オシャレを知らないオオカミがいました。オシャレを知らないから、どんな服を着たって構いませんでしたし、必要が無ければ、そもそも服を来ようとさえ思いません。
 しかしある時、ウサギに言われました。

 ――あんた、ダサいよ。俺達を見てみろよ、イカしてるだろ。こういうのをオシャレって言うんだ。

 確かにウサギの服はオシャレらしいのですが、どうもケバケバしくて、着る気が起きません。どこがどう格好いいのか説明してもらっても、いまいち分かりませんでした。
 それでもオオカミはオシャレというものがどんなものか、ちょっとだけ気になりました。
 そこで、ウサギのオシャレはよく分からなかったので、ウサギをやたら吼えるライオンにオシャレについて聞きました。

 ――オシャレというのは、煌びやかで、かつ、きちんと整っていることだ。ウサギは下品だから真似をしてはいかんぞ。

 そう答えるライオンの服は豪華絢爛なものでした。厳かなのはいいのですが、どうにも威圧的で、そんな服を着ていてはずっと胸を張っていなければならなさそうです。オオカミはライオンのオシャレは諦めました。
 そしてライオンの館から出る際、その警護を務めるイヌに会いました。
 ついでに、とオオカミはイヌに、オシャレの何たるかをたずねました。すると、

 ――乱れが無いこと。以上です。

 ――あぁ、そう……

 見ると確かにイヌの服にはシワや汚れが一切ありません。清潔だし服を選ばなくていいな、とは思いましたが、何だか堅苦しいです。機械のような素振りを見ていると、まるで服に動かされているような印象を受けますし、何よりオオカミにとって心地が悪そうです。
 するとイヌのオシャレを諦めたオオカミの横を、カメレオンが通りました。カメレオンは何枚も服を着こなすオシャレさんです。
 これを逃す手は無いと、オオカミはカメレオンを呼びとめ、意気込んで聞きました。

 ――オシャレはね、みんなが決めるんだ。だからみんなが求める色に染まることかな。

 なるほどなぁ、とオオカミは感嘆しました。
 しかしです。カメレオンの服をよーく見ると、意外にも穴だらけで、ざらついた肌が見えてしまっています。あまりよくない見た目の肌でした。
 みんなが求めるのはその肌じゃないから、隠している……?
 その真意は聞くことは出来ませんでしたが、真似したくもなくなって、カメレオンのオシャレは止めにしました。面倒臭そうですしね。
 その帰り道、オオカミはハッと思い付きました。

 ――そういえば山にクモの住む小さな村があった。もしかすると向こうには、僕に合うオシャレがあるかもしれない。

 クモは町の住民から嫌われていましたが、オオカミはそんなこと気にしません。試しに行ってみることにしました。
 クモの村に着くと、数匹のクモからは白い目で見られましたが、客として温かくもてなされました。話してみても楽しく、嫌われているのが不思議でした。

 ――こんなに優しいクモ達なら、いいオシャレを知っているかもしれない。

 そんな期待を持ちながら、早速問うてみました。すると、

 ――いくら非難されても、自分達の信念を貫き通すことさ。

 ――それはすごいや……

 オオカミはクモ達の情熱が少し怖く感じて、そそくさと逃げるように立ち去りました。そういえば、クモの服は何だか絡み付きそうでしたし……

 結局、オオカミはオシャレがどんなものかもよく分からないまま、家に帰りました。
 オオカミは悩みました。今日出会った者達のオシャレを思い巡らせますが、どれもやりたくありません。

 ――もう、いい!

 オオカミはついに服を脱ぎ捨ててしまいました。
 そういえば誰かが、毛皮はオシャレだとも言っていました。
 しかしオオカミの毛皮は、ところどころ絡んでいたり、泥がこびり付いていたりして、しかもちょっと匂う……それはオシャレでも何でもなく、ただ薄汚れた、ケモノの皮でしかありませんでした。
 もっとも、元々オシャレに気を使わないオオカミでしたから、このほうが気軽でいいや、なんて思っていましたけどね。

 そんなオオカミがある日、フクロウとばったり出会いました。
 オオカミは驚いて、あっ、と叫びました。
 フクロウの服は、オオカミでも分かるほど、オシャレなものではありませんでした。しかし何だか、様になっているのです。
 オオカミは気になって、フクロウに問いました。

 ――どうして君はオシャレじゃないのに、格好いいの?

 ――格好いいかは知らないけどね、

 フクロウは気恥ずかしそうに前置きを言ってから、答えました。

 ――私も君と同じで、服にはこだわっていないよ。飾りも着けてない。ただ君と違うのは、自分の身体を綺麗にしていることかな。

 言われてフクロウの羽を見ると、鮮やかではありませんでしたが、それはそれは立派な毛並みをしていました。今まで見てきたものとは違うオシャレの形。オオカミは感動し、言葉が出ませんでした。

 ――僕も、君みたいになれるかな?

 ――なれるよ。君がそうなろうと思う限りはね。

 そのあとオオカミは、丹念に毛づくろいなどをして、自分の身体を綺麗に保ちました。
 そうしているとどうでしょう。オシャレじゃない服も、まるで自分の身体に合わせるように、着た瞬間からたちまち活き活きとしだします。

 ――結局、オシャレって何だったんだろう。

 オオカミはふと思いましたが、やっぱりどうでもいいや、と笑いながら、今日も服を着るのでした。



(了)

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

オオカミのオシャレ

寓話が思い浮かんだので、さっと書きました。

うー、時間が足りない……。

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投稿日:2011/02/18 18:52:19

文字数:2,314文字

カテゴリ:その他

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