一、

林檎の中の
きみの顔

熟れながら、赤らみながら
きみは色褪せていく

ランプの中の
きみの瞼

明滅と、混濁のたび
きみは薄れていく

二、

黄金色の朝、鼈甲の真午
いちめんに笑っている

写真の中に閉じ込めたまま掠れていく記憶たちへ
言葉を投げる、何度も

舞い踊り、舞い踊らされる落ち葉よ
きみを刺し留めてくれ

三、

錆びた自転車が自動販売機に凭れて項垂れている
渡り廊下に射し込んだ斜陽が少し丸くなる
睫毛を濡らす雫に心を憩わせる
どこまでも秋、空の裏さえも

四、

果実の黄昏、青銅の夜半
いちめんに惚けている

ピアノの中に隠したまま残響に変わるメロディへ
声を捧げる、いつでも

揺れながら、揺らしている淀みよ
私を連れて行っておくれ

五、

さめざめと降り注ぐ
そろそろと頬を流るる

街角で大きな器が雨を湛えて泣いている
それをずっと見ているのだ!

渦を描きながら、うねりを抱えながら
収束しないまま、浮かんでいる

六、

カシオペヤに立つ君よ!どうかわたしを見ないでおくれ!
その慈愛に満ちた悲しみで一つの呼吸を掬い取っておくれ!
ついに消え去った私を、
消え去ったと知ってなお探しに行っておくれ!

七、

私は眠っている、明日の秋には溺れるだろう。
だから私は机の隅の檸檬にさえなれない。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい

七篇の詩による「秋雨」

【作曲者の方々へ】

7つある詩篇は、すべて独立したものです。この詩に曲をつけていただく場合は、この並び順は無視してください。またどのテキストも作曲に使っていただかなくてかまいませんし、単語の抜粋のみでも構いません。

この詩は、「歌唱を前提としない詩に対して作曲する」という従来の詩先作曲を目指すという実験的な目論見のもと書かれています。

閲覧数:304

投稿日:2018/11/27 00:48:35

文字数:567文字

カテゴリ:歌詞

  • コメント2

  • 関連動画3

  • torekuru

    torekuru

    使わせてもらいました

    さっそくお聴きいただきありがとうございます。そう言っていただけると、うれしいです。
    連投で恐縮ですが、一.の詩にも曲をつけました。こちらは静かな曲想になりました。https://www.nicovideo.jp/watch/sm34522706

    2019/01/24 22:53:52

    • TUCCA

      TUCCA

      なんと2曲も!とても嬉しいです……!
      歌詞の雰囲気がそのまま曲に投影されている感じが目指していた元来の「詩先作曲」と通じていてめちゃくちゃ素敵です。ありがとうございました!

      2019/01/27 18:20:56

  • torekuru

    torekuru

    使わせてもらいました

    コンセプトが面白いと思いましたので、こちらの四番目の詩に曲をつけてみました。https://www.nicovideo.jp/watch/sm34516662

    2019/01/23 18:25:56

    • TUCCA

      TUCCA

      拝聴いたしました。まずコンセプトに賛同して拙作を使っていただきありがとうございました。
      とても興味深い曲になったと思います、あの形式の詩がどのうな曲になるのか気になっていたのですがこの結果にとても満足しています!素晴らしい曲でした、重ね重ねありがとうございます。

      2019/01/23 21:29:55

クリップボードにコピーしました