真っ暗な闇の中に居た。何も見えない、何も聴こえない、手を伸ばしても感覚が無い、落ちている様な、浮いている様な、何も感じない場所。

『…スズミ…?』

返事は無かった。此処は何処だ…?自分の声すらも飲み込まれた。声になっているのかすら、もう判らなかった。

『騎士…。』
『スズミ?!』
『…ごめんね…騎士…。』
『スズミ…?スズミ…!!嫌だ…嫌だ…!!スズミ…!!』

目を開けた瞬間、白い壁と、家具と、そして気が付けば伸ばしていた手が視界に飛び込んだ。そこは【Yggdrasil】の俺の部屋で、窓からは柔らかい光が差していた。状況がよく飲み込めないまま手近にあった白衣を羽織ると、少しふらつく身体を起こした。一体どうなったんだ…?スズミは…?皆は無事なのか…?何処に…誰か…誰か人に会いたい…。

「……………………。」

歌…?

「……………………。」

この声…それにこのピアノの音色は…。

「……………………。」

導かれる様に、脚を引き摺りながら歩いた。何度も何度も聞いたこの声、何度も何度も聴いたこの音色、間違える筈は無い…。不安と恐怖と愛おしさが入り混じった手でゆっくりと扉を押し開いた。

「…スズミ…?」

振り向かなかった。祈る様な思いで、もう一度その名を呼んだ。

「スズミ…。」

振り向いて、笑って細めた目に、涙が伝い落ちた。

「…おかえり…騎士先輩…。」

その言葉を聞いた瞬間、もう涙で何も見えなくなった。

「…っふ…う…あ…ああっ!うっ…!」
「…ごめんね騎士!!一人にしてごめんね…!!寂しかったよね?ごめんね…ごめんね!!」
「…っうぁぁあああああああああああ!!!…あ…う…ぁ…!うぁあああああああ!!!!」
「ごめんね騎士…辛かったね…!」
「う…あ…!スズ…スズ…ミ…!!う…あ…!!ああああああああああああああああ!!」

しがみ付いて叫ぶ様にただ泣いた。声も涙も止まらなくて、スズミの小さな身体を強くかき抱いてただ溢れた感情をそのまま吐き出した。スズミは何度も何度も『ごめんね』と繰り返しながら、優しく抱き返してくれる。奇跡も、神様も信じないけど…だけど今だけは祈る事を許して欲しい。これが夢ではないと、夢ならどうか醒めないで欲しいと。

「ほら騎士、折角『おかえり』って言ってるんだから、ビービー泣いてないで言う事
 があるだろ?」
「そうそう、綺麗な顔が台無しだよ。」
「皆待ってたんですから、貴方を。」

そう言う皆だって、目が真っ赤じゃないか。そんな言葉が少しだけ心を軽くした。息を吸って、出来るかどうか自信無いけど精一杯の笑顔で。

「…ただいま…。」

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

BeastSyndrome -109.伝えたい言葉-

おかえり

閲覧数:135

投稿日:2010/07/11 01:14:31

文字数:1,110文字

カテゴリ:小説

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