-第十九章-
ふと、レンは甘い香りに顔を上げた。甘い紅茶とジャムの香りである。
「レン、いらない?紅茶とお菓子。ジャムつけると美味しいんだ、コレが」
「あ、うん。ありがとう…」
「ルカさんのこと、気になるの?大丈夫、きっとすぐに目を覚ましたって報告が入るよ。だって、守護者はちょっとやそっとでやられないもん」
そういったリンに微笑んで、リンの手から紅茶と小さな菓子を取ると、美味しそうにほおばった。その顔をそっとリンが覗き込んだ。
「美味しいでしょ?」
「うん、美味しいね。イチゴのジャムより、マーマレードが合いそう」
「そうかぁ。それなら、あるかどうか聞いてくる。待っててね」
「わかった」
ドタバタと騒がしくリンは出て行く。リンが部屋を出て行ったのを見計らい、レンはそっと部屋のドアに鍵をかけると、ベッドの上に無造作に置かれた携帯電話に手を伸ばした。着信を見ると、一つだけメールが来ていた。無論、メイトからである。
すぐさまメールに目を通す。
『今、病院に着いた。ミクと交代して今はルカについている。
それで、ミクから聞いたんだが、ルカの持ち物にケータイがなくなっているらしい。
どうもルカを襲った犯人が持って行ったらしいが、なんでだと思う?』
そんなこと、決まっているじゃないか。
素早く返信を打ち始める。
『間違いなくこちら側のネットワークを知るためだ。
ルカの携帯電話には守護者全員のアドレスが入っているから、全員の素性が知られているかもしれない。
おかしなメールや電話がかかってきたら、知らないふりをすること。もちろん、ルカの携帯電話から来たものも要注意だよ』
それを送信しようとして、ドアを開けようとする『ガチャガチャ』という音に驚いて携帯電話を落としそうになった。鍵をかけているので、入ってくることはできない。ドアの向こうから、不満げなリンの声がレンに向けて飛んできた。
「レン、何やってんのー?マーマレードあったよ!」
「あ、うん、ちょっとまって、今あけるから!」
そういって送信ボタンを押し、携帯電話を閉じると、鍵を開けた。するとリンが勢いよく飛び込んできて、紅茶をこぼさないようにバランスをとり、レンの前に入れなおした紅茶とお菓子、マーマレードを出した。
しかし、リンの顔は不満げである。
「レン、何やってたの?鍵かけたりして…」
「なんでもないよ。あ、やっぱりマーマレードが合うね」
「…。レン、隠し事はやめてよ」
ぎくっとしたが、リンもマーマレードをつけることが気に入ったらしくすぐに笑顔になって、お菓子を頬張り始めた。
何時間も変わらない空間のようで、メイトは病院というものが嫌いだった。
まあ、病院がすきというのもあまり聞かないが、メイトはそういうことを別として何となくいやなのである。確かに注射も嫌いだし、苦い薬も絶対飲まないし、大きな錠剤のタイプの薬なら飲み込めないのでキライだったが、そういうことではなく、いやなのだ。
言葉にするのは難しい。
携帯電話が小刻みに震えだし、音楽が流れ出した。先ほどレンに送信したメールの、返信が来たらしい。メイトは携帯電話を開いた。
内容に目を通すと、携帯電話を閉じた。
規則的な機械音と開いた窓から聞こえてくる木々が揺れる音だけが、病室の中に流れる音だった。
目を覚まさないルカと、二人きり――といっても、メイトは窓の外を見ていて、そんなことにきづいてすらいないようだが。かすかにルカの髪が風で揺れた。同時に、頬がわずかに動く。
「ルカ?」
そんなメイトの呼びかけに、ルカの口につけられた呼吸器の中が一気に曇り、ルカの切れ長の青い目が真っ白の天井を映した。
「…メ…イト…ですか?」
「ルカ!俺だ、わかるか?大丈夫か?どっか痛いところとか…。あっ、何か食いたいもんあれば…」
慌てたように妙な気を使うメイトを見て、ルカはクスリと笑い、それからメイトのほうへ顔を向けた。
「大丈夫です。ただ、式神がやられて…。ジャックナイフを持っていたわ。それで、力が強くて…」
「ま、待て。相手の身体的な特徴は?男だったとか女だったとか」
「…ごめんなさい。部屋より廊下のほうが明るかったのと、突然のことだったから…」
「そうか。いや、いい。無理もない。気にすることはないさ。それより、携帯電話はどうした?なくなっている、とミクが騒いでいた」
「式神に持たせていました。ですが、式神は相手にやられてしまいましたから…」
そうやって口ごもるルカを見たメイトは、頭にぽんと手を乗せ、微笑んだ。
「大丈夫、どうってことはない。今は、できるだけ早く退院して…」
「何故、そんなに携帯を気にするのです?何かメールか何か…?」
「いや…メールといったら、レンからきた帝国の…あっ」
「どうしました?」
「レンが守護者全員に送ったメールに、帝国が動いているという内容があったんだ」
「帝国が?」
「お前を襲ったのも、帝国の奴らだろう。ミクやあのリンとか言う少女も、甲冑の集団に襲われたらしい。携帯電話には守護者全員のアドレスが入っているんだろう?なら、守護者の素性がばれるかもしれないと、レンが」
そういったメイトを見ていたルカが、微笑んだ。
「それこそ大丈夫。私、アドレスは登録しないの。全員分、覚えてるんですよ。それに、メールや通信記録も片っ端から消しているので。何かあったときに、と思っていたのが、こんな形で役立つとは」
呼吸器をはずし、ルカはメイトに余裕の笑みを見せた。
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ご意見・ご感想
リオン
ご意見・ご感想
こんばんは、みずさん!
ルカは優等生ですよ、きっと!学校が一緒だとしたら、メイコとテストの度にイチニを争う戦いをやっていそうです。ルカの記憶力なら、五百年くらいにあったこと全部覚えていそうですね…。
もう二年位前ではないでしょうか…。美味しいですけどね…。
ハイ、親にも風邪薬飲んで早く寝なさいと釘を刺されました…。
無理なんかしてませんよ!大丈夫です!インフルもはやってますけど、大丈夫です!!
ノープロブレムって、問題ないとかそんなんだったでしょうか?
いいですね…。学級閉鎖がないとは!うらやましいです…。ウチのクラスも結構休んでたんで。
ありがとうございます!
頑張りますねっ!話を終わらせずに死にそうになったら、式神でも使って…。
大丈夫です!どうにかしますから!
それでは、また明日の投稿がんばりまっす!!
2009/10/08 22:34:20