・第五章・
「――どういう風の吹き回しですか?」
館を出ようとした二人に、ルカが言った。
いや、正しくはレンに言ったのだろう。その声にレンは立ち止まり、そしてルカのほうへ静かに近づくと、意味がわからないといった表情でルカを見た。
「何が?」
「あなたがこんなことを進んでやるとは思いませんでした」
「こんなことって、リンのこと?それなら、ちょっとした暇つぶしさ。ずっと家から出ないと、気が滅入るでしょ」
「それだけですか?純粋に、それだけのつもりですか?」
「――他に何が?」
「いいえ、別に。ただ、試練に手出しだけはしないように。それと、彼女にあまり肩入れしすぎないようにしてください」
「わかってるよ」
そっけなくそう答えると、レンはルカに背を向けた。
それを見たルカはすこし呆れたようにして見せて、それから何かをメモに書きとめて、レンに渡した。
「メイトの連絡先。彼は家に行ってもほぼいないでしょうから」
「ん、ありがと」
そういってメモを受け取ると、レンはそっと上着のポケットへと忍ばせた。
それからルカはリンのほうへ近寄ると、優しく声をかけた。
「気をつけて、無理をしないようにしてくださいね」
「あ、うん。ありがとう!」
「リン、行こう。早く帰らないと、この辺りは暗くなるのが早いから」
「うん、わかった。じゃあね、ルカさん」
「ルカ、また来るよ」
そう言って二人が館を後にすると、ルカはそっと鉛筆を手にとって、素早く白い紙の上を走らせた。質感と立体感が生まれてくると、それはリンの姿であることが容易に想像できるようになった。
それを書き終えると、乱れた本棚の中から青いファイルを取り出し、まだ何も入っていないページを開いて、そこにリンを描いた紙を滑り込ませた。前のページには、レンと見られる古ぼけた似顔絵が入っていた。
事務所に帰ると、二人は口を利かずに部屋へと戻っていった。
どことなく、声をかけてはいけない気がしていたのだ。
部屋に戻ってドアを閉めると、そのままドアにもたれかかって座り込み、クッションをぐっと抱え込んでレンは目を閉じた。押し寄せてくる記憶の波も、もはや途切れそうになっていた。
色あせていく記憶と、忘れ去られていく記録。少しずつ抹消されていく思い出と、忘れたくない苦しみと、失ってしまった大切な人、守れなかった命。
すべてを忘れていく恐怖を、忘れられのかと思えるほどの喜びを、今までに自分は感じたことがあったのだろうか。今まで、ずっと怯えて生きてきた自分に。
酷く、辛い記憶――。
朝、カイトはレンの部屋のドアを開こうとして、引っかかるものがあることに気がつき、そっと中を覗き込んだ。中にレンの姿はなく、よくみるとドアにもたれて眠っている、レンがいた。
「――レン、朝だよ」
「…うん?ああ、おはよう、カイト。リンは?まだ起きてないか。起こしてくるよ」
「それがね、リン、寝てないみたいなんだ」
「え?」
そういうカイトの言葉に驚いてレンはリンの部屋へと走ると、ドアを懇々と何度かノックして、中にはいった。中ではうつらうつらしている、眠そうなリンがCDを聞いていた。
どうしたのかと問うまでもなく、理由は昨日のルカとの出来事についてだろう。
「リン、寝てないの?」
「……何?どしたの?ああ、レン、おはよう」
「リン、寝た方がいい。今日はどこも行かないで、寝ているといいよ」
その言葉に、リンは答えなかった。
すでに、眠っていたからである。外れたヘッドフォンからは、CDからながれているのであろう、緩やかな音楽が流れていた。
ルカからの連絡によれば、レンが少女をつれて試練に来るだろうということだ。
どうにかして止めてやったほうがいいのだろうか。そろそろ、こんな馬鹿げたことも終わりにする必要があるのだろう、もう、こんな思いをする奴らは増やさないでいい。
青年は、そっと月明かりにカーテンを閉じた。
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ご意見・ご感想
リオン
ご意見・ご感想
こんばんは、覚えてますとも!!お久しぶりですね。
ルカはそこらへんの絵描きよりも早くうまく書ける気がします。
いいなぁ…。
青年はあっしゅ亜種です。
謎いっぱいです!!私もわからなくなってきました!!(←え)
おやすみなさい、また明日も!
2009/09/24 22:17:50