我を忘れて、闇雲に走った。
なんだかとっても走りたかったから。
そうしてだろうか。
別に何もないのに、なぜだかとっても寂しいのよ。
家族を亡くしたわけでも、恋人と別れたわけでも、何かを失敗したわけでもないのに。
いいや、いくつか失敗をしてる。
一つはうまく笑えないこと。
一つはうまく気持ちを伝えられないこと。
一つはあまり綺麗でないこと。
一つはうまく泣けないこと。
一つはこんな何の取り柄もない自分が、生きていること。
自分が思うより、他人は自分のことを見ていない。
自分が思うより、自分はそこまで悪くない。
生きてることは素晴らしい。
そうやって言うわ、皆口をそろえて。
でもそれら全てが私には安っぽく聞こえてしまう。
そんなのきれいごとだって。
そんな自分が嫌になるのよ。
もう足が棒みたい。
気力だけで足を前へ前へ進める。
息も上がって、苦しい。
風が私の体に当たって響く。
アスファルトを強く蹴る私の足音と、肩を揺らす息と、風の音がごちゃ混ぜになって私の鼓膜に沁み込む。
電柱、民家、コンクリート塀、フェンス、子供たちの声、おばちゃんたちの井戸端会議、ドーナツみたいな雲、それら全てが視界に入っては左右に別れて消えていく。
ああ、なんだかとても寂しい。
この風がこのどうしようもない穴を埋めてくれるかしら。
下り坂、上り坂、階段、曲がり角、それらすべてを通り越して、私は青空が一面に広がる広場へと出た。
落ちてしまわぬように張られたフェンスに一直線に走る、走る。
勢いに身を任せて、フェンスに手をかける。
身を乗り出す。
綺麗すぎる空が視界を占領する。
生きてる。
まだ私は頑張れる。
さっきまで前から吹いていた風が、背中を押すように吹き付ける。
だいじょうぶ、大丈夫。
うまく笑えなくても、うまく気持ちを伝えられなくても、あまり綺麗じゃなくても、うまく泣けなくても、何も取り柄がなくても、私は生きてる、ここに存在してる。
ちゃんとここにいるよ。
我を忘れて、闇雲に走った。
私はまだ大丈夫。
涙はあふれて、しばらく止まりそうにない。
私は、涙を流すことができる。
泣きながら私は笑った、おかしな顔をして笑った。
私は笑える。
追い風が、私の髪を、スカートをなびかせる。
私はまだ大丈夫。
コメント1
関連動画0
ご意見・ご感想
しるる
ご意見・ご感想
いずみしゃーん(/・ω・)/
綺麗ね……表現に透明度を感じるよ
透明ゆえに…見える裏側ってのも……
最後の二行が素敵ね(はーと
2014/10/11 19:48:46