと顔を出したカイトは、衣裳部屋(勿論アリスとメイコとは別。男性用の部屋である)の中で、海上パーティーにメイコの付き添いとして出席するための、衣装を合わせていたメイトを見て、小さく拍手をした。
「似合ってるじゃない、めーくん」
「落ち着かねぇけど」
 いいながらワイシャツのカフスボタンをいじっているメイトは、なかなか様になっている。
「やっぱりスーツは得意じゃないんだよな」
「じゃ、こうしてさ、ベストだけでも結構いいんじゃない?」
 言ってスーツを脱がせ、横のテーブルにたたんでおいてあった茶色のベストを着せると、ネクタイを選び始めた。
 椅子に座って、メイトはそれをただ眺めていた。嬉しそうにネクタイを選んでいるカイトを見ながら、メイトはまるで子犬のようだな、と思っていた。そう思うと、カイトの後ろ姿に尻尾と耳が生えているように見えてきて、思わず噴出しそうになった。しぱしぱと尻尾を振る後ろ姿があまりにも可愛らしかったせいかもしれない。
「何、めーくん。なんでわらってんの?」
「いや、なんでも」
 笑いをこらえながら、メイトは答えた。不満そうに頬を膨らましたカイトは、また一段と(子犬のようで)可愛らしかった。
「あ、これがいいかなぁ」
「お前さ、もう少し男らしくしろよ」
「へ?」
 ふ抜けた声を出したカイトを見て、メイトはため息をついた。
「一国の王子様として、もっと勇ましくなれっていってんだよ」
「勇ましくねぇ…。うーん、俺はあんまりそういうの得意じゃないから」
 愛らしく笑って、カイトは言った。こいつはどうしてこう可愛らしいんだろうと思いながら、カイトが持ってきたネクタイを合わせて鏡に映してみる。
「ネクタイピンってどこにあるの」
「そっちのアクセサリー系のが入ってる箱」
「あ、ほんとだ。あったあった。あ、これ格好いいねぇ」
「…女っぽ」
 頬杖をついて、呟いた。
 また、カイトの後ろ姿に尻尾が見えたような気がした。

 もうすぐ出航。
 四人はそれぞれ船に乗り込んでいた。アリスはカイトに手を引かれて、メイコはメイトにお姫様抱っこをされながら、だ。ちなみに、お姫様抱っこはメイトが勝手にやっているだけで、無論メイコは望んでいない。メイコが歩くのを辛そうにしているのに気がつき、メイトが『勝手に』お姫様抱っこをしているのだ。
『ちょっと、おろしてよ』
 筆談も、何時の間にか素早くできるようになっていた。
「足が痛いんだからこれくらい我慢してください、姫」
「我慢だよ、姫」
 横からアリスがおちょくるように言った。それを聞いて、メイコがアリスをにらみつけた。
「可愛いお姫さまだねぇ」
 すかさずカイトも仲間に入ってきて、メイコは言い返せなくなってしまった。
 とりあえず行き場の無い恥ずかしさをメイトにぶつけるべく、メイトの頭を思いっきり殴ってやった。それでもメイトはメイコをおろさずにきっちりと歩いていた。流石は騎士なのか、騎士の癖になのか、よくわからなかったが、メイコは何となく感心してしまった。

「とりあえず、ここが部屋。残念ながら相部屋です」
『誰と誰が?』
「俺と姫」
 露骨に嫌な顔をしてやった。
 露骨に嫌な顔で返された。
「まあ、手は出さないつもりです。…酔ったら自信ないですけど」
 ダメな騎士だな、と重いながら、メイコはベッドに倒れこんだ。
 そして、メイトが言う。
「後、一つ、いいですか」
 顔を上げた。今までのやる気のない声とは違う、しっかりとした口調でメイトが言ったから、少し驚いたのだ。
『何?』
「――…」

「アリス、ここ。残念なことに俺たち相部屋になっちゃったから」
「それは私、恨まれそうだわ」
「誰に恨まれるの」
「ひみつ」
 言って、アリスはメイコと同じようにベッドに倒れこんで、それからちゃんと座りなおした。
「あ、あのさ、アリス」
 こちらも顔を上げた。やはりカイトの声のトーンは真剣そうである。
「何?どうしたの?」
「あの、実は――…」

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい

Fairy tale 26

こんばんは、リオンです。
めーくん、かーくん(何)は何を言ったんでしょうね。
そして、めーちゃん、あーちゃん(誰だよ)の反応は。
人魚姫ってすごく深い話だと思うんです。
最後には泡になっちゃうんですよね。一般的には。
でも、本当は泡にならなかったりするんですよ。ハッピーエンドではなく。
興味がある方は、探してみてくださいね。

閲覧数:151

投稿日:2010/03/16 23:21:16

文字数:1,926文字

カテゴリ:小説

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  • 湊谷 鈴

    湊谷 鈴

    ご意見・ご感想

    パソコン禁止令から帰ってきて落ち込みからも立ち直れた癒那です!
    お久しぶりですね♪
    アリスとメイコが何を聞いたのかすごく気になります!

    私が知ってる(姉から聞いた)人魚姫のお話によると、
    最後は王子様殺してその返り血で人魚に戻ったということでした。
    なので一般的にどうなるかずっと知らなかったんですけど泡になるんですね!
    今度自分で絵本でも読んでみます。

    2010/03/17 17:52:53

    • リオン

      リオン

      おひさしぶりですね、癒那さん!
      復帰おめでとうございます♪
      何を聞いたんでしょうねぇ。

      おや、物知りなお姉さんですね♪
      もしかして、原作かそれに近いのを読んだんでしょうかね。
      でも、ちょっと惜しいですねぇ。
      人魚に戻ることは無いのですよ…。

      2010/03/17 18:24:04

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