「ならば、そなたは魔導師ではないということか」
「そう、です」
「すまなかった……早合点してしまったようだ」
「いえ……似ていたのなら、仕方ないですよ」
 取り乱していた彼女が落ち着くのを待ってから話をする
 誤解は解けたようだ
「確かによく見れば違うな……それにしてもよく似ている」
 まじまじと見られ、たじたじになってしまう
 女性の、しかもこんな綺麗な人に見られて悪い気はしない
 だが
「申し遅れた。我はサークルスが女王、ルチカだ。名は知っていてくれているだろうか」
「もちろんです、女王様」
 彼女は、この国の女王
 仮にもこの国の民である海理がその名を知らぬわけはない
 もちろん顔も知っている
 こんなに間近に見たことはなかったけれど
「実は急襲を受けてな……急ぎ城へ向かっていたのだ。そこをそなたに似た魔導師に救われた」
「そう、でしたか」
 彼女は、戦争の首謀者
 噂では謎の双子の黄色い魔導師が彼女を惑わしたらしいということだったが……
 それでも、戦争が起こらなければ今も海玖理と一緒にいられたのに
 たとえ魔導師のせいだとしても
 胸に黒い感情が宿る
「そなた達は、街へ行くのか?」
「え、あ、はい」
 ふいに話し掛けられ、思考を中断する
「街まで共にいることを許してはくれないか?」
「え?」
「やはり駄目か?二人の邪魔をするつもりはないのだが……」
 二人?
 隣にいる水菜を見る
 やっと理解した
「あ、あの――」
「いえ、別に彼とは何でもないので」
 言葉を遮り、水菜が笑顔で否定した
 何でだろう?
 なんだか複雑な気分だ
「女王様、私達、いろいろと知りたいことがあります」
「ん?ふむ、なるほど……わかった。何でも聞くが良い。そのかわり、我の供をせよ」
「はい。良いよね?カイリ」
「え、あ、うん」
 なんだかわからないうちに話が進んでいた
 どうやら何かを聞く代わりに彼女の護衛をすることになったらしい
「女王様、もう少し休まれますか?」
「いや、先程そなたが施してくれた術が効いているからな。出発しよう」
 颯爽と歩きだす女王に聞こえないようにそっと水菜に話し掛ける
「ミズナが魔導師だなんて初耳なんだけど」
「魔導師だなんて大げさよ。魔道具を持ってるから、簡単な術が使えるだけ」
「そうなんだ?でも、一体どういうつもりなんだ?」
「どういうって、彼女のこと?」
 言いながら前方を見る
 桃色の彼女は辺りを見渡しながら、苦悶の表情を浮かべていた
「知りたいことがあったからね。カイリこそ本当に良かったの?事実はどうあれ、女王様は戦争の首謀者だよ」
 その言葉に、微苦笑を浮かべる
「そうだね。恨んでるっていうのかな?この感情に名前をつけられないけど、でも良い気はしてない。だけど、こうやって彼女を見ていると毒気を抜かれてる自分もいるんだ」
「まだ出会って間もないのに?」
 茶化すように言う少女に、苦い顔をする
「そういう意味じゃなくて……えっと、僕もまだよくわかってないんだ。だからもう少し一緒にいて、それでも許せなかったらその時は、行動に移すよ」
「……そう、わかった。私も、やることがあるから」
「やること?」
「うん……」
 そう言ったきり口を閉ざした少女に、それ以上訊ねることはしなかった
 やがて分かれ道に出る
 どちらを進むか相談した
「こっちの獣道の方が安全ですよ」
「しかし、この見通しの良い大きな道の方が距離は短いのだろう?」
「……よくご存知で」
「うむ。そなた達には悪いが、出来るだけ早く城へ行きたい。見えぬだろうが、これでも急いでいるつもりでな」
 確かに見えない
 だが心は急いているのだろう
 元より女王の意見だ
 従うより他にない
「わかりました。この大きな道を行きましょう」
「すまない。感謝する」
 道も決まり、歩きだそうとした三人だったが
「サークルス国の女王だな?」
「少しお相手願おうか」
「……どうやら、道を開けてはもらえないようだな」
 三人は突如現れた男達に囲まれてしまった

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碧い蝶―小説版― 35話 複雑な気持ち

前話の続き
魔導師と間違えられた青年だったが…

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投稿日:2012/07/08 12:31:55

文字数:1,682文字

カテゴリ:小説

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