■8月14日16:00 『可能性世界』内 ヒヨリ視点。ループ一周目。
頭がクラクラした。
空は何処までも蒼く、太陽は赤々と照っている。街並みはその色が抜け落ちたように真っ白に染まっていた。
ああ、夢か。と想う。しかし、現実のような気もする。ひたすらにどうでも良い。
――暑い。
私はどこに向けて歩いているのだろうか? 自分自身でもそれを認識していない。
次第に、頭の中で警鐘が鳴り始めた。
『そっちには行くな』。
じゃあ、どちらに行けと言うのか……。私は頭の中を徐々に重くする不快感を無視して、ひたすらに足を踏み出す。
その歩みをいつ止めても良い。これは夢に違いないのだから。
――しかし。私は腕に浮かんだ汗を手で乱暴に拭う。これが現実でないと、私には断言出来るか?
もしかして私のいない間に現実は変遷し、このような平板な物になってしまったかもしれないではないか。
――馬鹿馬鹿しい、と首を振った。
これは夢だ。夢で良い。私はいつだってそうだ。正解のような物に辿り着いていながら、それを逸らして忘れてしまう。
いつだって面倒臭がりで――きっとヒビヤとお似合いだ。
彼はどこに行ってしまっただろう。
そう想うとひどく心細さを感じ始めた。
やがて、私は十字路に差し掛かり――唐突に『ソレ』と対面した。
赤と青と白のコントラストの街の中で、ソイツだけが深夜の闇よりも、目を瞑った暗闇よりも、深い深い闇として、ただ十字路の中央に存在していた。
見た瞬間肌が粟立った。何故こういう時にいないのか、と心の中でヒビヤを罵る。役に立たない奴め。
頭の中では警報が鳴りっぱなしなのに、私の歩みは止まらない。最早、この夢の中で、私の身体をコントロールするのは私ではなかった。
では、この夢は誰の物なのか? 私は『誰』に『夢を見させられているのか』?
「ヒヨリ」
黒い影は何故か私の名前を知っており、クツクツと笑い声を立てた。気持ち悪い。生理的不快感を感じる。その声で私の名前を呼ばないで欲しい。
これ以上近付きたくない。もう止まってくれ、私の足。もうこれ以上精神が、保たない。耐えられない。耐えられないんだ。
――死んでしまう。何の理由もなく、そう思った。
私の足は結果から言うと、その黒い影の一歩手前で止まった。
黒い影が目を見開く。太陽の光すら通さない闇色の身体。全身が細かいミミズで構成されたようにうじゃうじゃと蠢いている、そんな想像をして吐きそうになる。
深い深い真っ黒な闇色の身体の中で、その赤い目だけが鈍く発光しているように見えた。
「お前は……生贄だ」
黒い影の声は耐え難い。まるで『私は人を殺しました』と平然とした顔で言う輩が集っているかのような、怨嗟の声が集積したような、魂の混沌を感じずにはいられない。
「ヒヨリ……明日だ」
黒い影が私の頭に手を伸ばしてくる。嫌だ。触らないで。死にたくない。殺さないで。嫌だ嫌だ嫌だ嫌嫌嫌――。私の身体は動作しない。私は悲鳴すらも挙げられない。
「明日……お前か、ヒビヤが死ぬ。絶対死ぬ。逃れられない。どちらかが死ぬしかないんだ。
――お前はどうする? どうするんだろうな?」
地獄を煮詰めたようだ、と私はその手の感触に想う。殺人罪窃盗罪強姦罪、暴食強欲姦淫、ありとあらゆる罪を犯した人間が、いずれ辿り着く場所。
光は届かず、ただ暗黒で、未来も視えない。そんな地獄という世界を鍋で煮詰めて、凝縮したら、それがきっとコイツなのだ。
存在するだけでその『死の猛威』を振り撒き、ただ呼吸するだけで人を殺す。
――コイツはそういう種類の『害悪そのもの』。
――しかし。
「巫山戯るな」
今度こそ私は頭の上に載せられた『ソイツ』の手を力強く振り払った。
世界が段々と光を失い、揺らぎ、その形を崩壊させていく。
そんな中、私ははっきりと断言した。
「お前の目論見なんか知った事じゃない。
――私はヒビヤを助ける」
そうして私の孤独な戦いが幕を開けたのだ。
そして、世界は一度暗闇の中に消え去った。
カゲプロ想像小説・第6話。カゲロウデイズ・ヒヨリ一周目。
http://ameblo.jp/allaround999/で連載していたカゲプロ想像小説の二次創作超長編小説です。http://www.dlsite.com/home/work/=/product_id/RJ122614.htmlにて電子書籍化もしています。
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