<卒業式という名の新しいスタート>


昨日あたりから通勤途中でたくさんの卒業式を見かけますね。
もう、世間は卒業シーズンなんですねぇ・・・。
ボクの場合、世間的に美しい日も妄想によって汚されてしまうわけで・・・
卒業式という晴れやかな日でも、それは変わらないわけで・・・


今回の妄想、はっじまるよ~♪




「卒業、おめでとうー」

向かいの大学から聞こえてくるお祝いの数々の声たち。

「そうか、今日は卒業式か・・・。」

私はこの大学の前で喫茶店を開いている。
大学の前で喫茶店を始めてはや、10年。
みんなには「マスター」と呼ばれて慕われている。
まぁ、自分で 慕われている というのも変な話だがね。

私は10年間で色々な生徒と出会ったことを誇りに思う。
私の店で数々のドラマが繰り広げられ、その場に一店員としてだが、居合わせられたことが何のとりえもない私の唯一の自慢だ。
特に、今年卒業する生徒たちはすごく印象に残る人物ばかりであった。

無茶ばかりするサークルのやつら
飲みすぎて、店に泊っていく男子生徒
時には女学生の恋愛相談にも乗ったけなぁ。。。
こんなおじさんに聞いてもしょうがないだろうに・・・

開店準備をしながら、そんなことをふと思い出していた。

「そういえば・・・あの娘も卒業か・・・」

そう、いつもあのカウンターの奥の席に座っていたあの娘。
毎日、授業の後に必ず一人で来てアイスコーヒーを飲んでいたあの娘。
屈託のない笑顔で笑っていたあの娘。
名前も知らなかったことに今気づき、なんだかおかしな気持ちになる。


今日は営業開始とともに多くのお客様がいらっしゃった。
やはり、ほとんどが卒業生の父兄だった。
うちの店に来てくれていた学生たちも最後の挨拶にと足を運んでくれた。
みな、これからはそれぞれ違う道を歩んでいくのだろうが、ここで出逢ったもの起きたこと、これからの人生で少しでも役にたってくれればと切に願う。


日が暮れて、大学の前も人がまばらになり始めた頃、私の店も営業を終了する。
今日は私にとっても忘れられない想い出の1ページとなったであろう。
店のかたづけをのんびりと始めた頃、扉が開いた。
おそらく本日、最後のお客さんだ。

「いらっしゃいませ。」

「マスター!よかった、間に合って」

そこに立っていたのは、名前も知らないあの娘だった。
私も最後に会っておきたかったので純粋にうれしかった。
と、いうのも来店自体がとても久しぶりだったからだ。
最近は就職が決まらなかったらしく、就職活動に奔走していると聞いていた。

しばらくぶりの彼女の声、懐かしく感じた。
いつもどおりの笑顔。
いつもどおりのアイスコーヒー。
今日までの間に起きた色々なことをとても楽しそうに話してくれた。
「その日、あったことを報告する」
これが彼女と私のいつもの光景であった。

話を聞くと、どうやらまだ就職が決まってないらしい。
私から見れば、彼女はしっかりしているし、人当たりもいいので、なりたいものがあれば十分その仕事には就けるのではないかと思うのだが。
就職できない、もしくはしたくない理由でもあるのだろうか。
そんなことをふと、考えていた時だった・・・

「あたし、ここで働こっかな・・・。」

「え?」   ガチャンっ!

突然の申し出に思わず拭いていた皿を落としてしまった。

「どうしたんですか、急に。あなたらしくもない」

床に落ちた皿の破片を拾いながら、彼女に背を向けながら問いかけた。
ただ、皿を拾うだけでなく、自分が動揺しているのを悟られないために。

「ここでマスターと一緒に二人で働くのも・・・いいかなぁって・・・。」

いけない・・・私は何かを期待してしまっているようだ。
ただの客と店員ではなく、別の関係を・・・

覚悟を決め、立ち上がり振り向いた瞬間だった。


彼女は泣いていた。


そんな彼女を私はただ静かに見届けることしか出来なかった・・・





卒業式があれば、その翌月には入学式がある。
今年も、多くの入学生が大きな夢と希望を抱え、この店にやってくる。
私はまた、新しい息吹たちの人生に関われることを幸せに思う。

今日も何気ない日常が始まる。

「いらっしゃいませ~」

そして、元気で可愛らしい声・・・。

そう、今月から私の店は従業員を雇ったのだ。
アイスコーヒーが好きな素敵な笑顔の娘を。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

妄想暴走日記5

卒業式ネタ。
これも、誰かインスパイアされないかしら?
・・・あ、やっぱり無理??

閲覧数:28

投稿日:2009/08/20 15:43:43

文字数:1,912文字

カテゴリ:その他

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