「ルキ、ミクを泣かせたというのは本当ですか?」

 家に帰ってきたルカ姉が、俺を見るなりそう聞いてきた。どうやらあれを誰かに見られていたらしい。あそこは誰でも利用可能で、かつ、常に誰かがいるような場所だ。誰が見ていたとしてもおかしくはない。

「あー、泣かしたっつーか泣かれたっつーか……」
「泣いたのは本当なんですね。
 ……一体何があったのですか?」
「何、って、別に何も……」

 弱々しい俺の返事に、ルカ姉は小さく溜め息を吐いて云った。

「分かりました。云いたくないのならば無理強いはしません。話したくなったら、聞かせてください」
「ん、さんきゅ」
「では、ご飯にしましょうか」

 笑顔を見せ、キッチンに行きかけたルカ姉。ひとつ聞いておきたくて、呼び止めた。

「……なあ、ルカ姉」
「何です?」

 綺麗に整った顔で、まっすぐこちらを見つめて言葉を返す。会話の際の、彼女のいつものスタイル。今はその目を直視できなくて、やや視線を下にずらして応える。

「姉貴はさ、ミクのことどう思ってんの?」
「好きですよ、もちろん」

 同じような姿をしていて、どうしてこうも違うのか。俺はまだ、自分の気持ちをストレートに云うことが出来ない。

「そっか……」

 ルカ姉はしばらく次の言葉を待っていたが、俺が何も云わないのを見て、食事の用意をし始める。といってもルカ姉は重度の料理下手だから、料理そのものは俺が既に作ってある。姉貴はただそれを温めたり皿に盛ったりするだけだ。
 ……そういえば、明日はレコーディングがある。もし彼女に会ったら、その時、俺はいつものように笑えるだろうか。


「……ルカ姉、あのさ、」

 食事が始まって、俺が紡いだ言葉。姉貴はまっすぐ俺を見て、その続きを待っている。
 料理に目をやりながら、それでも手はとめて、俺は言葉を口にする。

「俺、……壊しそうなんだ」
「何を、ですか?」

 ……何を?
 ただ漠然と、俺は考えていただけだった。何を壊してしまいそうなのか、自分のことなのに分かっていなかった。ただ、壊したくないと、そう思っていた。
 視線を上げて、眼前の姉の姿を目に映し出す。そして相手と同じスタイルで、答えた。

「大切なものを」

「大切なのに、それを自分で壊してしまう可能性があるということですか?」
「うん、そう。こんな時、どうすればいいと思う?」
「そうですね……。

 壊したくないのならば、守ればいいのではないですか? あまりよく事情が分かりませんので、大したことは云えませんが。
 しかし、本当に大切なものは何か、きちんと把握することも大切だと思います」

 優しく、にっこりと笑う姉の姿は、弟の俺でも綺麗だと思えた。そしてその言葉は、俺の頭の中を次第にクリアにしていった。

「ありがと、ルカ姉。あとでちゃんと報告するから」
「はい、待っています」

 彼女はまた微笑んで、この話は終わり、食事が再開した。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

巡音の片恋 3

巡音の片恋(めぐりねのかたこい)。


ルキ→ミク。
続編予定中。

「無自覚片恋」がテーマなのですが、しに難しかったです。
最後にはこいつ(=ルキ)馬鹿だ! って思いましたもん。
本当は私の脳みそが、なんだけど。

閲覧数:115

投稿日:2011/08/24 15:07:45

文字数:1,235文字

カテゴリ:小説

オススメ作品

クリップボードにコピーしました