鋼鉄の咆哮。深紅の雷鳴。黒き銃声。
 このコロシアムに耳を劈き天地を揺るがす轟音が響き渡った。
 そして、網走智樹の乗るアシュラが、一瞬で眼前に映っていた。
 「ッ!!」
 装甲をパージする前とは桁違いのスピードを前に、俺はただレバーのトリガーを引くことしか出来なかった。
 即座に40mmバルカン砲が放たれたが、照準の先には、既に奴の姿はなかった。 
 『どこに撃っている?!』
 俺が振り向いた瞬間にコックピットが凄まじい衝撃で揺さぶられ、アシュラの右腕に握られたナイフがハデスの装甲に突き立てられていた。
 「くそぉ!!」
 俺はレバーに渾身の力を込め、右翼装甲に突き刺さったナイフをアシュラごと振り払い、続けて弾丸を放った。
 だがその銃弾も、機体とは思えない素早い身のこなしで、回避されてしまう。 
 『デル!任せて!!』
 電撃を纏い空中を舞うミクが、アシュラの前に立ちはだかり、電流を帯びた高周波ブレードを天に掲げた。
 天を貫くように垂直に突きあげられたブレードに、深紅の光が収束され、巨大な光の球体と化していく。
 『これで!!』 
 球体が直径数メートルに達した瞬間、彼女がブレードをアシュラに向け一閃された。  
 その衝撃で球体が炸裂し、無数のレーザーが、まるで豪雨のようにアシュラを貫いた。
 『ば、馬鹿な!?』
 その攻撃でアシュラには軽度のダメージを負ったようだが、奴の戦闘能力にはまるで衰えがない。
 『この出来そこないめが!!』
 アシュラのブレードがミクに振りまわされるが、彼女は一瞬にして雷そのものに姿を変え、瞬間移動でその攻撃を回避していく。
 『デル!!私がおびき寄せている間に、早く!!』
 「分った!」
 彼はミクを追いかけまわすアシュラに向け攻撃するが、こちらの攻撃は全て回避されてしまう。
 『ふん・・・・・・ソード隊!!何をしている!!こいつら侵入者を排除しろ!!!』
 網走智樹が黒い戦闘機に向けて叫んだが、空中停止を続ける四機は、俺に攻撃しようともしない。
 『聞こえないのか?!撃てぇ!!』
 『悪いが、俺はもうお前の言うことは従えない!』
 返ってきたのは、強い意志が込められた、隊長の声だった。
 『お前はソラを役立たずだといった・・・・・・最後までお前を信じ、自由を求めていたソラを。そんな彼を使いきった挙句、役立たずと切り捨てるお前は、この俺が赦さん!!!』
 隊長の機体がアシュラの前に移動する、一斉に無数の小型ミサイルを放った。
 殆どの弾丸が奴の機動に追いつけなかったが、最後の一発がアシュラの脚部に被弾し、その姿が跪いた。
 『貴様ァ!!ここで私に逆らうとは、未来も何もないな!!』
 音割れするほどの怒声が、無線に響き渡る。
 『悪いが、もう俺の行く未来は、お前と共にない。』
 する隊長機が、まるでかばうように俺の機体に寄り添った。
 『俺はお前に賭けるよ。俺達の未来を、新しい道を照らしてくれ!』
 「あんた・・・・・・いいのか?」
 そう呟くように問いかけると、無線の向こう側で隊長が苦笑した。
 『まぁいいさ。あんたはいい迷惑かもしれないが、今の俺はとりあえず、そうしたいんだ。好きにさせてくれ。』
 隊長のその言葉で俺もこの男を信用できる気がしたのだ。
 何より、この隊長と俺はどこか共通する部分が思えるような気がしてならない。
 たった少しの言葉を交わしただけなのに、俺には、分る。
 この男となら、最高のコンビネーションプレイができそうだ。
 そう思うと自然と、俺の口元がにやける。
 『みんなはどうだ!まだ網走智樹の操り人形を続けるつもりか?それとも、俺と共にこの男を信じるか?!』
 隊長が残りの三機に呼び掛ける。
 返ってくる答えは、既に知っているだろうな。
 『当然だ隊長!!理由が何であれ、お前は俺達の隊長だ!!俺はついていく!!!』
 威勢のいい声が響くと、二機目が俺の隣についた。これは、二番機だ。
 『ああ。隊長の動機は最もだ。それに僕も、君を信じるからね。』
 次は冷静で、聡明なパイロットの乗る機体が。これは三番機。
 『僕も!!ソラをあんな風にしたのは、許せないからね!』
 そして、少年の声の四番機が横に並び、遂に全ての機体が、俺の仲間についた。
 彼らが仲間についている。これなら、必ず勝てる。
 勇気ある彼らと共になら、未来が見いだせるはずだ!
 『そしてお前だ!!ミク!!』
 『ああ・・・・・・隊長。』
 そしてミクが、編隊を組むようにして三番機の横に並んだ。
 「みんな・・・・・・ありがとう。」
 『礼はいいさ。さて、では続きを始めようか・・・・・・網走智樹!!』
 『貴様らァ~~~!!』
 起き上がったアシュラが、搭乗者の怒りを露わにし、俺達に向け突進した。
 『各機、目標を捕捉、攻撃開始!』
 『了解。』
 だがその突進も四機の戦闘機が織り成す機銃掃射で押し返された。
 弾丸の豪雨を全身に満遍なく浴びたアシュラが、上半身が大きくのけ反らせた。
 『ミク。左翼から攻撃。』
 『了解、隊長!』
 どこか嬉しそうに応えるミクは、ガラ空きとなったアシュラの左側に回り込み、刀身に帯びる電撃を放出させた。
 凄まじい光の爆発が幾重にもアシュラの左腕を引き裂き、最後の大爆発で、アシュラの左腕が宙に舞った。
 『おのれぇぇええ!!!』
 しかし、まだ奴は戦える。完全に破壊しなくては。
 「今度は俺の番だ!」 
 俺はハデスの最大出力で大地を疾駆し、身構えようとしたアシュラに体当りした。
 衝撃などまるで気にも留めず、俺はその巨大な脚でアシュラの体を踏みつけ、またもや最大出力で締め上げた。
 鳥類のように鋭利な鍵爪が、奴の体を容赦なく締め上げていく。
 『く・・・・・・ぬぉぉぉおおお!!!』
 奴は必死に抵抗し俺の拘束を振りほどいたが、代償として右腕さえも千切れ飛んでいた。
 これでもう、もう奴には戦う術がない。 
 その時、俺の横に、隊長機が並んだ。
 『最後は二人でトドメを刺そうか?』
 「ははっ。そりゃいい。」
 俺は思わず笑っていた。この男とは、どこか気が合いそうだ。
 だが俺達の目の前では、両腕を無くし満身創痍となったアシュラが立ち上がっていた。
 『デェェェルゥゥゥゥ!!!』
 あの状態でまだ戦うと言うのか。とても網走博士の兄弟とは思えん。
 『まぁだだ!!まだ終わっていない!!!』
 そして、残された両足で、無我夢中に駆け出した。
 『さぁ、行くぞ!!』
 「ああ!!」
 俺は隊長と刹那、呼吸を合わせ、バルカン砲とミサイルを突進するアシュラに解き放った。
 二人の弾丸が空中に軌跡と輝きを描き、そして二人のミサイルが、悠々と飛びまわる鳥のように群れをなしてアシュラに襲いかかった。
 今度は全弾が命中し、アシュラの装甲は粉々に吹き飛んだ。
 最後のトドメに、俺がハデスのTLS発射口を開口させると、隊長機のTLS発射機も光を収束して行く。
 レーザーを収束する、この共鳴、この躍動。全く持って良い相性だ。
 これなら、行ける。
 「これで!!」
 『終わりだ!!』
 そして、二機から同時に発射された二本のレーザーが、アシュラの胴体を完全に貫通していった。
 『ぬわぁぁぁああああ!!!』
 アシュラの体が幾つも爆発を繰り返し、大量の火花をまき散らすと、遂に、その体が大地に倒れていった。
 「終わった・・・・・・。」
 『ああ・・・・・・終わったな・・・・・・。』
 俺と隊長がつぶやいたその時、それまで外界を映し出していたモニターから光が消え、一瞬にして暗闇となった。
 それだけでなく、正常に機能していたコンソール類からも表示が消え、ついに機体自体が完全に機能停止してしまった。
 これは、もしやワームの影響かだろうか。
 いや、隊長も他の機体も飛んでいるとすると、とりあえずパワー切れと言うことか。   
 俺は仕方なく手動でハッチをこじ開け、コックピットから飛び降りた。
 頭上を見上げると、隊長が俺に向かって敬礼したので、俺も誠意をこめて敬礼した。
 「デル!やったの?!」
 ソラを連れ、どこかに消えていたワラが、俺の隣に舞い降りた。
 「ああ・・・・・・なんとか。」
 その時、完全に沈黙しただの鉄クズと化したアシュラのコックピットが開くと、中から網走智樹の姿が現れた。
 「まさか、ここまでやってくれるとはな・・・・・・だが、結局は私の勝ちだ。」
 「何を言っている!?」
 すると網走はいかにも楽しそうに笑い声を上げた。
 「ソード隊が裏切ることは想定できたが・・・・・・私にはまだ、ストラトスフィアがある。ようは、これさえあればいい。」
 網走智樹が言ったその瞬間、頭上から無数のミサイルが、俺めがけて一直線に降下してきた。 
 「先ず、忌々しい貴様らから消し飛ぶがいい!」 
 この位置、この状態では、到底よけることはできない。
 ならどうする。このまま吹き飛ぶのか?!
 「デル!ワラ!!」
 ミクが俺達の頭上に舞い上がると、自らの体を巨大なプラズマの球体で包んだ。
 そして彼女は俺達に向けて、にっこりと笑顔を送った。
 それは、まるで・・・・・・。
 「ミク!やめろ!!」 
 その笑顔の意味を知り、俺がミクを止めようとしたその瞬間、ミクの体に数発のミサイルが着弾し、その姿が爆風で消し飛んだ。
 足元に、彼女が持っていたブレードが落とされた。
 だが、続いて俺の目の前でミサイルが爆発した。
 俺は、無造作にワラの体を抱きかかえ、庇っていた。
 「うわぁぁぁああああッ!!」
 そして俺はそのまま爆風に全身を焼かれ、吹き飛ばされた。
 無重力の中で・・・・・・意識が、消えて行く・・・・・・。
 だがワラの体だけは、放さずに・・・・・・。
 ・・・・・・。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

SUCCESSOR's OF JIHAD第七十四話「最期の笑顔」

雑音さんに、敬礼。

そして、黙祷を捧げよ。

【追記】
共に敬礼してくださった方、ありがとうございます。
そして、最後にもう一度・・・・・・。

閲覧数:124

投稿日:2010/01/30 23:01:34

文字数:4,074文字

カテゴリ:小説

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