「み…見るなッ…!!さっさと出ていけ!
これ以上、おれに近付くなッ!!」
屈辱感にまみれた悲痛な叫びが、
とあるマンションの一室に響き渡った。
ドアノブを掴んだまま銅像のように固まっていた少女は、
その声でようやく我に返り、
もう一度ゆっくりと部屋の中を見渡す。
しかし、目の前に広がる光景に脳の処理能力が追い付かず、
グラッと視界が揺れた。
「…これは…どういうことなの……」
手、指、腕、胴体、足、そして、頭。
少年の身体はバラバラになっていた。
それらはジグソーパズルのピースのように、
部屋中に散らばっている。
不思議なことに血は一滴も出ていない。
その上、頭だけになった少年は会話もできるようだ。
「奴らにやられた」
少女の問いかけに対して、
まるで独り言のように彼は答える。
自分で自分が許せないと言いたげに、
少年は目を伏せて下唇を強く噛み締めた。
「奴らって?」
少女は聞き返した。
彼は戦士だから戦うのは仕方がないし、
自分の命の恩人でもある。
だが、人の身体をバラバラにする能力なんて、
今まで一度も聞いたことがない。
なんて恐ろしい能力。彼女は目の前が暗くなる。
「奴ら」とは本当に人間なのだろうか。
血も涙もないモンスターなのではないか。
少女は渓谷を覗き込んだときのような気分になった。
恐怖と不安が不気味な色となって頭の中で渦を巻く。
床に散らばった少年の手足がピクピクと痙攣しているのを見ると、
彼女は逃げ出してしまいたい気持ちに駆られた。
しかし、ここで逃げたら少年は死んでしまうかもしれない。
両足に力を入れて彼女は何とかその場に留まった。
しかし、少年はその心境が理解できるほど、
冷静な状態ではなかった。
早い話が、自分のことで頭がいっぱいだったのだ。
「うるせえッ!!出ていけっつってんだろ!
おれの前から消えろッ!!」
急に跳び跳ねた暴れ馬のように彼は怒鳴った。
少女はその迫力に押され、思わず一歩下がる。
だが、右手はドアノブを握り締めたまま、
前へと進むチャンスをうかがっていた。
まだ可能性は残っている。
彼女は脳をフル回転させ、
どうすれば彼を救えるのか考えた。
そして、ひとつの結論にたどり着いた。
「落ち着いて。大丈夫よ」
少女は優しく微笑み、
弟に言い聞かせるように言葉を紡ぐ。
長い睫毛に縁取られた黒真珠によく似た瞳は、
穏やかな光を湛えて彼を見つめていた。
自分の子どもを見守る母親ライオンのように、
その眼差しは何よりも強く、優しい。
海のように深い愛情。包容力。柔軟性。
それらを感じた少年は自分の行いを恥じるように、
彼女から目を逸らした。
「奴ら」に対する身を焼くような怒り。
何もできなかった悔しさ。
それが少年の身体を小刻みに震わせている。
狼にも似た凶暴さで何もかも食い荒らしてしまいそうなほどに。
しかし、少女はその姿を見て、
部屋の隅でうずくまって怯えている子犬のようだと思った。
「私、あなたを助けたいの。だから、教えて。
どうすればあなたを救えるのか」
彼女は自分の白いスカートが汚れることもいとわず、
泥まみれの床に膝をついた。
無造作に転がっている少年の頭やバラバラになった手足と、
少しでも同じ高さで話がしたいと思ったのだ。
「おれを軽蔑しないのか」
少年は遠くに見えたオアシスを蜃気楼かと疑う旅人のような目をしている。
「軽蔑?どうして?」
少女は首をかしげて、おどけた表情で微笑んでみせた。
両手を上げて武器を持っていないことを示すのと同じアピールだ。
「あの日、おれは君を守ると誓った。それなのに、このザマだ。
自分のことすら守れやしない。
君だって本当はこんな男は嫌いだろ。笑えよ」
――噛み締めた唇は鉄の味がする。
それなら、この身体も鉄のように強ければ良かったのに。
少年はそう思った。
「笑わないわ。困ったときはお互い様でしょ。
それに、今のあなたも嫌いじゃないわ。
いつもクールぶっているよりいいんじゃない?」
少女はお茶目っぽくそう言って「本当よ」と微笑んだ。
前髪を切り過ぎてしまった人を励ましているような、
ふわりとした可憐な笑顔である。
そんなに深刻に考える必要はないという、
彼女なりのメッセージだ。
「……そうか?」
少年はばつが悪そうに目を逸らした。
どこかくすぐられているような気分になる。
少女に何か言ってやりたいと彼は思ったが、
こんなちっぽけなプライドなど捨ててしまいたいとも思う。
彼女には、かなわない。そんな気がする。
こんな気持ちになったのは初めてのことかもしれない。
――戦場では地獄からやってきた鬼だと恐れられてきたおれが、
こんな小娘ひとりに骨抜きにされるとは。
少年は自嘲じみた笑いがこみ上げてくるのを抑えられず、
小さく声を上げて笑った。戦争なんてバカらしい、と。
「大丈夫、何とかなるわ。一緒に方法を考えましょう」
少女は傍に落ちている彼の手を拾い上げ、
宝物のように大事に抱えた。
泣いていた彼女の頭を撫でて励ましてくれた、
大きくてたくましい手だ。
しかし、今は指が2本欠けていて痛々しい。
傷ついた小鳥にそうするように、
少女はそっと彼の手を撫でる。
白い指先が少年のものと重なった。
「どんな姿になっても、あなたはあなた。
私が世界でたったひとり尊敬する人よ」
少女の微笑みは慈愛の女神のように、
あたたかく、うつくしく、強い。
いつの間にか咲いていた花のように、
少年の心は気付いたときには開放されていた。
「……ありがとう。怒鳴ったりして悪かった」
姫に跪く騎士のように少年は頭を下げた。
胴体がないので頭部が少し傾いただけだったが、
それが彼にとってどれだけ大きな意味を持つか少女はわかっていた。
「いいのよ、気にしないで。握手、握手っ」
少女は左手で彼の手を持ち、自分の右手と握手させる。
最初は彼自身さえグロテスクで恐ろしいと思っていたものも、
少女の手にかかればまるで小動物のようにかわいらしい。
――なんとも不思議だ。
これは彼女の才能なのかもしれない。
少年は感嘆の吐息を洩らした。
彼はどうしようもなく胸が熱くなるのを感じた。
今は頭だけの存在であるはずなのに、
それでも誰かを思う気持ちは身体に表れてしまうらしい。
――心臓の辺りがジリジリと焼けるようだ。痛い。苦しい。
解放されたい。いや、このままでいたい。
そんな葛藤を繰り返している彼の身体が、
少しずつ光り始めていることに二人は気付いていなかった。
次の瞬間、魔法が解けたように全てのパーツが組み立てられ、
少年という名のパズルは完成するわけだが、
それはまた別のお話。
☆.。.:*・☆.。.:*・☆.。.:*・☆.。.:*・☆.。.:*・☆.。.:*・☆.。.:*・☆.。.:*・
少年「…というプレイを考えてみたんだが」
慈愛少女「とっても素敵なお話ですね!」
少年「わかってくれるのか!?君は女神だッ!!」
慈愛少女「握手、握手っ」
【小説を書いたよ♪】その微笑みは慈愛の女神のように
人に対する愛が全てを救うシリーズの第四弾っ!!
話はつながっていないので単体で読めます♪
あなたにも愛をプレゼントっ☆彡
*ゝ∀・)ノ シュッ≡≡≡≡≡[愛]
【メイドさん】第一弾はこちら☆彡【ヤンデレ】
前編(歌詞) http://piapro.jp/t/ZvXC
後編(小説) http://piapro.jp/t/azcq
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よろしくお願いしますっ♪
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ご意見・ご感想
kazu8823
ご意見・ご感想
奴ら・・・まさか(;・`ω・´)ハッ!
奴らのモルモットにされてしまったというのか・・・!?Σ(゜Д゜;)
いや、新手のスタンド使いの仕業か・・・!?
2015/02/28 01:58:50
ふわふわ
感想ありがとうございます!!
どんな敵が相手でも二人がやっつけるから問題ないですっ♪
おらおらおらおらおらーっ!!(つ>∀<)≡つ)`д゜)∴
2015/02/28 17:28:04