リリスちゃんは奥から順に近いお客ひとりひとりに挨拶して廻った。
「今日はわざわざ、私の誕生日を祝って頂くために来てくださって、ホントにありがとうございます…」
馴染みの客に話している声が聞こえた。リリスちゃんは本当に礼儀正しく、お礼を言いながら廻っていた。
「あら?今日も来てくださったのですね」
僕に気がついたリリスちゃんは、そう話しかけてきた。
「誕生日、おめでとう」
「ありがとうございます。知っていてくれてたんですね」
リリスちゃんは少し照れながら、そう言った。
『ハチミツ』のウェイトレスは基本的に制服が白いシャツに黒いスカートなのだが今日のリリスちゃんの衣装はそれとはまったく違って『白』をベースに明るい『ピンク』を強調した、いかにも『本日の主役』と思える格好だった。
「すごく可愛らしい衣装だね」
僕は少し笑み浮かべながら言った。
「ちょっと、恥ずかしいです…」
リリスちゃんは自分のスカートを両手でかるく拡げながら全身を見渡して、そう言った。
「でも、これが一番カワイイかな?って思って、おもいきって着ちゃいました」
ホントに可愛らしい…。
そして、僕は思い出したかのように
「そういえば、まだ名乗ってなかったね。オレ『ハラト』っいうんだ、よろしくね」
すると、リリスちゃんは何かに気づいたのか「あっ」と僕の顔を見た。
「やっぱり、そうだったのですね。コメントありがとうございました」
リリスちゃんは笑顔で、そう言った。ちなみに僕の一人称は『オレ』である。
「今日はゆっくりしていってくださいね」
そう言うとリリスちゃんは、他の客席に向かって歩いて行った。
僕はまた手に持っていた本を読みながらドリンクを飲みはじめた。
すると隣の席の男性が話しかけてきた。
「ハチミツのイベントははじめてですか?」
薄いサングラスをかけた中年の男性だった。
「あ、はい。先月くらいからココに通いはじめたので…」
僕は答えた。
「そうでしたか、ココのイベント面白くてね。いつも主役が夜二十時くらいに『セレモニー』的なことやるんですよ」
「セレモニー?」
「まあ、セレモニーといっても店長が花束をわたして最後に主役の女の子がスピーチのような挨拶をするだけですけどね」
その人は教えてくれた。なんにせよ楽しみだ。リリスちゃんはどんなスピーチをするのだろう…。
「ポイントカードは持ってますか?今日の衣装は、そう見れるモノではないから写メ撮っといて損はないですよ」
「はい、持ってます。でもツーショットはちょっと恥ずかしいんですよね…」
「ウェイトレスのソロでも撮れますよ。そういう人もけっこういるし…」
なんと?それなら是非撮りたいと思った。僕は近くにいたウェイトレスのあこちゃんにカードをわたして、写メの予約をした。それも隣の中年男性に教えてもらったことだ。とてもありがたい。
「おっと、セレモニーまではまだ時間があるから。わたしは少し出てきますよ」
「え?そうなんですか?」
「わたし、昼の二時からいるから。どちらのせよ客の入れ替えで追い出されちゃうんですよ」
男性は、そう笑いながら店の外へ出ていった。「また来るよ」とリリスちゃんに手を振りながら。
それにしても今日は客が多い。やっぱりイベントの日は人が集まるのだろうか。でも、その中には『イベント』と知らずに入ってくる客もいて、なんだか不思議そうに辺りを見回している。
「それでは、ここでリリスちゃんとの『写メ撮影会』を行います。呼ばれたお客様は一人ずつ前へお越し下さい。では、さいしょに…」
このイベントの司会をするのは、チーフウェイトレスの『メルモさん』だ。
メルモさんは、一人ずつ客の名前を読み上げながら撮影会を始める。やっぱり客の中にはツーショットを拒む人もいて「ソロでお願いします」と言う人がいるようだ。
それを聞くとリリスちゃんは少し淋しそうな目で「いっしょに撮りましょうよ~」と笑っていた。
そして、僕の番になった。僕もやっぱりツーショットで写るのは恥ずかしさがあったので「ソロでお願いします」と言った。ちゃんと二人並んで撮る客もいる。コスプレっぽい格好した人もいて、なんだか楽しそうだ。
また、撮ることがあれば僕もツーショットで撮ってもいいかなと思った。

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  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

【小説】地下アイドルを推しています。第一章④

小説を書いてみた。
その第一章④です。

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投稿日:2018/06/06 12:38:51

文字数:1,761文字

カテゴリ:小説

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