【03 24:00:33】

 とある場所で、ひとりの学者が机の隣に立っていた。
 彼は、メカクシ団がその場所へ向かっていることを知っていた。
 レコーディング・キューブ。
 その場所へメカクシ団を、絶対に行かせてはならない。
 彼らがその真実を知ってはならないのだから。
 知ってはならない。知られてはならない。
 どうすればよいのだろうか。彼は考えた。

「……こういう時のためにぼくがいるんじゃないですかね?」
「その声は、カゲロウ……か?」

 カゲロウとはカゲロウ計画最重要存在である、話の読み手にあたる存在。 それを開発したのが人間だというのに、それをちゃんと理解出来てはいない。科学技術は今や、人間の理解を超えている。

「……カゲロウ、俺たちがそう言われてしばらくの年月が経った」

 カゲロウは自らを誇示するように呟いた。
 カゲロウとは所詮創られた命である。
 カゲロウとは造られた命だ。カミサマが創ったわけじゃない、人間によって造られた人間だ。
 その生まれはデータベースに保存されている一番古い情報で二年前と推測されている。実際の年数が解らないのはブラックボックスだらけのプロジェクトであることを再確認させる。
 カゲロウは四体製造された。春夏秋冬の名前がモチーフとして名前を与えられた。
 ――九ノ瀬遥という人間は秋をモチーフとし、コノハという名前を与えられた。

「カゲロウは……カゲロウをもって制す。どうですかね?」
「毒は毒を以て……とは確かに言うな。なるほど……。任せても構わないな?」
「ええ。ですがひとつお願いがございます」
「なんだ、言ってみろ」
「彼らをレコーディング・キューブに招待したいのです」

 その言葉に科学者は訝しく思えたがカゲロウは裏切るはずもない所詮コノハは試作品に過ぎないだけだと自分に思わせ、更に話を続けた。

「……なぜ、レコーディング・キューブへ? 特に彼らには連れて行ってはならないのでは……?」
「なに、真実を突き付けて絶望させてやるんですよ」

 カゲロウは笑っていた。
 科学者はそれに恐れすら覚えた。自分が作った機械にここまでの恐怖を植え付けられる。既にカゲロウ計画はほぼ完成したといっていいだろう。

「……では」

 そして、カゲロウは消えた。


【04 23:55:40】

「……なんだ、自棄に静かだな」

 メカクシ団のリーダー的存在、木戸つぼみは辺りを見渡して、呟いた。

「キドさん一体……?」

 キドの言葉を聞いて、モモは訊ねた。

「ここは恐らくカゲロウ計画の中枢にもなる場所だろう。それは解る。だがな……、なぜその場所なのにここまで警備が薄い?」
「ダミーとか?」
「……考えたくはないがもう一つある。それは……罠。誰かが誘っている」
「キド、この先は危ない……。何か嫌な気配がする」

 キドが話をしていると隣の男カノがぽつり呟いた。

「あぁ、解ってるさ。それくらい……だからエネをあのルートに通した」
「エネちゃん……大丈夫かな」
「モモ、きっと大丈夫だろ。あいつに限って……そんなこと」
「シンタロー、何か見えそうか……」
「……なんか闇にまみれて何が何やら……」

 シンタローはこういうときに限って使えなかった。キドは解っていたがため息をつく。

「もしかして……」
「何か解ったのか。楯山研二朗」
「ケンジロウでいい。……恐らく、ここはあの場所……」

 風が吹いた。ちょうどキドたちが歩いていた方向に決して強くない風が吹く。

「ここは……レコーディング・キューブ……!」

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

カゲロウプロジェクト 32話【二次創作】

最終章第二話。

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投稿日:2012/09/27 19:00:49

文字数:1,497文字

カテゴリ:小説

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