目を覚ますと、見慣れない天井があった。
右腕には、点滴用の針が刺さっていて、
ここが何処であるかは直ぐに分かった。
どうやら、私は失敗したらしい。
とりあえず、これまでの経緯を振り返ってみる。
……
最初に自分が普通じゃないと知ったのは、
小学四年生の夏。
母親に連れられて、小さな病院に行った時だ。
医師から言われたのは、
自閉スペクトラム症という病名だった。
発達障害の一種で、病気と言っても生まれつきの特性だから、本人の努力で良い方向に変えられると、担当医に淡々と説明された。
身も蓋もない話だ。
どうにかなってないから、ココに来たのに…。
それから、こんな私が変われる訳もなく、
学校でも、相変わらずクラスに馴染めないまま孤立した。
自分への心無い言葉が飛び交う中、
私は、ただ黙って聞こえない振りをすることしかできなかった。
両親に本音を言っても分かって貰えず、
そんな両親は私の事で喧嘩するばかり。
二人とも心に余裕がないんだと思う。
きっと、私のせいだ。
そんなんだから、いつか限界が来るわけで、
私は、まともに食事を取らなくなって、
食べ物を口に入れても直ぐに吐いてしまう。
どこからともなく、
私への悪口も聞こえるようになって、
そして、気づけばココにいた。
昨日までとは打って変わって、
ココでの生活は平和だった。
私を傷付ける人は一人もいないし、
廊下でよく会う他の患者さんも、
面倒を見てくれる看護師さんも、
みんな優しかった。
担当医と何度も会話を重ね、
二日後に、
自律神経の乱れによる統合失調症と診断された。
しばらく入院しないといけないと言われた。
私は、担当医の言葉に黙って頷いた。
時々打たれる注射は嫌だけど、
外の生活よりは遥かにマシだった。
私にとってココは、初めて貰えた居場所だった。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

旅人書房と名無しの本(ルビー)

閲覧数:22

投稿日:2023/09/15 23:07:09

文字数:763文字

カテゴリ:小説

クリップボードにコピーしました