食料品に関して彼等へのクエスチョンを行った。
以下に続く文章はその記録である。
Q.好物は何ですか?
「ネギ」
「ボトル」
「マグロね」
「ナスでござる」
「ワンカップ」
「アイス!」
即答者数 6/9
「バナナ……? でも、たくわんも……。レモ…ン……は……。うん、レモンは違う。うー……ん」
候補多数による返答困難 1/9
(てか、ロードローラーは食べ物じゃないよね?)
(そう思う)
議題に参加不可 2/9
このような結果となった。以上をもって調査を終了しようと思う……が、その前に一つだけ確かめなければならない案件が存在していたことを思い出した。
思い立ったら吉日。この言葉に従うことにしよう。
私はとあるファーストフード店でその案件に関わりのある人物を待っていた。
ただし、条件が名前を伏せることであったので、その人物の名前を仮に『M』と表記することをここに記す。
(帽子・コート・サングラスによる若干の変装をしているが、普段と変わらない様子のMが入店。こちらを見つけ、向かいの席に座る)
「こんにちは」
――こんにちは。時間通りですね。
「結構、時間に細かい方なんですよ~。それに、ホラ、待たせたら悪いじゃないですか」
――そうですか? 私は構いませんが。
「まあ、私の気分の問題ってことで」
(Mは中々に気さくな様子で、多忙な所を呼び出したにも関わらず、嫌な顔を見せたりはしなかった。その点は、やはり相手もプロであることを再認識させるものである。)
「あ、お話の前にちょっと注文しても良いですか? ……忙しくてゴハン抜いて来ちゃったんですよ」
――構いませんよ。何でしたら食べながらでも良いですから。
「すみません」
(少し照れ臭そうに笑いながら、Mは注文するために席を立った。なるほど、やはり職業柄忙しさは大変なものであるようだ)
(そういう私は既に食事を終えており、テーブルの――正しくは盆の――上には冷えたポテトの欠片が落ちている)
「お待たせしました」
――では、早速お聞きしてもよろしいですか?
「ええ、大丈夫です」
(Mの盆の上にはポテトやソフトドリンクが載せられていて、端の方に“39”と書かれたくの字型のプラスチック製整理番号札が所在無さげに置かれていた)
――まず、お仕事の方ですが。ご自身からして、どうですか?
「“どう”って言うのは……?」
――ああ、要は、上手くやっていけている実感はありますか? ということです。抽象的でしたね。すみません。
「あ、いえ……。えっと、上手くやっていけてるか、ですよね?」
――はい。
(そこからしばらく沈黙が続いた。Mの視線が転々として、定まらない。結構な時間を過ごした様に感じたが、それほど時間が経過していないことは壁に掛けられた時計が教えていた。そしてMは口を開く)
「……そうですね。先の事は分かりませんけど、実際にファンの皆さんを前にすると、そんな不安も消えちゃいます。もしかしたら、そういった感覚が上手くやっていけてる証、なのかもしれません」
――ちょっとした含蓄のある言葉ですね。
「ええ……、まあ」
(Mは力無く笑った。そこに職業人なりの不安やつらみ、そして暗部が垣間見えた気がしたが、Mに話す気が無いようなので追及はしなかった。土台、相手を不機嫌にさせては成り立たないことをこちらはやっているのだ)
(沈黙が流れる。初っ端から沈鬱な空気が流れる、というのはあまり良い傾向ではない)
(そこへ店員がやってきた。Mが注文したものが出来上がったのだろう)
『お待たせしました。ご注文の品はこちらでよろしいですか?』
「あ、はい」
(店員が入って来たことにより、空気の流れが変わる。次の質問をする良い機会だと思い、窓の外に向けていた目をMへと戻した……が)
――……。
(何かがおかしかった。そうだ。数がおかしい)
――け、結構食べるんですね。
「よく言われるんですよ~」
――みんな、ハンバーガーなんですね。四つとも。
「ええ」
――好きなんですか? ハンバーガー。
「もちろんSA☆……ゲフッゲフ……じゃなくて、もちろんです」
――……。
(なんだ。今のは。
ふと、そういえば今回の場所はMが指定してきたことを思い出した。こちらとしては仕切りの入った個室分けになっている焼肉屋なり何なりを使おうと思っていたのだが……)
――そうなんですか。ちなみに私、チーズバーガー派なんですよ。
「……。そうですか」
――……。
(何故だろう。今、ほんの一瞬だけ敵意の篭った鋭い視線を受けた気がした。何か、失言をしたというのだろうか? だが、私が発言した単語といえば“チーズバーガー”ぐらい……。一体?)
(私の目の前ではMが二つ目のハンバーガーを食べ終えた所であった。そして一呼吸置いてから三つ目のハンバーガーに手を伸ばした時。偶然、実に偶然であるが、コートの袖口の中が見えた。
……普段、Mの腕といえばアームウォーマーとでも言うのだろうか、とにかくそういったものを身につけている。その色は“黒”。
では、今、私の眼底にある錐体細胞が捉えた色は何だったのだろう。
一先ず、“黒”ではなかったのは確かだ)
――もしかして、イメージカラー変えたんですか?
「え……?」
――あ、いえ。なんでもないです。
(どうやら触れない方が良かったようだ。だが、触れてしまった以上何らかの答えを導き出さなくてはならない。
不意に、Mが四個目のハンバーガーに手を出した。そしてその動きでコートの袖口からはみ出るアームウォーマー。色は――
――紅白のストライプだった)
(何故だろうか。様々な事象が馬鹿らしくなってきた。
何故、わざわざそのような事を気にしたのか。
何故、わざわざ本人に聞くことを避けたのか。
何故、これほどのキーワードが羅列されているのにも関わらず、答えを恐れるのか)
(ファーストフード店。ハンバーガー四個。もちろんSA☆。紅白ストライプ)
(既に導き出される答えは決まっている。そして、それは予測は出来ても回避は出来ないものであるだろう)
(ならば共に答えを言ってしまおうではないか、同志達よ)
(さあ、やろう。いつものあのポーズで。いつものあのフレーズを)
――らん☆らん☆
「るー☆!!」
(遂にやってしまった。Mもしまった、という顔をしているが、既に遅い)
――嬉しくなると
「つい、やっちゃうんDA☆」
――さあ、君も一緒に
「やってみようよ」
『いくよ?』
らん☆らん☆るー☆!!
(非常に清々しい思いと共に、腹から込み上げてくる馬鹿馬鹿しさが化学反応を起こす)
(全ての同志達よ。共に、笑おう)
――――――
文章はそこで終わっていた。
この文章の作者は結局分からず仕舞い。
ただ、最後にこう記されているのが分かった。
『初音マクとの取材にて by……』
一体、何があったというのだろう。
……一体、何が。
―完―
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