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 昨夜、夢を見ました。
 自分が大きな龍になり、大空を駆け巡る夢です。
 もちろん色付きの夢だったので、
 空は遠くまで澄み切った蒼でした。
 いつもは、戦いに明け暮れる毎日なので、
 その夢の中では自由になれた気がします。

 
 この世は戦いです。
 いつも戦っているんです。
 大変です。
 一応、それなりの地位にいるとは思うんですが、
 実際はどれほどの地位なのかわかりません。
 他の方達のように、わかりやすいわけでもなく、
 しかも私の場合、ピンで行動しますので。
 ええ、一人でということです。
 責任があるのかないのか、
 大きいのか小さいのかはわかりませんが。
 

 私と似たような境遇を持つものがもう一人います。
 彼とは、まるで正反対の存在ではありますが。
 彼と並ぶことはほとんどありません。
 彼は、けっこう遠くにいますので。


 つい先日、彼の右隣に腰掛ける機会があったので、
 短い間でしたが、少しだけお話をしました。
 そしたらこんなことを言われたんです。


 「君のように縦横無尽に世界を歩めたらどんなに幸せか」


 彼は、悩みを抱えているようでした。
 聞くと、どうしても前に進んだりする時に斜に構えてしまうらしく、
 いつも人を斜めから見てしまい、
 真っ向から挑んだことがないそうです。


 確かに、戦いというこの世を舞台にしているものにとって、
 彼のようにいわゆる「不意を討つ」能力は必要不可欠ではあるのですが、
 いつもいつも「不意を討つ」ことしか出来ない彼は、
 それが、自己嫌悪の原因になる時があるそうです。
 こうも言ってました。


 「自分は卑怯者なんだ。
  不意を討つことしか出来ないんだ。
  何処に行っても「角」が立つような行動しか出来ない」


 それを聞いて私は、形は違えど、似たような悩みを持つものに、
 出逢った気がしたのです。
 私も彼に悩みを打ち明けました。
 縦横無尽に走り回る私の悩みです。


 「私は、確かに縦横無尽に走れる。
  でも、それはそれで大変。
  正面きって突っ込んでいけば、引かれてしまうし。
  かといって後ろからは卑怯。
  横からだと、どこか中途半端な気がするし。
  斜めから、さりげなく向かうことに憧れる」


 そう言うと、彼はどこか安心したような、
 それでいて、どこか諦めに似た表情を見せました。

 そうなんです。
 誰もが完璧でなく、自分が持たない何かに憧れます。
 それを羨ましいと思ってしまうのも世の常です。
 しかし、同時に誰かに憧れられる何かを持っています。
 私達は心のどこかで信じています。
 いえ、知っているんです。

 私達の裏側には、
 私達の奥底には、
 その可能性を既に持ち合わせているのです。
 いずれ、その時が来れば、
 まるで人が変わったように、
 今まで憧れていたことも僅かではありますが、
 出来るようになるんです。
 きっと。

 そんな話をしている矢先でした。
 彼が、ふと前を見て、こう言ったんです。

 「行けるとこまで行ってみよう」

 そういうと、
 彼は突然、未だ知らぬ世界の果てまで単身進んでいきました。
 わき目も振らず。
 最初から、わき目を振ってはいるのですが。
 そうしてつき進んだ彼は、
 その瞬間、
 綺麗な「馬」に変わりました。
 あの輝いた彼の姿は今も忘れ得ません。

 そして、
 真っ直ぐに前を向いて、
 正々堂々と、
 一歩その足を踏み出そうとした
 その時、
 彼の姿は消えてしまいました。
 未だ知らなかった向こうの世界で、
 彼の夢を打ち砕いたのは、
 私と同じ名を持つ「車」でした。
 「車」が横から「飛」び出してきたのです。


 戦いとは無情なものです。
 しかし、それがこの世界です。


 彼は、その可能性を目に見える形にまではしました。
 しかし、その一歩は踏み出せずに終わりました。


 でも、彼は満足だったと思います。
 一度でも、夢見た姿になれたから。
 次こそは、一歩踏み出して欲しい。
 次こそは、一歩踏み出させてあげて欲しい。
 そのように、私は、貴方に望みます。


 私達の華は、貴方が握っています。
 彼の華も、
 私の華も、
 他の猛者たちの華も、
 我々の「王」の華さえも。
 貴方の一手に。


 巧くなって欲しい。
 そして、
 私は「龍」になりたい。
















 「飛車」より主人へ願いを込めて

ライセンス

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龍になりたい

昔、小説書いてた頃の一作です^^

閲覧数:163

投稿日:2014/08/05 22:33:52

文字数:1,896文字

カテゴリ:小説

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