画面と書類を眺めながら何度目かの溜息を吐いた。

「チーフ、お疲れですか?この所激務だった様ですし少し休まれた方が宜しいかと。」
「…そんなに疲れてる様に見えるか?」
「ええ、私には。ああ、それから支部長から届いた此方の写真は処分しても宜しいので?」
「そ、いつも通り宜しく。」

運び出される仰々しい封筒に入った見合い写真の束をげんなりした気持ちで見送った。両親や兄姉は割とあっさりしているのに世話好きな叔母が嬉々として写真やら履歴書やらを送って来る。機会があって聞いたが旋堂も似た様な物だとか。鈴夢の為に緋織を助けると言って置きながら、所詮俺も道具でしかない。けど幸いにも少しだけ力を持っている…ほんの少しだけ。

「チーフ、お出掛けですか?」
「ん、そうちょっと気晴らしに。」
「その格好でですか?」

言われてふと鏡を見た。流石にスーツでは気晴らしも何もあった物じゃない。クスクス笑う部下を少し睨みつつ踵を返した。

「いや、着替える…ありがとう。」
「お疲れの様で。」

疲れていると言うより気落ちはしているのかも知れない。たかがゲームと侮った結果が今の危険な状態で、追求するにも後一歩の所で確証が無く根っ子に辿り着けないで居る。全く持って力不足にも程があるな。

「あれ…凰さん、どうしたんですか?」

振り返ると学校を終えたらしい緋織がキョトンとした顔で立っていた。

「別に、散歩してただけ…って、1人か?鈴夢は?」
「今日はバイトあるからってメールが…ちょっ、頭ぐしゃぐしゃにしないで下さい。」

鈴夢の事は中学時代から知ってるけど、体質のせいか殆ど人間不信みたいな物だった。浮気性の女の子にふざけてキスされて寝込んだ事もあった。ここ数年はもう誰かに執着するなんて考えてもいなくて、欲の無い人形みたいだった。けどあいつは変わった、初めて俺に頼み事をした、彼女を解放して欲しいと願った、手に入れたいとは言わずに、ただ助けてやって欲しいと。

「送ってく、1人じゃ危ないし。」
「え?でも…。」
「何?不満?」
「いえ、来留宮先輩に怒られちゃうかなって。」
「あー…いや、そんなんで怒らないでしょ、付き合ってるとかじゃないし。」
「違うんですか?その割には何度か先輩の事デートに誘ったり、カオス先輩に好み聞いたり、この前の旋堂家のパーティーにわざわざドレスまで用意して招待したり…あれ?凰さん?」

精神的に強烈な連撃を喰らった気分だった。確かにそうなんだけど弟に聞いた事なんて鈴夢にも話してないのに…。

「…誰に聞いたの?」
「カオス先輩です。」
「そう…。」

何かもう涙出そうだ。

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いちごいちえとひめしあい-108.モテない人-

閲覧数:55

投稿日:2012/03/15 17:29:47

文字数:1,101文字

カテゴリ:小説

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