時は流れた。それも、良い方へと。
 ネルと雑音さんの出演した番組が放送され、それは大好評を生んだ。
 それからというもの、ネルの人気は過去以上に急上昇し、CDの発売、ライブ、メディア出演など多忙な日々が続いたが、二人がそれを苦と思うことは全く無かったのだ。俺自身も然り。彼女達といられるそのときが、最も充実を得られるようになっている。
 人気こそ一時期炎の如く燃え上がったが、今では安定したファンを多く持ち、ある程度の活動を終えた事から、多忙な日々はそう長続きしなかった。
 まぁ、その方が二人にとっても良いだろう。
 今も、いつもどおりピアプロで活動し、充実した日々を送っている。
 そういえば、俺はあの番組の収録前、ネルの人気が戻ったら、皆のいる家に戻ってきてほしい、とネルに伝えようと考えたが、人気が上昇し、ファンを得た今日でも、未だに実行に移せずにいる。
 ネルに戻ってきてほしいと切に願う自分を、それは二人の仲を引き裂き、今後の活動に影響を及ぼすかもしれないと懸念する自分が引き留まらせているからだ。
 俺は、ピアプロで毎日会えるのだから問題ないと思ったのだが、やはり家族が一人家からいなくなるということは、やはり寂しい。
 誰にも俺がそう感じていることを悟られまいと思っていたが、ネルは薄々気付いているようで、俺に対しても、昔のような棘のあるのもではなく、素直に、従順になっている。
 そんなネルを見るたび、抱きしめたくなる衝動に駆られるのは秘密だが。
 そういえば近頃、雑音さんの笑顔が見られなくなってきた気がする。
 調教中も、無表情でいることが多い。
 何があったのかと問いかけると、どうやら網走さんがここ二ヶ月ほど勤め先であるクリプトンに籠りきりで、顔を合わせることが少なくなってきているらしい。
 彼女にとって、それはどれほど寂しいことなのか。
 二人の関係は、俺が知っている限りでは、単なる開発者と開発されたアンドロイドという間柄には収まりきれないほど深い。
 二人は、特に雑音さんは、恋愛感情をさらに超えた、言葉では言い表せない感情を抱いているに違いない。 
 では、その相手に長く会うことが出来なかったら?
 どれほど寂しいことか。
 その気持ちは理解できるが、俺はそこまで介入できないし、どう介入したらよいかも分からない。
 しかし、彼女のモチベーションは徐々に下がっていく一方。
 ここは俺ではなく、ネルに任せるとするしかない。
 ネルなら、雑音さんを慰めることが出来るかも知れない。
 こういった問題に対処すべくは、一番親密な関係にある者に限る。
 さて、雑音さんはネルに任せるとして、俺はある者の相手をしなければならない。 
 和出明介である。
 彼は、そのままにはしておけない。
 
 
 「雑音。」
 「ん・・・・・・。」
 呼びかけても、そうとしか答えない。
 このごろ、雑音の元気がない。
 あの番組から、あたし達の人気は一気に上がって、今までは、色々忙しかったんだ。
 今日はせっかく早く帰れて、こうして家で晩御飯を食べてるのに。
 会話が無いなんて、寂しすぎる。
 いつもは食事がお留守になるほど喋るのに・・・・・・。
 「雑音さぁ、このごろ元気なくない?」
 「・・・そうか?」
 「だって、あんまり喋んないし、ピアプロでもあんまり元気無いじゃん。」
 「・・・・・・。」
 そうやってうつむいてしまうから、会話が中断する。 
 でも、しっかり話を聞いてやらないと。
 「ねぇ、どうしたの?」
 「・・・・・・博貴が。」
 「え。」
 「このごろ、博貴に会ってない・・・・・・もう、二ヶ月になるのに、携帯の電池はもう切れたらしくって、話も出来なくて・・・・・・。」
 「寂しいの?」
 そう訊くと、雑音は顔をそらした。
 切なそうな顔をして。
 「・・・・・・。」
 「あたしがいるじゃん!!」
 あたしは身を乗り出して雑音の肩を叩いた。
 今はこれぐらいしか出来ない。
 雑音はにこっと笑ったけど、やはり寂しそうだ。
 あたしじゃ、ダメなのかな・・・・・・。
 「ありがとう。ネル・・・・・・。」 
 そうとは言ってくれたけど、雑音の表情は変わらない。 
 何でだろ。あたしじゃ笑顔にはならない?
 どうして?あんなに仲がいいのに。
 好きって言ってくれたのに。
 博貴さんじゃないとダメなの?
 博貴さんと雑音の関係って、どんなんだろ・・・・・・。
 恋人?愛人?父親?保護者?旦那?
 どれなんだろ・・・・・・わかんないな。
 とにかく、深い中なんだろうな。
 そんなことを考えている間に、無言の食事が終わってしまった。
 

 夜。テレビを見てても、なんにも面白くない。
 適当にファンネルを変えても、興味の無いものばかり。
 ・・・・・・つまんない。
 いつも隣で肩を寄せて、テレビを見ている雑音はいない。
 さっさと晩御飯の片づけをすると、部屋の方へ引っ込んでしまった。
 ・・・・・・なんでよ・・・・・・なんで一人なんか・・・・・・。
 あたしまでさみしくなるじゃん・・・・・・。
 いつも感じる雑音の暖かさを、今日は感じてない。
 だから、落ち着かなくて、ソファーの上に寝転がったり、寝返ったり。
 ・・・・・・雑音。
 そうだ。雑音のところに行こう。今部屋にいるから、そしたら、
 慰めよう。でもどうやって?
 とにかく、あたしは雑音の部屋に足を運んだ。
 しかし部屋の扉が開けられてる。電気もついてない。
 どこにいるんだろう。
 この部屋じゃないとすると、奥の部屋かな。
 あれは博貴さんの部屋だ。
 かすかに開いてるドアの隙間から、光が漏れてる。
 博貴さんの部屋で、何を・・・・・・。
 不審に思うと、あたしは足を忍ばせて、音を立てないように、ゆっくりと扉に近寄った。
 そこまで来て、一呼吸置く。
 そしたら気付かれないように、そっと、ドアの向こう側を、覗いた。
  
 え・・・・・・雑音・・・・・・。 
 何してるの・・・・・・?

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I for sing and you 第二十四話「寂しくて」

これは内容薄いので、夜も更新しますね。
次はちょっとチャレンジするぞ。

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投稿日:2009/04/19 16:12:30

文字数:2,507文字

カテゴリ:小説

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