「俺達」の記憶にある限りでは・・・・・・・・・。
 「彼」と「彼女」の関係は言葉では到底、表現に足りないものである。
 様々な感情が二人の間で行き交い、時には愛が。時には憎悪があった。
 そして、「彼女」は、
 
 「彼」を殺した。
 
 義務か、使命感か、昂りか、本能か。
 定かではないが、彼が一度情報の内に「彼」は「死」と認識、記録され、存在したという記憶と結果のみの存在となった。
 その情報は俺の脳内にも伝達された。視覚、聴覚を通じて。
 一度そうだと認識すれば、それ以外の情報の信憑性は薄くなる。
 しかし、どうしてもその概念を覆す情報が存在した。
 
 「彼女」に殺されたはずの「彼」が生きている。
 
 実際、俺は「彼」の「死」を目撃してはいない。
 目撃したのは、殺された「彼」と殺した「彼女」の二人のみ。
 即ち事の全貌を知っているのは「彼」と「彼女」の二人のみ。
 だが記録には「彼」は確かに「死」と在る。
 不可思議なのは、彼がどのような経緯で再び存在しているのかだ。
 「俺達」自体、それの情報網、そして情報の源である「クリプトン」。
 何所にもその情報は存在し得なかった。
 「俺達」は、膨大な情報を持ち、共有、操作、活用をする。
 しかし、其処にさえ存在し得なかった謎の記録。
 もしかすれば何所にも存在しない記録かもしれない。
 唯一、確かなことは、
  
 「彼」は存在するという、
 
 「事実」。

 
 「フゥー・・・・・・。」
 俺は灰色の息を吐いた。
 だがいつもの心地よさは余り実感できなかった。
 ネルが雑音ミクの家に居候を始めてしまって早一週間。
 俺としても、どこか物寂しさを隠せなくなっていた。
 今俺がプロデュースしているのは三人のボーカロイド。 
 ハク、アカイト、カイコの三人。 
 ハクはグラビアの人気が沈静化してきたためピアプロダクションに戻ってきた。
 三人とはいえ、歌唱練習、人工声帯の調整等の仕事に付き合わなければならない。
 収録となれば仕事時間は増し、ライブやテレビの出演となれば超多忙だ。
 現在ライブツアーに全国を巡っているキャラクター・ボーカロイド・ファーストシリーズの、初音ミク、鏡音リン、鏡音レン、カイト、メイコ、そして新人の巡音ルカの六人は特に人気が集中しており、かなりのハードスケジュールらしい。ピアプロダクションで見かけることも少ない。
 もっとも、それで俺の管轄であるセカンドシリーズはそこまで忙しくはない。だから、一日あればおおよその仕事はカタが付く。しかもメディアに登場する際に必要な殆どの設備がピアプロダクションに揃っているため、繰り返しの移動に追われることもない・・・・・・・。
 だからこうして仕事の終わった後に喫煙所であるロビーで一服していられるわけだ。
 しかしこう考え事をしていると煙草の味を忘れる。
 最近は少し騒ぎが多かった。  
 何よりネルの事を案ずる自分がいる。
 最後にネルと話したのは、いつだったであろうか・・・・・・。 
 

 「ただいまー。」
 雑音が返ってきた。
 「あ、お帰り。」
 と、玄関に走りよるあたし。
 なんだか、雑音の帰りが待ち遠しかった。
 少なくとも、一人で寂しいから、ってワケじゃない。
 じゃあ、雑音が待ち遠しいわけ?
 そう・・・・・・かな。
 「色々とやっておいたから。掃除とか。」
 「ありがとうー!」
 雑音があたしの頭を撫でた。
 一瞬、肩が張った。
 「な、何?!」 
 顔が熱くなって来た・・・・・・これって、照れてる?
 「ふふ。」
 それをみて、ふふ、微笑む雑音。
 ふふじゃねえよ。恥ずかしいじゃん!
 「じゃあご飯にするか!」
 軽い足取りでとんとんと家に上がる雑音。仕事終わりだってのに元気なヤツ。
 四人分サイズの机で、二人だけの晩御飯。
 さっとレンジでチンしたやつと、レトルト食品で構成してる。 
 博貴さんはいつも九時ぐらいらしい。 
 つーか雑音がべらべら喋りまくるんだけど・・・・・・。
 でも、一応相槌を打ったりしてる。 
 「ぷッ。」
 なんか、笑えて来たよぉ・・・・・・!!
 突然吹き出して、ご飯がちょっと飛び散った、ような・・・・・・。
 「あ!」 
 すると雑音がすごく嬉しそうな顔をした。
 「ど、どしたの?」
 「笑った!ネルが笑った!!」
 「え、それが・・・・・・どうかしたの?」
 ま、まだちょっと笑ってる。
 「よかった・・・・・・。」 
 「え?」
 「わたし、不安だったんだ・・・・・・ネルが笑わないから。寂しかった・・・・・・。」
 「雑音・・・・・・。」
 そんなこと考えてたなんて・・・・・・。
 あたし、雑音に心配なんか・・・・・・。
 「でもよかった。やっぱり笑えるんだな!」
 「そりゃ、あたしだって・・・・・・くくっ。」
 ああ、また吹き出してきた。なんでよ?
 それをぽかーんと見つめていた雑音も、ついに笑い出した。
 つられてあたしまで大笑い。
 「なんだよ雑音ぇ~!!」
 「ね、ネルがわらいだしたんだろうー!!」
 結局、それで十分ほど笑いあった。
 ばっかみたいと思ったけど、
 これであたしと雑音の間にあったわだかまりがなくなって、これからは素直になれる気がした。
 うん。雑音とだったら。
 
 
 三時間後。
 「あ、もうこんな時間じゃん。お風呂先にはいるよ。」
 「いや、ネル。今日は二人で入らないか?」
  
 
 ・・・・・・・・・・・・何ィ?!

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  • 非営利目的に限ります

I for sing and you 第八話「意外な出来事」

こーいう展開ってどうよ。

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投稿日:2009/12/17 13:36:38

文字数:2,301文字

カテゴリ:小説

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