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 恋ってこんなに苦しく、辛いものなのか。
「織姫と彦星も、今の僕と同じ気持ちだったのかな」
自室でポツリと呟く独り言は、誰の耳にも届かずに消えていった。

ーーーーー1人称

 期待と不安が入り混じりながら、僕が高校の門をくぐってから早1ヶ月が過ぎた。
クラス内にも親しい友人ができ、なにもかもが順調。。。という訳にはいかなかった。だからといって、嫌なことがあったわけではない。
僕は同じクラスになった、幼馴染の香織さんに恋をしていた。
香織さんとは幼馴染という間柄ではあるが、年を重ねるにつれて疎遠になっていき、積極的に会話をすることはなかった。
香織さんの事を好きになったのはいつからだろう。もしかしたら保育園の時からずっと好きだったのかもしれない。
この気持ちが恋心だと気付かされたのは、3ヶ月ほど前に行われた中学校の卒業式前の出来事だった。

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 教室はしんみりとした空気が流れ、友達と駄弁って気を紛らわせなければ目が潤んでしまう。感傷的な気分になるのは嫌いではないけれど、男のくせに涙もろいなんて格好悪いし、友達にからかわれるのも恥ずかしい。
いったん気を落ち着かせようと、普段使っている教室に近いトイレではなく、少し離れたあまりみんなが利用しないトイレへと向かった。
 トイレには誰も居なかった。用を足し終え、なんとなくトイレの小さな窓からボーっと外を眺めていた。
「好きですっ!」
僕のいる3階まで届く大きな声が窓の外から聞こえた。卒業シーズンには定番の、卒業する先輩に愛の告白だろうか。趣味が悪いと思いながらも、窓から下を覗いて見てしまう。
そこには、見知らぬ男子と見知った女子が立っていた。思いもよらぬ光景に急いで首を引っ込め、窓を閉めた。
 教室に戻ってからも卒業式の事よりも、香織さんが告白されていた事の方が気になってしかたがなかった。
知り合いが告白を受けていただけの話だとは思えない。卒業式が終わってからも、悶々とした日々を過ごしていた。いつでも香織さんの事が頭から離れず、ふっと気を緩めると昔の思い出がよぎる。
保育園の時はほとんど毎日一緒に遊んでいた。怒られて、泣いて、笑った・・・。
いつしか香織さんが「好き?」と聞かれたような気がする。もしかしたら都合の良い捏造かもしれない。
その時はなんて答えたんだっけか。
「好き、か」
ベッドで寝転がりながら、小さな声で呟いてみる。・・・恥ずかしかった。

ーーーーー簡単に訂正(幼なじみ設定)

高校生活が始まってから早くも1ヶ月と感じる一方、まだ1ヶ月とも思う。男子には話かけられるようにはなったが、女子とお近づきになるにはまだ時間がかかりそうだ。
それは僕だけでなく、クラスの大半の男子が同じ想いだと思う。女子と仲良く談笑しているのは、顔立ちの整った高身長の奴とか、お調子者で男女ともに好かれそう奴だけだった。

 それからまた1ヶ月が経ったある日。
僕は教室で、友人から「どうすれば、女子と自然に会話できるのか」という話を聞かされていた。
くだらない話に思えるが、聞いてみると内容は意外とまとも。しかし、問題はそれを実行に移せない事だ。僕だって口にはしないが、女の子というか、香織さんと昔のように仲良く話したい。
「その考え通りに行動出来るか?女子の前だと絶対にパニックになって、上手く話せないだろ」
僕がそう言い放つと、友人は少しだけ黙ってしまったが「お前もだろ」という友人の返答に、返す言葉がなく、2人とも黙ってしまった。
それと同時にホームルームの始まりを告げるチャイムが鳴り、担任の先生が教室に入ってきた。いつもは出席簿しか持っていないのだが、今日は小さなダンボールを小脇に抱えていた。
「今日は席替えをします」
先生のその言葉に、教室中がざわつく。

クジは出席番号順に引いていき全員が引き終わると、番号が割り振られた場所へと自分の机を持って移動する。
僕の新しい席は、教卓の目の前という誰もが嫌がる席を引き当ててしまった。うんざりしながら席につき、仲の良くなったクラスメイトが近くの席に居ないかと辺りを見回すが、どうやら後ろの方に行ってしまったようだ。
僕は大きな溜め息をつくと、1時限目の授業の準備を始めようと机の中の教科書を探していると、隣から声が聞こえてきた。
「嫌な場所になっちゃったね」
なんだか懐かしい声が聞いた事がある声が聞こえてきた。
「え?」
素っ頓狂な声を出しつつ、声のする右側の席を見る。そこには香織さんが座っていて、こちらに笑顔を向けていた。
「あ、えっ、う、うん」
香織さんの顔を見た瞬間から思考はフリーズし、口から出た言葉はとても小さく、ちゃんと届いたのかも分からない。
何も考えられないまま1時限目のチャイムが鳴り、意識し始めてから初めての会話は終わってしまった。

 その日の帰り道、周りに誰もいない事を確認してからスキップをしてみた。内容はさておき、久しぶりに話せた事は嬉しい。
明日からは僕から積極的に朝の挨拶だけでもしていこう。もしかしたら、そこから会話が広がっていくかもしれない。
その日は家に帰ってからも、綿密な会話シミュレーションを何度となく繰り返した。
※いろいろな考えを巡らせていくと、ついつい都合の良い考えに至ってしまう。
「これが運命ってやつか」
保育園から高校までクラスは違っても、ずっと同じ校舎。
「これを機に告白する事も。。。」

 いつも通りにいつもと違う雰囲気の教室に入り、期待と不安で押しつぶされそうになりながら自分の席へと向かう。香織さんはまだ席には居なかった。
その時は安堵し、緊張が少しだけ和らいだ。しかし、香織さんがいつ来るか分からない不安からずっとソワソワして落ち着く事ができなかった。
そんな状態も10分15分と時間が過ぎていくにつれて、緊張よりも眠気が襲ってきた。昨夜は会話シミュレーションで気分が高揚し、あまり眠れていなかった。
まだ教室にもクラスメイトは数人しかおらず、時計を確認してもホームルームまでにはまだまだ時間があった。
目を閉じているだけでも、楽になるかな。眠る気は全くなかったが、僕は机に突っ伏して目を閉じた。

 「。。。きて」
誰かが僕の肩を叩いている気がする。僕は夢現のまま、重い上体を起こすと目の前には先生がこちらを見ていた。
状況が理解できず、ボーっとしている僕に先生は言った。
「あとで職員室に来なさい」
後ろの方からクスクスと小さな笑い声が聞こえた気がした。首を少しだけ左右に振って周りを確認すると、右側には香織さんが苦笑いを浮かべながらこちらを見ていた。その表情を見た瞬間、僕の脳は一気に覚醒し、全てを理解した。
「す、すみません」
先生の方に向き直り、少しだけ頭を下げて申し訳なさそうに言った。

 ホームルームが終わり、頭の方も平常運転に切り替わった。さっきは焦っていて気付かなかったが、僕を起こしてくれたのは香織さんではないだろうかという、願望が混じった推測をする。
それならお礼を言わないと逆に失礼で、黙っている方が不自然だ。
「あ、あの」
香織さんの席のある右側を向いて、彼女に声をかける。ここまで昨日のシミュレート通りで、問題はここからだ。
「さっき起こしてくれたのは、香織さん?」
これが僕の勘違いだったら最悪で、二度と彼女さんに話しかける事はないだろう。
「うん。とても気持ちよさそうに寝てたけど、ホームルームが始まっても起きないから」
彼女は苦笑いを浮かべながらそう教えてくれた。僕は恥ずかしさから彼女の顔を見る事が出来ず、目線は徐々に下がっていった。
「あ、ありがとう」
これだけはなんとしても言わなければと思い、お礼の言葉を絞り出した。
「どういたしまして。先生には見つかっちゃったけどね」
「それは僕の自業自得だから」
俯きながら香織さんに非はない事を主張する。
「でも、なんで香織”さん”?」
「へっ?」
想いもよらぬ問いかけに、まだ寝ぼけているような変な声が出てしまった。
「同じ名字だから”香織”でいいよ?それに昔はそう呼んでいたよね?」
1時限目のチャイムが鳴ってしまった。会話は遮られてしまったが、内心はチャイムに感謝していた。
少し眠ってスッキリした頭と、香織と会話が出来たという満足感から※晴々とした気持ちで授業の準備を始めた。

 香織の隣の席になってから数週間が経ったある日、担任の先生の一言で天国から地獄へと突き落とされてしまった。
「阿倍一彦くん、後ろの席に代わってもらえる?」
僕の列の一番後ろの席に座っている生徒の目が悪く、今まではなんとか我慢してきたが、やはり黒板がよく見える前の席が良いという事だった。
僕は渋々、席の移動をすると、左隣には友人が居た。
「後ろの席に移動できて良かったな」
友人のその言葉に、僕のイライラは更に増す。
その日の授業中、僕はずっと上の空だった。こんなことなら、香織にもっとアプローチしておけば良かった。そんな後悔だけが、脳内でリフレインする。

 席を移動してから数日が経ち、授業はしっかりと受けている。しかし、授業中も香織の後ろ姿が目に入ると、席が隣だった時の事を思い出してしまう。
今でも朝の挨拶を交わす程度には仲良くなれている。でも、もうそれだけでは満足できない。告白をしよう。
もしも振られてしまっても、きっと友達としては仲良くしてくれる。と思う。
気まずくなって仲良くなれなかったとしても、今の状態とさほど変わらないはずだ。
※僕の決意は固く、頭の中には香織への想いを募らせていた。先生に名指しされているのに気付かないほど、必死になっていた。


 梅雨が明けて、初夏の匂いや日差しを感じる頃。それはつまりもうすぐ夏休みが来てしまうという事だった。
クラスメイトや友人は、高校生として初めての夏休みを心待ちにしているだろう。しかし僕は、夏休みがまだ来てほしくはなかった。
 告白しようと決めたあの日から数週間、僕は何ひとつとして行動を起こせてはいなかった。
期末試験があったからというのは言い訳で、単純に勇気が出なかった。何度も”今日こそは”と思って家を出たが、教室で彼女さんの姿が見えると、途端にその想いは心の奥へと逃げて行ってしまう。
そんな日々が続き、気が付けばもう夏休みは目の前だった。

 今日も告白なんて出来ないだろうと、半ば諦めていた。心の奥底では、僕なんかに告白なんて無理だと思っていたのかもしれない。
そんな落ち込んだ気持ちでお昼ご飯を食べていると、教室の扉が勢いよく開かれ、担任の先生が現れた。何事かと、教室に居たほぼ全員が先生の方を向いた。
「昼飯中に悪い。阿倍一彦くんと安部香織さん、食べ終わってからでいいから職員室に来てください」
こちらの返事の有無も確認せずに、先生は行ってしまった。
しばらく教室はざわついていたが、すぐにいつものお昼風景へと戻っていった。
隣で一緒にお昼を食べていた友人は「なにかやらかしたのか?夏休み前だっていうのに、災難だな」と僕の心配をしているとは思えない表情で、冷やかしてきた。
 残りのお昼ご飯を食べながら、なぜ僕と彼女さんが呼び出されたのかと考えていた。彼女さんは非行をするようには思えないし、僕だって怒られるような悪い事なんてしていない。そんな事をする勇気があれば、告白だってサッと出来るだろう。
食べ終えても理由は分からず、僕はドキドキしながら職員室へと向かった。

 職員室に入ると、彼女さんは既に先生の机の前に立っていた。向こうもこちらに気付いたようで、先生が僕に向かって手招きをする。
「お昼休みに悪いな」

※ここから幼馴染設定↓

先生はいつものようにヘラヘラしながら、口だけで謝る。
「次の授業で使う資料を、教室まで運んでおいてくれないか」
職員室の隅に置かれた2つのダンボール箱を指でさした。
「それじゃあ、よろしくな」
僕たちの返事も聞かずに、先生はその場を立ち去ってしまう。
呆然と立ち尽くしている僕の隣で、彼女は静かに段ボールの方へと向かう。

 段ボールは大きさのわりに重くはなく、女子でも軽々と持ち上げられるほどだった。
職員室をあとにして、段ボールを抱えながら2人で廊下を歩く。会話はなく、別に無理をして話す必要もなかったのだが、焦った僕はとんでもない事を口走ってしまった。
「今日の放課後って時間ある?」
「別に大丈夫だけど、なにか用事?」
彼女からの視線を感じるが、僕の頭は既に真っ白で隣を向く余裕などない。
「あっ、えっとその。。。うん、ちょっと」
「帰ってからじゃ駄目なの?」
「それでもいいけど。。。」
「それじゃあ、帰ったら家に寄るね」
「う、うん」
こうして数年振りに、彼女が僕の家を訪ねてくれることになった。もう後戻りはできない。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

2.高校生編1

6000字超えました・・・・・・。推敲の時に要らない所を省きますm(__)m

閲覧数:180

投稿日:2016/05/21 17:59:02

文字数:5,281文字

カテゴリ:小説

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