「とーりゃんせーとおりゃんせー。」
少女の歌は今日も宵の空に響く。
赤く染まった手を月の上る空に掲げれば、宝石のように滴るそれを見て心躍らせる。
無垢な心は直感的に物事を捉えれば
それが意味するものに少女は興味を示さず、ただ『綺麗』の一言に尽きるのだ。
「これは食べてもいいものなの?」
あまりにも綺麗なそれを失くす事に躊躇いのあった少女は唯一見知った男に確認として問うことにした。
「食べなくては死んでしまうよ。」
男はただただ淡々と、全くと言っていい程、感情の籠らない口調でその言葉を発する。
「・・・死んでしまうのは嫌だわ。」
少女は死という単語が分からなかった。
然し無知を晒すことに抵抗がないわけではない。
少女は男の口振りから類推出来ることは出来るだけ応えることにした。
こうして知識を蓄えているにしろ、少女の知る事は余りにも少なかった。
「そもそもこれは・・・何?」
「それはお菓子だ。」
少女が問えば男は応える。
「『お菓子』ってなに?」
「それの事だよ。」
少女が生きるのに必要な知識は全て男が知っていた。
ただし、少女には男の事はなに一つ分からない。
そんな関係を快く思っていない少女は、男が応えられない何かがあるならば、きっと面白いのに、と常日頃から思いを募らせていた。
男の教えてくれた『お菓子』というものを少女は初めて口にする。
甘い。
甘いなぁ。
甘い甘い甘い甘い甘い甘い甘い甘い甘い甘い甘い甘い甘い甘い甘い甘い甘い甘い甘い甘い。
少女はこの『お菓子』というものの味を知る。
ああ、そうか、これが生きるということか。
少女は涙を流してお菓子を貪った。
「そんなにうまいか?」
普段は教える側の男が少女に問う。
「・・・食べたことないの?」
少女は涙を拭い、問い返した。

「僕が?それを?冗談言うなよ。」
涙交じりに、にたりと嗤う少女。
初めて男に教える側に立てた事が嬉しくて、少女は教えてあげるか否かというところで少女は迷い、その葛藤こそに喜びを覚える。
「教えてあげるわ。」
少女が言った傍らに枯木が一つ横たわっていた。

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【小説】常識科学の魔法学11

閲覧数:158

投稿日:2016/03/02 22:16:42

文字数:876文字

カテゴリ:小説

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